ウイスキーの熟成とは、発酵モロミを蒸留したニューポットを、樽に入れてから始まります。熟成のピークは一般に10~12年。色が変わり、芳香成分であるエステルが増え、ウイスキー樽由来の、ウイスキーコンジェナーによってまろやかさが生まれます。
最新 ウイスキーの科学 熟成の香味を生む驚きのプロセスを読みました。ウイスキー好きだけに読ませておくにはもったいない、実に奥が深い本です。発酵食品が好きな人は読んで損はしない本です。
熟成とはどんなことなのか?
以前、発酵熟成と聞くと、二つともセットになっていて、発酵しながら熟成していくのかと思っていました。しかし、ウイスキーの場合は、発酵期間はごく短く、熟成期間がとんでもなく長いのです。
熟成についてこのように説明されています。
自然に含まれる酵素、あるいは細菌の酵素などを利用して、食品にうま味や風味を出す、柔らかくするなど、品質を向上させるための工程をいう。
熟成させることを「ねかす」ともいう。英語では一般にエイジングagingという。
食品中にはタンパク質、脂質、繊維、糖質などが含まれるが、これらが酵素により、ゆっくりと変化し、各種の味や香りの成分を出し、組織を軟化させるなどする。
熟成はゆっくり行わせるほうが、風味のよい食品ができあがる。そのため、低温にする、食塩やアルコールを加える、といったことも行う。
また、発酵製品では、主発酵が終わったのち、さらに静置して味をならすのも熟成という。
清酒、ビール、ワイン、みそ、しょうゆ、酢、チーズ、塩辛のような発酵品、ウイスキー、ブランデーのような蒸留酒、こねた小麦粉の生地(きじ)、食肉など、多くのものにこの熟成の工程がとられ、品質の向上が図られる。
[河野友美・山口米子]
『佐藤信監修『食品の熟成』(1984・光琳)』(出典)
最初に書かれていた「自然に含まれる酵素、あるいは細菌の酵素などを利用して、食品にうま味や風味を出す、柔らかくするなど・・・」は、内容が発酵と重なります。
ウイスキーの場合は、主発酵が終わったあとの話です。文中にあるように味をならす工程になります。
ウイスキーの場合、モロミの発酵期間はわずか数日。それを蒸留してから樽に詰めて寝かせる年数が、何しろ長い。その期間にどんなことが起きているのでしょう。
ウイスキー熟成のあらまし
ウイスキーは、発酵が終わったモロミを蒸留した「ニューポット」を樽に詰めて熟成させます。
熟成のピークは一般に10~12年
貯蔵して半年くらいでニューポットは淡い黄色になり、それとともにエタノールの強く、刺激的な臭いが抑えられてくる。
さらに2年、3年と経つにつれて、淡い黄色から黄褐色に変わっていくとともに、熟成香もできてくる。
この初期の期間に蒸散が進み、品質も大きく変化する。しかしその後も、熟成は着実に進行してゆき、芳香はより強くなってゆく。
熟成の進み具合はニューポットの個性、樽の特性、貯蔵環境などによって異なってくるが、一般的には10~12年ぐらいまでは確実に熟成が進み、品質もよくなるといわれている。
そのあともさらに品質が伸びるかどうかは、樽ごとの原酒によって違ってくるようだ。多くの原酒は、10~12年のあたりで品質の伸びは止まってしまう。
ウイスキーは長く寝かせれば味がよくなるのかと思っていましたが、一般に、10~12年がピークだと覚えておきたいです。
しかし、ウイスキーにはもっと長く寝かせたものがあります。もちろん、値段も高くなりますが。これはどういうことなんでしょうか?
