海軍の納豆製法があった

横須賀海軍カレーについて調べていて「海軍主計兵調理術教科書」を知り、読みやすく書き直した「海の男の艦隊料理」を知りました。その中に、海軍の納豆製法がかなり詳しく書かれていました。全編とても詳しい料理の本で、海軍では教科書として使われていたのです。きちんとした教育ってお金がかかるものだなと思いました。

納豆

この記事では、「海軍主計兵調理術教科書」を読みやすく書き直した海の男の艦隊料理に出ていた海軍の納豆製法について書きます。

海の男の艦隊料理

海の男の艦隊料理を読みました。新潮文庫1986年発刊で、とうの昔に絶版になり売っていません。図書館にありましたが、開架でなく保存庫に入っていました。資料的価値があるのです。

もともとは「海軍主計兵調理術教科書」の漢字かなを現代語にして読みやすくしたものだそうです。横須賀海軍カレーについて調べていて、この本の存在を知りました。

まえがきにこんなことが書いてあります。

私が、海軍の主計科に徴兵され、海兵団教育中に習った『海軍主計兵調理術教科書』が、当時は、これほど立派な内容であったとは思っていなかった。

昭和十六年頃は、今のように、男性が家庭のキッチンで包丁を持つ時代ではなかったから、いや応なしに、前掛けをつけさせられての烹炊(ほうすい 料理)作業の訓練は、正直いってガッカリさせられたものだった。(中略)

海軍内でも「主計、看護(看護兵のこと)が兵隊ならば蝶々、トンボも鳥のうち」と嘲笑されていたぐらいだったからである。

したがって、内容がいくら立派であっても、真剣に勉強をする気もなく、殴られない程度の学習態度だったから、この教科書が、今の調理師必携の専門書にも優る内容であったことに、今さらながら驚いているのである。

海軍は、陸軍と違って、調理専門の兵隊を初歩の段階から教育するシステムがあったということで、栄養学まで教えているこの教科書を、その気でマスターしていたとすればレストラン経営も出来たのではないかと思っている。

読んでみると、本当に細かく書かれていて、教科書なのです。海軍カレーはもちろんのこと、納豆の製法についても書かれていました。

納豆の製法

(一)材料

大豆の小粒(東京方面にては茨城産の小粒を使用す)のものを精選し夾雑物および虫食等を除去す(一人当二十グラムを普通とす)。

(註)大粒豆は中心まで納豆菌の滲透(しんとう)不能のため中心は納豆化せずかつ水気を含む。ただし重量大なると共に一見美しく商品価値あり。

私が納豆用に買っている大豆は、タニカヨーグルティアで納豆をつくるに書きましたが、大きさが一番小さいサイズのものを買っています。しかし、それでもスーパーで買う納豆に比べると、はるかに大粒納豆になります。

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いつも水分多めで仕上がるので、水分調整がむずかしいなと思っているのですが、粒が大きいことも原因になっているのかもしれません。

(二)水浸し

精選したる大豆を洗滌水の混濁せざる程度に磨き洗い豆の二倍半以上の水を入れ、夏季は七ー八時間、冬季は一夜(十一、二時間)浸漬し(短時間に膨張せしめんには微温湯に浸すも可なり)外皮のしわが無くなり豆の内部も十分膨張して空隙(くうげき)を存せざるに到るを程度とす。

おおむね豆は漬(ひた)す前の一・二倍ないし二倍となる。

(註)夏季と冬季とは気候、温度の関係により浸水時間異り余り水に漬け過ぎ豆より悪臭を発するに至れば使用不適なり。

冬は大丈夫ですが、夏に大豆を水に浸けっぱなしにすると、泡だらけになり豆からいやなにおいがしてきます。程度問題ですが、あまりひどいと調理できません。

(三)煮方

十分膨張したる豆を蒸カマド、高圧釜または蒸気釜(直接豆に蒸気を当てる)に入れて蒸すか煮るかする。

蒸カマドにて  六、七時間
普通釜にて   五、六時間
高圧釜にては約二四ポンドー三〇ポンド(二気圧)にて約一時間を要す。
程度  赤褐色(せきかっしょく)となり柔軟にして容易に潰(つぶ)れる位を可とす。

(註)味噌豆程度に煮ること、硬ければ納豆菌繁殖せず。

24ポンドは約10キロ、30ポンドは約13キロです。2気圧かけるのは確か、実験器具を殺菌するオートクレーブと同じだと思います。温度は120℃になります。

しかし、1時間も加圧しているのは長い。

私は何気圧かかっているのか分かりませんが、普通の圧力鍋で300gの乾燥大豆を水に浸けたものを30分加圧して使っています。指でつぶすと簡単につぶれる硬さなので問題ないと思いますが、1時間も蒸すと書いてあるから、もっとよい状態になるのかな?

