現代乳酸菌科学

現代乳酸菌科学という2015年12月に出たばかりの本を読みました。副題に「未病・予防医学への挑戦」とあり、内容はやさしいわけではないですが、私のような専門知識のない素人読者にも読みやすく、しかも新しい話題が多くて面白い本でした。コンパクトな本で本文は130ページほどですが、とてもまとまっている本だと思います。

この本を足がかりにして、ネットを探検するといろいろな話題につながると思います。

本屋さんの店頭に平積みしているような種類の本ではないですが、発酵に興味のある方にはおすすめできます。

著者の杉山政則氏は広島大学の先生で、インタビュー記事がありました。

乳酸菌が体によいというのは昔からよく知られたことです。しかし、乳酸菌について全く知らなかったこと、何となく疑問に思っていたこと、食品メーカーの取り組みなど参考になることが多く、読んでいてためになったことを書いておきます。

乳酸菌は乳酸をつくる菌の総称

乳酸菌は糖を乳酸に分解する菌の総称です。正式な用語ではありません。大きく分けて桿菌と球菌があります。桿菌とは、形が細長い棒状または円筒状になっている菌で、球菌とは、文字通り形が球状になっている菌のことをいいます。

よく見かけるLG21のLGがLactbacillus gaserriであり、EC-12のECがEnterococcus faecalisであると初めて知りました。Lactobacillusは桿菌のラクトバチルス属であり、Enterococcusは球菌のエンテロコッカス属です。エンテロコッカスは、エンテロ(腸内の)コッカス(球菌)という意味です。

今はヨーグルトのパッケージに乳酸菌の記号が記載されているので、スーパーに行ってパッケージをあれこれ見るのが楽しみになりました。

乳酸菌は生きているのがよいのか

昔から「乳酸菌が生きている」というCMをよく見ていたので、ヨーグルトを食べると、乳酸菌が腸の中で増えて腸内細菌叢をいわゆる善玉菌優位にしてくれるのだと思っていました。ただ、乳酸菌を飲んでも、胃の中は強酸性なので、そこで死んでしまうから無意味だという話も知っています。

しかし、ヨーグルトをたくさん食べるとお腹の調子がよくなるのは事実です。生きている乳酸菌を飲んでいるからよいのか、乳酸菌が死んでしまっても意味があるのかどっちなんでしょう?

有名なメチニコフの「不老長寿」説にヨーグルトと乳酸菌が登場します。しかし、ヨーグルトの乳酸菌が腸内に定着できないことが発見されて、この説は下火になります。

その後、嫌気性細菌のビフィズス菌の研究が盛んになり、乳酸菌を食べたり飲んだり口から入れると、ビフィズス菌の増殖に役に立つことが分かりました。そこまでは何となく聞いたことがあるような気がします。

しかし、これでは生きている乳酸菌に意味があるのか、生きていても死んだ乳酸菌でも意味があるのか分かりません。

この本には、腸内細菌といえば必ず名前が出てくる光岡知足先生の実験がでていました。

実験は、EC-12(エンテロコッカス・フェカリス菌)について行われました。エンテロコッカス・フェカリス菌は、人の腸からとった菌です。EC-12は、ネットで調べると久光製薬やDHAが商品を出していました。

光岡先生の実験は、EC-12の死菌を飲んで排便改善の効果と腸内細菌叢の中のビフィズス菌が増加したことを確かめ、さらに、生きた乳酸菌とビフィズス菌を飲んで、糞便中の両細菌数を調べ、それらが増殖しなかったことを確かめたものでした。

この実験で、排便回数や整腸作用には摂取する乳酸菌やビフィズス菌が必ずしも生きている必要がないという結論になりました。

しかし、著者の杉山先生は、死菌よりもやはり生菌の方が優れていると考えられているようです。

植物乳酸菌は強い

杉山先生は、梨から乳酸菌の分離に成功し、Lactbacillus plantarum SN35Nと名付けました。

乳や腸の中に生きている乳酸菌を動物乳酸菌とし、植物の表面に生息する乳酸菌を植物乳酸菌とします。動物乳酸菌は、栄養豊富な環境に生きていますが、植物乳酸菌の生息する環境は、植物の傷口からの浸出液を摂取するような環境であり、なかなか過酷です。

そのため、植物乳酸菌の方が強いのではないかと動物乳酸菌と植物乳酸菌の生存率の実験をされました。

実験する環境は、人工胃液(pH3.0とpH2.5)と人工胆汁液の2種類です。それぞれ5.5時間精置して調べました。口から入れたら生き残れるのかどうかという実験です。

その結果は、植物乳酸菌は人口胃液pH2.5の環境でもほとんど死なないのに対して、一般的にヨーグルトに使われる動物乳酸菌は生き残れませんでした。

また、人口胆汁液では、0.3%の濃度になると動物乳酸菌はほとんど生き残れなかったのに対し、植物乳酸菌は、十分に生き残っていました。

この結果から、植物乳酸菌は、生きて腸まで到達しやすいという結果が分かりました。

玄米にも乳酸菌

乳酸菌は籾殻や玄米にもついているようです。意外な気がしましたが、漬け物は乳酸発酵でした。ぬか漬けのぬか床には、乳酸菌がたくさんいるのです。改めて玄米に乳酸菌がついていると知ると、漬け物が乳酸発酵するということにつながります。

こうやって普段断片的に知っていることがつながるとちょっと嬉しいです。

著者の研究では、米についているのはエンテロコッカス属が多く、東日本と西日本では違いがあり、東日本ではペディオコッカス属(Pediococcus)が多く、西日本ではエンテロコッカス属が多かったそうです。

エンテロコッカス属のエンテロとは「腸内の」という意味で、コッカスは球菌。腸内の球菌という意味です。

メタゲノム解析

以前、といってももう10年くらい前になりますが、土壌微生物学の本を探して読んでいたことがあります。探さなければならないくらいあまり本がなかったのです。

私は農業に興味があります。

その時に分かったのは、微生物の99%以上は培養ができないから性質が分からない。土壌中に土壌菌がどのくらいいるのかも分からないという事実でした。

この頃の分析方法は、微生物群を一度増やして、そこから分離、一つずつを培養して単離するという手段でした。よく今でもテレビにも出て来ます。シャーレで寒天培養してコロニーを作らせる方法です。

ところが、現在はヒトゲノムもすでに解読された世の中です。細菌もDNA配列が解析されゲノム解析も急速に進んでいるそうです。DNAの配列が分かれば、細菌が何者であるか特定できるようになってきているそうです。

すると、微生物を培養しなくても、どんなことが行われているのか知ることができるようになってきました。メタゲノム解析というのだそうです。

その方法は、たとえば腸内細菌叢の微生物がもつ核酸、遺伝子、DNAのすべてを抽出、収集し、それらの塩基配列を全て調べれば、微生物の集合体全体がもつ遺伝子群が分かる。個々の核酸や遺伝子がどの微生物由来かはわからないものの、全体として何がどのように代謝されるか物質変化の流れが分かるようになります。

すごいですね。読んでいて、きっとこれから土壌微生物学も進んでいくだろうなと思いました。

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