12年を超えて貯蔵された原酒には価値がある
さらに置いておいても熟成が進むかどうかを見極めるのは、ブレンダーの非常に大切な役割である。
彼らは一つ一つの樽原酒を丁寧に吟味して、貯蔵を終えるべき原酒、さらに貯蔵して熟成を進めるべき原酒を選別する。
たとえば「18年貯蔵」の原酒は、造り手のマネージング方針だけで18年貯蔵したのではなく、18年間、品質が伸び続けてきた結果であり、そのことが貴重なのだ。
だから18年貯蔵の製品は、初めから「この樽の原酒を18年ものの製品に仕上げよう」と意図して造られるというよりは、むしろ「この原酒は18年も品質が伸びた貴重なものだから、これで製品を造ろう」という面が少なからずある。
ましてや「25年貯蔵」、「30年貯蔵」ともなると、本当に稀有な原酒なのだ。
ものによって、さらに長く寝かせても品質が向上するものがある。
熟成による変化
色が変わる、香りが変わるとは化学変化が起きているということです。ウイスキーは、もともと蒸留されたニューポットが樽に入れられることによって変化します。
つまり、ニューポット由来の成分と樽由来の成分が反応します。まず、香りについて。
ニューポットでの香りの変化
まず、ニューポットに含まれている香り成分についてです。
香り成分のうち主要なものとしては、図に示したように、アルデヒド基(-CHO)を持つアルデヒド成分、水酸基(-OH)を持つアルコール成分、カルボキシル基(-COOH)を持つカルボン酸成分、エステル結合(-CO-O-)を持つエステル成分などがある。
これらは発酵によって生成し、ニューポットの基本となる成分群だが、熟成反応によっても増加する。
揮発性の硫黄を含むエステル成分も少量、発酵によって生成する。これらは匂い閾値が低く、特徴的な香りを持ち、ウイスキーの匂い成分として重要である。
アルデヒド成分 | R-CHO |
アルコール成分 | R-OH |
カルボン酸成分 | R-COOH |
エステル成分 | R1-CO-O-R2 |
Rは基本的に、炭素(C)に水素(H)がついた炭化水素鎖だと思っていただければよいです。
アルデヒド、アルコール、カルボン酸、エステルはそれぞれお互いに関係があります。
例えば、アルコール(エタノール)は酸化されると、まず、アセトアルデヒドになり、さらに酢酸に変わります。そして、酢酸とアルコール(エタノール)が結合(縮合反応)すると、エステルである酢酸エチルに変わります。
アルコールが一斉にできるのではなく、先にできたものは、アセトアルデヒドや酢酸になり、それと新たにできたアルコールが反応するということです。
さらに、「バラの香り」ともいわれるβ-ダマセノンという重要な香気成分もつくられるそうです。
樽の中での変化は次のように書かれていました。
熟成によって起こるニューポット由来成分の化学反応には、酸化反応、アセタール化反応、エステル化反応の3つがあることが知られている。
酸化反応とは、樽呼吸に伴って樽を介して原酒に空気が溶け込み、空気中の酸素によって徐々に原酒の成分の一部が酸化される反応である。
酸化反応のうち主要なものは、原酒の主成分であるエタノールの酸化だろう。エタノールは酸化すると、アセトアルデヒドや酢酸になる。
アセトアルデヒドはさらにエタノールと反応してアセタールという香気成分に変化する。これがアセタール化反応だ。
アセタールはアルデヒドなどとアルコールが縮合してできる化合物の総称だが、ウイスキー原酒中のアセタールはエタノールとアセトアルデヒドの縮合でできる成分(ジエトキシエタン)が最も多い。
これ以外にもエタノールより分子量の大きいフーゼルアルコールとアセトアルデヒドとの反応でできるアセタール類も生成が知られている。
アセタールの含有量は5年貯蔵で4倍増えると報告されている。
また、水酸基を持つエタノール(C2H5OH)とカルボキシル基(-COOH)を持つカルボン酸とが共存すると、水分子が抜けること(脱水縮合)によってエステル成分が生成する。
これがエステル化反応である。エステルはアルコールと脂肪酸が脱水縮合してできる化合物の総称だが、ウイスキー原酒中のエステルはエタノールと酢酸の縮合でできる酢酸エチルが最も多い。
エチルアルコール(エタノール)とアセトアルデヒドは高校の化学に出てきます。アセタールは初めて聞きました。
