酵素栄養学の本、医者も知らない酵素の力を読んだ

以前から食物酵素とか潜在酵素などを聞いたり読んだりするたびに嫌な気分になっていました。これは、今でもあまり変わりません。

特に酵素サプリや酵素ドリンク関係の記事を読むと、必ずといってよいほど、この話が出て来ます。消化酵素を節約すると体内酵素が増えるんだという話が商売に使われていて、正直、うんざりします。

野菜と果物

医者も知らない酵素の力を読みました。

図書館に行くと酵素栄養学をもとにした二番煎じの本はたくさんありますが、根拠が分からないので借りて読む価値を感じないのです。

酵素栄養学の本家本元の人が書いた本を探して何とか借りることができました。エドワード・ハウエルという人が酵素栄養学の提唱者なのだそうです。

普段、批判的なことは書かないようにしています。この本も内容が全て面白くないわけではなく、ローフード(生食をすすめる)についての趣味の本だと思って読めばなかなか面白いと思います。

しかし、酵素について、教科書にも出てこない(認められていない)ような内容があたかも事実であるかのように広告に使われているので、一つ記事を書いておこうと思いました。

食物酵素と体外酵素

最初によく出てくる食物酵素と体外酵素を書いておきましょう。

食物酵素はすべての食物、つまりすべての動植物の中に含まれている酵素であり、体外酵素とは、人体内の腸内細菌などの細菌がつくっていて、これを人間がもらって利用している酵素である。

消化酵素や代謝酵素は人体が自分でつくっているのに対し、食物酵素(これも体外酵素の一種ではある)や体外酵素は人間が外からもらうものでこう呼んでいる。

酵素栄養学の基本は、食物酵素と体外酵素です。外から酵素をとると、消化が容易に行われるようになり、自分で作る消化酵素が節約できるというのが考えのベースにあります。

食物酵素は、加熱すると壊れてしまうので、できるだけ生で食べることがすすめられています。

潜在酵素といわれる消化酵素や、その他生命活動に使われる酵素が節約できると、病気になることを避けたり、寿命を延ばすことにつながると考えられています。

酵素栄養学と書きましたが、化学、物理学、数学の「学」と違って、多くの人たちによって実験・検証されて認められた○×学ではないので、念のため。

酵素については、小学校、中学校、高校で習います。消化酵素は教科書にでてきますが、食物酵素と体外酵素や潜在酵素は、化学や生物、生化学の本にも出てこないことばです。

食物酵素と体外酵素や潜在酵素ということばが、分かりきった、自明なもののように扱われている記事を読むとうんざりするのはそのためです。

読んで面白かった話

しかし、読んでみると、この本には面白い話が結構出て来ます。もちろん、生ものについての話です。

本を読んでいくと、確かに、植物酵素や動物の消化酵素、微生物がつくる酵素を食事の合間に飲んだ方がよいと書かれていました。

なるほど、これを読めば、飲もうかという気になるし、酵素会社はセールスに使うでしょう。ただし、その前に食生活を見直す方がよいと思いますよ。

生牛乳療法

1930年頃に、アメリカでは牛乳が加熱か低温殺菌されるようになったそうです。それまで生牛乳、生バター療法というのがあったそうです。

昔は私もカロリーの90%以上を牛乳で摂るという、生牛乳療法を実行している患者を知っていたもので、200人ほどのそういう患者を観察したことがある。

この食事療法は、だいたい1週間から2か月続けるが、患者は必ず、正真正銘の生牛乳を使えと指示される。

しかし、多くの患者はこれを実行するのが難しく、殺菌牛乳を使う人もいる。

そして、私は生牛乳の患者と殺菌牛乳の患者に起こる違いを観察することができた。

殺菌牛乳の患者はしばしば鼻やのどが詰まったりするトラブルが起きるが、生牛乳の患者では起きなかった。

大腸炎も生牛乳だとよくなった。皮膚のトラブルも生牛乳でしばしば消えたが、殺菌牛乳にはそういう効果はなかった。

生牛乳とはどんな味がするのでしょうね。殺菌した牛乳しか飲んだことがありませんから分かりません。

また、この方は、ヨーグルトについても殺菌した牛乳でつくったものはあまり効果がないといっています。生牛乳でヨーグルトを作るとどんなのができるのか、興味はあります。

殺菌しない生牛乳は買えます

ちなみに、ネットで検索するとあるもんですねえ。北海道、帯広の少し南にある河西郡中札内村の想いやりファームで生産されているようです。都内の店舗でも常時あるのかどうか分かりませんが、取り扱いになっていました。

