酵素の話5題

酵素が働く適温は体温くらいと習いましたが、アミラーゼが働く温度は50~60℃です。かぜ薬に入っている塩化リゾチームは、のどなどに感染した細菌の細胞膜を破壊する働きがある酵素です。ピロリ菌はウレアーゼをたくさん生産して強酸性の胃の中でアルカリ性のアンモニアをつくり自分を守ります。100℃を超える環境で生きる菌や、低温環境を好む菌は、その温度で働く酵素を持っています。

実験室

酵素が働く適温は体温くらいと習ったけれど・・・

どうも、若い頃に習ったことはいつまでも記憶に残るようで、高校の時に習った生物の知識が時々じゃまをします。

酵素はタンパク質で、酵素は40℃を超えると失活しタンパク質が変性する。生物Ⅰで習いました。私の中では酵素は体温ぐらいがちょうどよい温度で、その時によく働くと刷り込まれました。

酵素の活性が高い温度を最適温度といいます。実際のところ、それはかなり正しいらしいのですが、最適温度は、少し幅があり、だいたい摂氏30℃~50℃といわれています。

ところが、例外はいつでもあります。最初にそれを感じたのは、糖化酵素のアミラーゼです。アミラーゼは、人の唾液にもあります。体温がちょうどよい温度だと思い込んでいましたが、ウイスキーとビールの発酵は途中まで似ているが、乳酸菌が出てくるのは?を書いた時にそうでないことが分かりました。

この記事では、酵素のちから―生命を支える (岩波ジュニア新書 (506))を読みながら、私が覚えておきたい酵素の話をいくつか書いておきます。

アミラーゼの適温は50℃~60℃

昔は冬の飲み物だった甘酒が、最近は夏でも栄養豊富だと飲まれるようになっています。甘酒は麹を使ってつくりますが、麹屋さんをほとんどみたことがありません。私が知っているのは、神田明神の入口にある麹屋さん天野屋くらいです。

甘酒のつくり方は、蒸米を冷やして、これに麹を混ぜ、50℃~60℃に保つと甘酒ができます。デンプンを糖化するアミラーゼの適温は割と高い温度です。

かぜ薬の塩化リゾチーム

かぜ薬の成分の一つに、塩化リゾチームがあります。リゾチームは、細菌の細胞壁の主な成分であるペプチドグリカンを分解して、細胞壁を溶かす作用があります。

ペプチドグリカンとはタンパク質の単位になるペプチドと糖からなる高分子のことです。

かぜを引いて、のどなどに感染した細菌を殺す働きがあります。

唾液にもたくさん含まれています。口から入ってきた細菌を溶かす働きがあります。この酵素は特に卵の白身にたくさんあります。卵の白身から容易に大量のリゾチームがとれます。

リゾチームは、ペニシリンの発見者フレミングが偶然に発見しました。フレミングがかぜを引いて実験していたときに、たまたま細菌を培養していたペトリ皿に鼻水を落としてしまったのです。しかし、その鼻水に滅菌作用があるのを見つけました。

このことがきっかけでリゾチームが発見されました。

ピロリ菌はウレアーゼを生産

胃がんの原因となるといわれているピロリ菌。ヘリコバクター・ピロリ菌が発見されたのは1983年。それまでは胃の中は強酸の環境で、微生物は生育できないと思われていました。

ヘリコバクター・ピロリ菌は、たくさんのウレアーゼを生産します。

ウレアーゼは、尿素を加水分解によって二酸化炭素とアンモニアに分解する酵素です。

(NH2)2CO + H2O → CO2 + 2 NH3

尿素は蛋白質が体内で分解する際に生じるものです。ピロリ菌は、消化中に生じる尿素をアンモニアに分解します。

胃の中は強酸性ですが、アンモニアは塩基性ですから、ピロリ菌は、アンモニアで周囲の酸を中和して生育します。必死に生きているのですね。

ウレアーゼはナタマメにたくさん含まれていることが昔から知られています。

熱湯に耐えられる酵素

たいていの生物は熱に弱いです。微生物も同様で熱湯の中では死んでしまいます。発酵食品をつくるとき、容器や器具を熱湯消毒するのは常識ですね。生物が熱湯に耐えられないのは、タンパク質が熱に弱いからです。

ところが、微生物の中には、高い温度の環境で生きているものがいます。70℃でも平気で生きている好熱菌、100℃以上でも平気な超好熱菌がいます。

好熱菌や超好熱菌は、高い温度にも耐えられる耐熱性酵素をつくり、高温の環境で生きることができます。

パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)は1980年代にイタリア、ヴルカーノ島の浅い海底にある硫黄熱水噴出孔から分離されたそうです。増殖は70〜103℃の範囲で起こり、その至適温度は100℃だそうです。100℃で普通に生活できるのだから驚きです。

納豆菌も100℃では死滅しませんが、それは、芽胞とよばれる内側の殻をつくるからです。しかし、培養温度は45℃ですから、100℃でも耐えられるということです。

しかし、パイロコッカス・フリオサスは、逆にわれわれにちょうどよい25℃では活性を示さないそうです。

私は木くずを発酵させた酵素風呂に何回か入ったことがありますが、あの中も70℃くらいありました。

低温環境が好きな好冷菌

熱いところが好きな菌がいる一方、低い温度が好きな好冷菌もいます。

シベリアやアラスカなどの永久凍土、ヒマラヤなど高山、氷河、深海、冷蔵庫などの低温環境でも生育できる低温菌がいます。低温菌は、発育至適温度に関係なく、5~7℃で7~10日以内に寒天培地に肉眼的に識別できるコロニーを形成する細菌です。

低温菌の中で、特に常温よりも低温を好む細菌を好冷菌と呼びます。好冷菌の定義は、20℃以下に発育至適温度を持つものだそうです。

低温菌の酵素は、低い温度でよく作用する反面、37℃や45℃くらいの温度にすると簡単に失活します。面白いですね。

まとめ

ピロリ菌が、胃の中でタンパク質が消化されている間に自分が生存するために、尿素からアンモニアをつくる話が一番面白かった。

植物酵素について詳しくお知りになりたい方は、まず、酵素について知りたいならまず最初にこのページから読んでほしいをお読みください。

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