青カビからペニシリンが生まれた

青カビはとても身近にあります。特有のにおいがして毒々しい青色になります。青カビからペニシリンができて、他の細菌を殺してしまうのですから強い作用をもつのでしょう。ところが、青カビはチーズ造りにも使われます。青カビって毒なのか薬なのか?調べてみましょう。

トコトンやさしい発酵の本を読みました。この本は発酵について67個の話題を見開き2ページ、図入りで読ませてくれるなかなか楽しい本です。編者が協和発酵株式会社なので、話題が理系寄りの内容が多いところがよいです。

青カビは、アオカビ属 (Penicillium)と属名にアオカビがついていますが、カビとは分類上の名称ではなく、私たちが、あれがカビだと分かる姿を指すことばなんですね。一般名詞みたいなものです。初めて知りました。カビは一般的には糸状菌に分類されます。

もちろん、属の下に「種」と「株」という分類がある通り、青カビは1種類ではありません。いろいろな種類があります。

青カビ

青カビからペニシリン

ペニシリンは世界で初めて発見された抗生物質です。1929年のことです。イギリスのフレミングが、ペトリ皿の寒天培地に生やした細菌の中に混入した青カビの周りに細菌が生育していないことに気がついて、細菌の生育を抑える成分を青カビ(Penicillium)がつくっているのではないかと考えました。

そこでこの物質は、菌の名前にちなんでペニシリンと名付けられました。もともとの青カビは、ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)という種類です。

ペニシリンの作用は、細菌が細胞壁をつくるのを阻害します。そのために弱くなった細菌は溶菌を起こして死滅してしまうのです。動物であるヒトの細胞にはもともと細胞壁がありませんから、ヒトに対する毒性は低いのが特徴でした。

フレミングはペニシリンの精製に成功しませんでしたが、1940年にフローリー、チェインらが精製し、効果が確かめられました。このあたりのことは、薬はなぜ効かなくなるかに書かれていました。

ペニシリンは非常に不安定で保存がきかず、当時、フレミングの周囲には、ペニシリンを精製、濃縮できる学者はいなかった。

オクスフォードのグループ、フローリーやチェインらが10年後にペニシリンを世に出すことができたのは、チェインがちょうどそのころ血漿などの保存に用いられていた凍結乾燥法(フリーズドライ)を応用したのと、米国の政府や製薬会社を口説いて協力させたフローリーの政治力によったのである。

その後大量生産が可能となり、第二次世界大戦中、多くの傷病兵を感染症から救ったといわれています。

このあたりのことも薬はなぜ効かなくなるかにもう少し詳しく書かれていました。

再発見されたペニシリンの動物実験成績、臨床での効果は驚異的であった。副作用がほとんどなく、化膿性疾患によく効いた。

時はまさに1940年代、第二次世界大戦のさなかで、戦傷者に対する需要は莫大だった。

軍も政府も一体になって、大量生産のための改良が進められ、ついにはフレミングの得た培養液より1万倍も力価が高い治療用溶液を得ることができるようになったのである。

日本でも漏れ伝わった情報でペニシリンの有効性を知り、独自の開発が進められ、第二次世界大戦後3年でペニシリンを国産品だけで自給できるようになったそうです。

微生物は普段抗生物質をつくらない

私のような文系人間は、青カビを大量に培養したらペニシリンがたくさんできるのだろうと単純に思ってしまうのですが、抗生物質を生産してもらうための培養方法には工夫が必要みたいです。

生物革命とバクテリアを読むと、抗生物質をつくる微生物は、ふつうに生育しているときは、抗生物質をつくったりしないそうです。

増殖が終末を迎える時期、つまり増えすぎてもう限界という時期や、飢餓ストレスを与えられた時だけ抗生物質をつくるそうです。そのため、微生物に抗生物質を生産してもらうときは、ストレスをかけながら培養することが必要なのだそうです。

ペニシリン以降、何百種類という抗生物質が微生物から見いだされ、また合成されてきましたが、抗生物質をつくる微生物は、カビの仲間ではペニシリウム(Penicillium)やセファロスポリウム(Cephalosporium)といった糸状菌の一部と、細菌では放線菌のうちの特定のグループ、特にストレプトマイセス属(Streptomyces)にほぼ限られているようです。

放線菌が抗生物質をつくるのは、他の微生物の生育を阻止して自分の生育に有利な環境にするためと考えられています。

以前、微生物とともに-ストレプトマイシンは土の中からで土壌菌と放線菌の関係について書きました。一般的に土壌菌は、土壌の深さによって生存数がかなり変わるそうですが、放線菌に関しては、あまり深さの影響を受けず、どこでも見つけられるしぶとい強さを持っているそうです。放線菌は強い菌なのかもしれません。

ペニシリンの作用機序

ペニシリンがどのように効くのか。薬物が生体に何らかの効果を及ぼす仕組み、メカニズムなどを意味することばは作用機序と呼ばれます。

ペニシリンの一般式は下図のようになります。Rは炭化水素のある構造を表しています。Rは元素ではないのでご注意下さい。

ペニシリンは四角と五角の環状構造をしています。四角構造の方は、βラクタム環と呼ばれ、そこに抗菌薬としての活性部分があります。

ペニシリン

ペニシリン

病原菌は、もちろん細胞です。細胞は細胞膜に囲まれていますが、さらにその外側に細胞壁があります。細胞壁があるのは、植物と細菌だけです。

細胞壁をつくらせない

細胞壁は固い構造で、物理的な外力から細胞を保護しています。細胞内の物質密度は濃く、そのため浸透圧が高くなります。

浸透圧(しんとうあつ、英語:osmotic pressure)は物理化学の用語である。半透膜を挟んで液面の高さが同じ、溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される。この圧を溶液の浸透圧という(岩波理化学辞典・同生物学辞典等)。(出典