エステルは芳香を放つ
一般にアルコールと酢酸のエステルは、芳香成分として知られます。しかしエステルになる前の物質は、それぞれ、ひどいにおいがします。酢酸は、お酢の主成分ですから、説明は不要ですね。
また、カプロン酸やカプリル酸など炭素数が比較的短い脂肪酸はクサイことがよく知られています。これら脂肪酸とアルコールのエステルも芳香成分に変わります。
ニューポットには、エタノールよりも長鎖のイソアミルアルコール(C5H11OH)などの高級アルコールや、炭素数8個でベンゼン環を持つフェネチルアルコールなどのほか、各々のアルコールと酢酸とのエステル(酢酸エステル)を含んでいる。
さらに、カプロン酸(C5H11COOH)、カプリル酸(C7H15COOH)、ラウリン酸(C11H23COOH)などの炭素鎖の比較的長い脂肪酸などと、各々の脂肪酸とエタノールとのエステル(エチルエステル)も含んでいる。
長鎖のアルコールや脂肪酸は、主に酵母によるアミノ酸の分解代謝で造られる。
分からない物質は、全部構造式を調べました。こうやって見ると、例えばフェネチルアルコールでも、フェノールにエチルアルコールがくっついた形みたいだなと分かります。
イソアミルアルコール
イソアミルアルコールは、不快な臭いを持つ無色の液体であると書かれています。(出典)しかし、酢酸とのエステルである、酢酸イソアミルは、バナナあるいはメロン様の果実臭のする無色の液体です。さらに、日本酒の芳香成分の一つでもあり、吟醸酒には数100 ppb–数 ppm 程度含まれている。(出典)
ウイスキーに吟醸香が入っているとは(!)
フェネチルアルコール
フェネチルアルコールは快い花の香を持ち、特にバラの香りを加えたいときに香料として用いられます。(出典)
カプロン酸
きわめて不快な臭いを有する。カプリ (capri) とはヤギ (Capra aegagrus) のことであり、ヤギの体臭様の臭気を持つ、そうです。(出典)
これが、アルコール(エタノール)とのエステル、カプロン酸エチルになると、日本酒の芳香成分の一つで、吟醸酒には数100 ppb–数 ppm 程度含まれている、と書かれています。(出典)
カプリル酸
弱い不快な腐敗臭を持つ油状の液体である、と書かれていました。(出典)
アルコール(エタノール)とのエステル、カプリル酸エチルになると、発酵を想起させる甘いアプリコット・パイナップル様フルーティー香になるそうです。(出典)
ラウリン酸は炭素数(Cの数)が12あり、短鎖脂肪酸ではないためか、においについては何も書かれていませんでした。
下に構造式をそれぞれ載せました。右に描いてあるのは、省略形です。慣れるとこちらの方がずっと見やすいです。
酢酸エチルが一番増える
酢酸エチルもエステルです。ウイスキーの熟成中最も増え、一番多く存在するエステルです。
低分子にシフトしたエステル成分は、いわゆる「エステリー」と呼ばれる、すっきりした香りや果実のような華やかな熟成香をウイスキーに付与するといわれている。
熟成に伴う香りの変化は量の増加だけではなく、このような香気成分の組成の変化が要因の一つとなっている。熟成反応は一筋縄ではいかないのだ。
貯蔵中にもっとも量が増加するのは酢酸エチルで、4年間の貯蔵で4倍に増加するという報告もある。
その理由としては、酢酸はエタノールの酸化で生成するほかに、樽中にも多くの酢酸基が存在していて、貯蔵初期にそれらが溶出してくるため、酢酸エチルの生成が促進されるからと考えられる。
上で描いた、省略した描き方だと酢酸エチルはこのようになります。
酢酸エチルはセメダインのようなにおい
酢酸エチルは、どんなにおいがするのでしょう?ウイキペディアに書かれていた説明を読むと、あのにおいかと分かります。
酢酸エチルはシンナー・ラッカーなど塗料の溶剤として利用される。マニキュアの除光液として、アセトンなどと並び多用されている。
また、パイナップル・バナナ等天然の果実油の中にも広く含まれる果実臭成分の一つであり、エッセンスなど食品添加物の成分としても利用される。
日本酒にも香気成分として含まれ、セメダイン臭として否定的なとらえ方をされる場合がある。一方でワインに含まれる酢酸エチルは味を落とす原因と言われている。(出典)
樽が溶けて出る香りと色