(四)納豆菌(枯草菌)

(イ)培養菌なれば大豆二リットルに対し約二分の一デシリットル位の蒸溜水(じょうりゅうすい)または煮沸水(冷やすこと、豆の煮汁にてもよし)に溶解し一ー二時間放置す。

(註)納豆菌は乾燥し胞子を着ければ一二〇度位にて死滅せず。普通の納豆菌にても九十度にては死滅せずという。

(ロ)ワラを用うる場合は煮豆をそのまま入れるか箱にワラを一センチ位の厚さに敷きその上に三センチ程度豆を入るれば可なり。

(註)ワラには納豆菌あり、ただし他の雑菌もあるをもってこれが繁殖のため納豆菌の繁殖を妨げ失敗することあり。

(ハ)黴菌と納豆菌について
黴菌は酸性菌にして納豆菌はアルカリ性菌なり。黴菌および他の雑菌は四十度以上にて繁殖不適となるも、納豆菌は四十五度から五十度位にて旺盛なる繁殖力あり。

ゆえに納豆製造操作は絶えず四十五度程度の恒温度にて処理すれば適当である。普通艦船にて数回製造後失敗する場合多きは温度の調整悪くかつ容器類の消毒不良にもとづく雑菌の繁殖によるものである(三十八度位を適温と称するものあるも失敗多し)。

私は種に市販の納豆を使っているので、ここはスルーです。設定温度も45℃です。以前、途中で酸素を入れるためにかき回したのですが、温度が下がると途端にできが悪くなります。

保温が大切だと学習しました。

(五)箱入(温室)

十分柔軟に煮えたる豆を釜より出し別器に移し、全く温度の下降しない内に(八十ー九十度位にても可なり)手早く納豆菌溶液を撒布、豆を攪拌して平均に混和し、箱に経木(きょうぎ)等を敷きて二ー五センチ位に拡げるかまたは折詰箱等に入れフタをなして温室に入れる。

(六)温室の温度

温室内は四十五度を標準として三度を上下せざるごとくするを可とす。入室後約三時間位は納豆菌の繁殖少きため温度の高低あるも大した影響なきも、その後七時間は絶対に扉を開けるか四十五度以下または五十度以上にしないことが肝要である。

入室後八時間頃より納豆菌は極めて旺盛なる繁殖をなし自身よりも発熱するをもって加熱上手加減を要す。

十二時間位にて外部よりの加熱は停止しその後約三時間位放置するを可とす。ただし納豆菌の繁殖状況により多少の相違あり。醗酵(はっこう)は約八時間位より十時間頃までが最も旺盛にして有黴菌、雑菌を制圧す。

操作適当ならば十四、五時間にてでき上るも、温度調整の具合いによりては、二十四時間もかかることあり。

自宅で納豆をつくるのを嫌う方は、においを気にしています。ここに書かれている通り、発酵開始から8~9時間くらい経つと、納豆のにおいがしてきます。

私はヨーグルティアで納豆を作っているので設定温度45℃で24時間にしています。もちろん、温度制御されるので、納豆が盛んに熱を出している時は、加温されないでしょう。

(七)雑件

納豆製造の三要件
(1)煮豆の程度(2)温度(3)飽和状態の湿度。

(註)湿度は加熱により自身よりも相当出るが、温室の下部に容器に温湯(水にても可なり)を入れておくか、蒸気を発生するところを設けおかば特に考慮の要なし。

蒸し暑い程度にて差支えなし。なお納豆菌の発育上酸素を必要とするから幾分の換気孔を設くるの要がある。

加湿にかなり気をつかっています。ヨーグルティアを使っている私は逆に水分量を下げたいと思っているのです。

まとめ

海軍の教科書から納豆の製法を紹介しましたが、料理の教科書といいながら、理科の教科書のような雰囲気があり、かなり程度が高いです。

海軍カレーは、ロンドンから帰ってきた高木兼寛が、軍艦の遠洋航海において水兵の間で猛威をふるう脚気対策に考えたメニューです。

脚気って、今は聞かない病気ですが、昔、ビタミンB1が欠乏する食事をしているとひどければ死んでしまう病気だったのです。

高木兼寛のことも含めてビタミンB1発見の歴史を調べてみたに詳しく書きました。

ビタミンB1発見の歴史を調べてみた
ビタミンB1がどのような経緯で発見されたのか調べてみました。初めて知りましたが、ビタミンB1の発見は、白米を食べ続けると脚気を発病することがきっかけになっています。麦を食べる西洋人は脚気になる心配がありません。米のぬかにはとてもたくさんB1

これだけの内容の本が海軍では教科書として使われていたのです。きちんとした教育ってお金がかかるものだなと思いました。

納豆について記事をいくつか書いています。他の記事は、納豆についてをご参照下さい。

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