つまり、細胞の中に水がどんどん入ってこようとするのです。そのままにしておくとふくらんで破裂するので、細胞内の圧力を高めておく必要があります。

細胞壁はそのふくらみを抑える働きをもちます。

黄色ブドウ球菌では、内部の圧力は20気圧にもなりますが、厚い細胞壁がパンクを防いでいます。

細胞壁をつくるのは、植物ではセルロースといわれる糖のつながりによるものですが、細菌では、糖鎖とペプチド鎖(アミノ酸のつながり)による網目構造をしています。

ペニシリンはこの細胞壁の合成過程を阻害するので、細菌は高い浸透圧に耐えられず破裂して死滅します。

青カビに毒はないのか?

青カビには抗生物質をつくる力があります。しかし、青カビの生えたみかんやパンやお餅は食べたいと思いません。青カビには毒はないのでしょうか?

先に、答えを書きましょう。青カビの中には毒をつくるものがいます。カビがつくる毒の総称はマイコトキシンと呼ばれます。

カビ毒が知られているのは、コウジカビ、アオカビ、アカカビの3属だそうです。アカカビはフザリウム属の菌だそうで、土壌菌の中にもいるありふれた菌です。

人類とカビの歴史に書かれていましたが、青カビの毒を知る特徴的な事件として、黄変米(おうへんまい)事件がありました。

第二次大戦後の食糧難の中、外国から米が輸入され配給されていたのですが、1951年12月にビルマ(現 ミャンマー)より輸入された米のうち約1/3が黄変米である事が判明し、配給する/しないをめぐって大問題になったのでした。

黄変米とは、黄色く変色したお米のことです。青カビは青色や緑色の胞子をつくりますが、黄色や赤色の色素もつくります。お米の変色は黄色の色素によるものです。

雨期に生産された米は、貯蔵や輸送中の粗悪な条件も重なって、深刻なカビ汚染に見舞われて日本に到着することがあった。

カビ汚染した米は、黄色に変色するだけでなく、時には苦みやカビ臭も伴っていた。

なお、主な原因菌であるペニシリウム(P)イスランディクムやPシトリナムはやや低い水分活性条件でも生長し、少し湿った米などの貯蔵穀物にも生えるカビだった。

そのうえ、それらのアオカビは様々なカビ毒を作り出すことがわかったのである。カビ毒の中には、肝臓障害を起こすルテオスカイリンや腎臓障害を起こすシトリニンといった成分も含まれていた。

ペニシリウム・イスランディクム(Penicillium islandicum)は、出血を伴う肝細胞の壊死を引き起こす。黄変米の毒成分の一つであるシクロクロロチンをつくりますとも書かれていました。(出典

シトリニンはペニシリウム・シトリナム (Penicillium citrinum)がつくります。(出典

青カビとチーズ

チーズをつくる時にカビを加えるのは、独特の風味をつけるためです。アオカビ属のカビは、カマンベールチーズとブルーチーズに使われています。

カマンベールチーズ

カマンベールチーズは、青カビの仲間なのに胞子は青くならない、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)が使われます。白カビとも呼ばれます。

人類とカビの歴史につくり方が詳しく書かれていました。

搾乳した牛の乳に乳酸菌を入れて酸度を上げてから、「レンネット」と呼ばれる、子牛の第四胃から取った凝乳酵素で固めることから始まる。

できた固形物に食塩を加えて、1週間程度乳酸発酵させる。そして、Pカマンベルチーの胞子を植えつけて、年間を通じて温度が10~14℃、湿度が65~80%に制御された環境条件に保たれる。

そのために、岩盤をくりぬいた地下室などで発酵が行われる。P・カマンベルチーは、乳の主成分であるカゼインを栄養にしながら生育する。このカビは、チーズの表面に付着した白い菌体からタンパク質分解酵素を分泌する。

チーズの発酵・熟成は外部から内部に進んでいく。

カマンベールチーズ

ブルーチーズ

ブルーチーズは文字通り青カビを使ってつくられます。

ブルーチーズは、P・ロクエフォルチという青いカビを生やすため、内部に空気の流通する細い穴を非常に多く作る。

直径2、3ミリの針を突き通してチーズに穴を開ける。その穴に侵入したカビのおかげで、大理石のような青い筋の模様が入る。また、その穴をふさいで、酸素の流通を抑えることによって、カビの過度な生育を抑制している。

ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)とも書かれていました。

ブルーチーズ

まとめ

最近、青カビを見る機会がありません。昔は、パンに数日で生えたものです。お餅にもよく生えましたが、今は冷凍庫に保存できることと、密閉包装が当たり前になっているので、カビが生えにくいのです。

青カビには特有の色やにおいがあるので、最初、1種類なのかと思っていました。しかし、青カビにはいろいろな種類があることがわかりました。

その中には食べると毒になるものがあります。毒といっても食べ続けると毒になる程度なので大したことはないですが、体には毒です。

では、ブルーチーズはどうなのか。これは青カビといっても有毒な菌種とは種類が違います。そして、ブルーチーズに長く使われてきた歴史があります。もし、毒が入っていたら途中で使われなくなったでしょう。

安心して召し上がってください。

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