原酒の「揺りかご」であるかのように見える樽からも、じつは驚くほど多量の、多様な成分が溶け出し、いろいろな反応に関与しているのだ。
12年から18年貯蔵したシングルモルトウイスキーでは、樽材に由来する高沸点(不揮発)成分の濃度は2500~3500ppmぐらいになることがわかっている。
たとえば容量が約480リットルのパンチョンやシェリーバットの樽に、400リットルのウイスキー原酒が入っていたとして、(ブレンディングによる加水操作を考慮すれば)製品となるウイスキーの量は約560リットルになる。
したがって、ウイスキー原酒中には樽由来成分がじつに1.4~2キロ近くも溶け出していることになる。貯蔵中にこれだけの量の不揮発成分が樽から溶け出しているのだ。
1ppm = 0.0001%です。たとえば、3500ppm=0.35%になりますから、560リットルの0.35%は、1.96キロになります。ウイスキーの比重は水よりも小さいですが、まあ、だいたいのところです。
3500ppmといわれると、普段なじみがないのでわかりにくいですが、0.35%といわれると、何となく感覚的についていけます。
海水の塩分は3.5%で人の体内の塩分は0.9%(出典)。0.9%でも手を切った時に傷をなめると塩気を感じますから、0.35%は、意外と濃いなと思いました。
ウイスキーの色は樽由来
樽の成分が溶け込んでくるのが一番にわかるのは色の変化だそうです。
蒸留したてのニューポットは無色透明である。それが最初の1~2年で急激に色づき、その後も徐々に、色度(ウイスキーが呈する黄褐色の程度)を増していく。これは樽由来成分が溶け込
んでいるからにほかならない。また、色調も時間の経過とともに、淡黄色から黄褐色に、さらに明るく輝くような琥珀色になり、最後には赤みを帯びてくる。
樽に含まれている成分がほぼそのまま溶け出すものがあります。そのおもな成分は、コハク酸です。
コハク酸
本にはこのように書かれていました。
貯蔵中に樽から溶け出してアルコールと反応し、エステル形成に寄与する。特徴的な味を呈し、味噌、醤油、清酒などにも用いられる
もう少し調べてみましょう。ウイキペディアにはこのように書かれていました。うま味成分だとか。
貝類に含まれるうま味物質である。うま味を感じさせる作用は、コハク酸ナトリウムの方が高い。(中略)
アルコール発酵の副産物でもあり、ワインやビールに塩味・苦味・酸味を与える。(出典)
コハク酸はカルボキシル基を2個持っているので、それぞれアルコール(エタノール)とエステルをつくることができます。アルコールが2個ついたものは、コハク酸ジエタンといいますが、フルーティーな香りになるようです。(出典)
ココナッツのような香りを持つクェルクスラクトン
ウイスキーに熟成香を与える成分としてとくに知られているのは、ラクトン類に属しココナッツ様の香りを持つ、クェルクスラクトンである。
ラクトン類とは一つの化合物が水酸基とカルボキシル基とを持っている場合に、両者がエステル結合して環状になったものをいう。
多くの植物に存在し、香気性のものが多い。クェルクスラクトンはオーク材特有のラクトン類で、オークラクトンとも呼ばれる。
また、ウイスキーの熟成研究で見つかったことからウイスキーラクトンとも言われる。
細胞壁のセルロースとヘミロースとリグニン
ウイスキーを詰める樽は、側板を組み立てたあと、側板の内側を焼きます。これは「チャー」と呼ばれる作業です。樽材の表面を焦がして樽の木香が強く出過ぎないようにするためです。
側板を焼いたことで木の細胞壁を構成する高分子化合物であるセルロース、ヘミロース、リグニンを分解するために役立ち、分解されると香り成分に変化します。
セルロース
セルロースは多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子です。(出典)β-グルコースとは、炭素番号1にある水酸基(-OH)が上にあるものをいいます。反対に下にあるものは、α-グルコースです。
重合とは、単量体 (モノマー) 分子が2個以上結合して整数倍の分子量をもつ化合物になる変化のこと。(出典)下図を見ていただければお分かりになると思います。