これを使ってヨーグルトを作るのも面白そうです。

病気を知らないイヌイット

イヌイットの話はよく出て来ます。生で食べていた方がずっと健康で病気知らずでいられるという話です。

肉を食べるグリーンランドのイヌイットは食物は生で食べ、心臓病、腎臓病、壊血病、くる病などの傾向がないのに、肉を調理し、乾燥食品、缶詰め、調理済み食品を多用するラブラドルのイヌイットは、壊血病やくる病になりやすいと指摘した。

グリーンランドのイヌイットの食物は鯨、セイウチ、アザラシ、トナカイ、北極ウサギ、北極熊、狐、ライチョウ、その他多くの海カモメ、カモメ、ガン、アヒルなどの鳥、それと魚などで、これを生あるいはできるだけ生で食べる。

さらに、高脂肪の食事をとっているにも関わらず、尿に糖はなく、ケトン体もほとんど観察されませんでした。

ブドウ糖が枯渇した状態で脂肪酸が燃焼するとき、肝臓ではケトン体という物質ができます。このケトン体は脳にエネルギー源を供給するために肝臓で作られる物質です。

ケトン体は、脂肪から脂肪酸が離れて短く切られて行き、からだのエネルギーをつくるための燃料となるアセチルCoAから作られます。

少し前に低炭水化物ダイエットが流行りましたが、炭水化物をとらないで自分のからだについた脂肪を燃やすと、ケトン体ができます。

イヌイットの場合、炭水化物を食べないので、いつも脂肪をエネルギー源にしています。

銀座東京クリニックさんのケトン体・ケトン食とはに詳しい説明が出ています。

さらに続きます。

プライスは虫歯の発生を調べるために、アラスカのイヌイットを訪ねた。そして、文明と接触して現代化されているイヌイットでは歯の数1000本あたり130本の虫歯があるのに、原始的なイヌイットでは0.9本だという調査結果になった。

アクラビクに近い北部カナダのイヌイットの中で医者をしているアークハルトは、この地方で7年間臨床医をしている間に、1人のガン患者も診たことがなかったという。

胃や十二指腸の潰瘍、急性または慢性の腎炎、壊血病などもきわめて稀だった。歯もきわめて上々の状態であった。

リュウマチ熱、喘息、普通のカゼも稀だった。7年間行った何千件もの尿検査の結果もすべてよく、1件の糖尿もなかった。

魚が彼らの食事の中心で、これも彼らは完全な生か、とても”ハイ”(自己分解した)な状態にしたものを食べていた。

肉を食べる場合の調理の方法がでていました。

肉の煮方は、レモンからグレープフルーツぐらいまで、いろいろな大きさの凍った肉の塊を水に入れ弱い火にかけ、沸騰の始まりまでにるだけだという。

このやり方だと肉の内部までは、酵素が破壊される温度まで熱くならないだろう。

新鮮なものをあまり加工しないで食べるのがからだにいい。日本人なら刺身ですね。漁師さんや漁港のそばに住んでいる人なら、毎日、新鮮な刺身が食べられると思います。

もう、食べたくないと思うまで、毎日毎日刺身を食べる生活をしてみたいなと思いました。

ネズミに加熱した食物を与えた実験

食べ物の実験ではネズミに人の食物を与えた実験の話が出ていました。

スコットランド、アバーディンのロウエット研究所のオアーらは、2年半にわたって多数のネズミを飼い、餌は人間の食物と同じものを与えた。

この中には人間が食べるごく普通の25種類の加熱した食物が含まれていた。この他に、別に多数のネズミも飼い、こちらには生の野菜や生牛乳をネズミが好きなだけ与えた。

人間と同じ食物のネズミ1211匹、生野菜と生牛乳を補ったネズミ1706匹を飼った。

人間と同じ餌のネズミは血液中のグロブリンのレベルが低く、繁殖能力も少し低下していて感染症にかかりやすかった。

また、行動と毛の状態で測定して、臨床的にも劣った状態だった。そして死後の解剖で、腸炎、肺炎、貧血、心膜炎が多く見つかった。

この実験の結論は、「人間もそうとう多くの人が、食事中の栄養が最適状態とは、はるかにかけ離れている」ということです。

さらに、マッケイらは、人工的な餌に、ビタミン、ミネラルを補いながらも酵素は不足している餌でネズミを飼う実験を行いました。

酵素が不足するというのは、生ではないということです。

結果、ガンや、肺、腎臓、生殖器などの病気がたくさん出るのを観察しました。

この実験は4年間続けたが、多くの病気が出た。これらの病気は、普通のネズミの集団では稀にしか出ない病気だった。

ネズミの実験では普通、ネズミの一生の真ん中頃を過ぎた時には実験対象から外してしまうが、この実験ではネズミの老年まで飼い続けたためであった。

早く成長するネズミでは、毛がずっと早く荒れるのが目立った。実験の進行につれて、多くのネズミが眼が見えなくなり、大ざっぱにいうと2歳を超えたネズミの少なくとも半数がそうなった。

年取ったネズミは尿道に病気が増え、血尿がしばしばだった。

こういう話を読むと、自分の食事を見直そうと思います。生ものをあまり食べなくなったのは、保存性の高い穀物を調理して食べるようになったからだと思います。

米も麦も、そして豆類も収穫して乾燥させれば長く保存でき、煮たり粉に挽いて水で練って焼いたりすることで食べられます。腹持ちがよいからお腹いっぱいになります。

生ものを増やしてみようと素直に思えます。

酵素療法とは?