セルロースの場合は、構成糖であるグルコースがチャーによって熱せられると、加熱分解を起こす。その結果、いろいろな成分に変化し、徐々にウイスキー原酒中に溶け出してくる。
チャーによって生成する成分はいずれもカラメルや黒砂糖にも含まれる甘い香り成分である。
ヘミセルロース
ヘミセルロースの場合は、その構成糖であるアラビノースやキシロースが加熱によって分解し、アーモンド様の特徴ある香りを持つフルフラールを生成する。
リグニン
リグニン由来の化合物は、セルロースやヘミセルロース以上に多彩な働きを担っている。代表的なものには、バニラの甘い香りを持つバニリンとその類縁体(バニリングループ)がある。(中略)
バニリングループのほか、コニフェリングループ、シリンググループ、シナップグループが知られている。
いずれも、リグニンの基本構造であるフェニルプロパンとよく似た構造を持っていて、バニリンと同じように甘い香りを持つ。
ウイスキーに香りが乗ると、直接味が変化しなくても印象が変わります。これは普段食べものでもスパイスなどで経験することなので納得できるところです。
ところが、長く寝かせるとまろやかさが加わります。これは香りとは別です。
まろやかさ
まろやかさは、説明するのがむずかしいですが、舌ざわりが柔らかな感じといえばよいのでしょうか。
その変化がなぜ起こるのか。まず、水の性質を知る必要があります。
水和シェル
水は疎水性物質に接したとき、それを避けようとして水分子どうしが集まる性質を持っているため、この水の状態を「疎水性水和」と呼ぶ。(中略)
これらのことからエタノール溶液は、安定した疎水性水和の水が、エタノールクラスターを閉じ込めた状態になっていると考えられる。(中略)
エタノールのように水によく溶ける物質でも、疎水性水和が形成されるという点に、西博士らのエタノール溶液構造モデルの新しさがある。
エタノールクラスターの周囲を疎水性水和による水が取り囲むというこの説は、きわめて興味深いものだ。西博士らはこの状態の水を「水和シェル」と称していている。
シェルとは貝殻や、植物の幹を覆う外皮のことだ。エタノール溶液では、エタノールが安定化するとともに、貝殻や植物の外皮が生物体を囲い込んで守っているように、水和シェルがエタノールクラスターを守っているのだろう。
水和シェルの存在が多いことがまろやかさにつながると考えられているようです。そのカギになるのが、次のウイスキーコンジェナーです。
ウイスキーコンジェナー
熟成されたウイスキーにはエタノールを始め、沸点温度の低い揮発しやすい成分と、樽由来の揮発しにくい高沸点成分が入っています。
ウイスキーから低沸点成分を全て抜いた残りは、ウイスキーコンジェナーと呼ばれます。ウイスキーの中にウイスキーコンジェナーが存在することが、水和シェルを増やすことになり、まろやかな舌ざわりに関係していると考えられています。
熟成されたウイスキーを蒸留すると水和シェルが減ってしまいニューポットと同じになりました。しかし、蒸留したものに、ウイスキーコンジェナーを加えると、元通り、水和シェルが増えました。
ウイスキーコンジェナーのうち、オーク材のリグニンやタンニン由来の化合物を含むものが水和シェルを増やすことに効果があると書かれていました。
つまり、熟成されたウイスキーのまろやかな舌ざわりは、樽由来の成分が長い時間をかけてウイスキーに溶け出すことによって得られるということです。
まとめ
この記事を書きながら、20年くらい前に買った、うまい酒は、なぜうまい―「さらば悪酔い・二日酔い」の科学 を思い出していました。まだ、うちの本棚の奥に埋もれていると思います。
理屈は忘れてしまいましたが、原則は、酒を振る。ビールはもちろん無理ですが、飲む前に酒をよく振って飲めば、うまくて悪酔いもしないという本です。たしか、このころ、超音波振動子をつけたデカンタが商品化されたことも思い出しました。
酒が熟成してうまくなるのは、香りが乗ることが重要なのは間違いありません。ただ、時間とともに舌ざわりがまろやかになるのは、香りやちょっとした成分が溶けることとも関係があるでしょうが、何となく、それだけではないように思います。
飲む前によく酒を振ることと、この記事で書いてきた酒を長い年月寝かせることは、全くもって正反対のことですが、きっとどこかで同じ結果につながる何かがあるのでしょう。そう思いました。