この本を読んでいて、最も読みにくく、また理解不能なのが酵素で治す「酵素医学」から始まる部分でした。159ページから始まります。

これは体に不足している酵素を酵素剤などで直接補って病気を治す方法として紹介されています。経験を頼りに行われてきたものだと書かれていますが、経験の羅列だけで、裏付けの理論も説明もありません。

ここまでの話で、すい臓以外でも酵素は作られ分泌されるが、すい臓が酵素の宝庫であるということになっています。

バスラー、ミリケン、ウォルフェは、狭心症に動物の膵臓を食べさせたり、膵臓抽出物を摂らせたら、いい結果が上がったと報告している。

ここから、このような記述が続きます。

ウォーカーは、四人の変形性関節炎患者に、澱粉質なしの食事と、一日にパンクレアチン(消化酵素の一つ)を三〇グレーン(一グレーンは六四・八ミリグラム)補う治療法で顕著な効果を上げたといっている。

パンクレアチンは、ブタやウシなどの膵臓からつくる酵素製剤で、消化剤として使われるものだそうです。何種類かの消化酵素が入っているそうです。

たとえば、脂肪とそれを分解するリパーゼについてこんな書き方をされています。少々長いですが。読みやすくするため、改行を入れます。

動物の組織の脂肪、乳脂、オリーブの実には、かなりの量のリパーゼが含まれていることは多くの研究者が指摘していて、これらを加熱調理せずに検査してみれば、それが分かる。

これに対し、肥満者の体脂肪の中のリパーゼは減っている。デラッカは、肥満者の脂肪組織や、脂肪腫の中のリパーゼは、正常な量より少なくなっているのを発見した。

ネプリアキンとプレジンは、アザラシの生の細胞には、鱈の肝油と似た性質があるといっている。二人はこれをウサギ、ネズミ、モルモットに、五~九か月食べさせたところ、血液の造成に効果があった。

そして、血液や臓器中のリパーゼは、少しだが着実かつ確実に増えたといっている。

これらがつながっているのです。ひょっとすると翻訳に問題があるのかもしれませんが、一体何をいいたくて書いているのか意味不明です。

こういう本ですから、内容に関しては正確さに欠けるものだということを書いておきます。

酵素サプリや酵素ドリンクを買う方は、酵素栄養学をベースに広告を作っているような会社には少し注意すべきかもしれません。きちんとした知識を持っていない可能性があります。

酵素栄養学は、酵素を飲まなければと思うためでなく、生ものをもっと食べてみようとすすめていると思う程度にしておく

私は子供の頃から生野菜が好きです。

キャベツの千切りも、香りの強いピーマンもセロリもパセリも生で食べるのが好きです。香りの強いものを口の中に入れると、香りが鼻から抜けていく感じが好きです。

大根おろしを大量にすり下ろしてしょう油を少したらして辛くして食べるのも好きです。独特の清涼感があり、からだによいだろうなと思います。

最近は、魚嫌いの若者が多いと聞いていますが、刺身も好きです。妻の実家は漁港のそばなので、めかじきの刺身まで食べられます。刺身のつまの大根まできれいに食べてしまいます。

赤身の刺身をたくさん食べた翌日は、確かに、体が温まっている感じがするときがあります。

生ものの割合を食事の中で増やすとからだによいだろうなと思います。

医者も知らない酵素の力を読むと、上で紹介したような実験の話はかなり面白く読めます。ローフード(なまもの)の啓発本としてなら読めます。

しかし、酵素療法に関しては、まったく心を動かされるような内容はありません。

まとめ

たくさんの人の検証を受けていない酵素栄養学は、今のところは好きな方が信奉するものなのだと思います。あくまでも趣味の本です。食物酵素をとると潜在酵素が余分に働けるようになるなんて生化学の本を開いてもどこにも出て来ません。

私はこの本を下敷きに説明をしている酵素商品は、まったく信頼しません。

植物酵素について詳しくお知りになりたい方は、まず、酵素について知りたいならまず最初にこのページから読んでほしいをお読みください。

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