醤油の作り方-本醸造-

蒸した大豆(脱脂加工大豆)と炒った小麦を混合し、種麹を加えてしょうゆ麹を造ります。原料全部に麹を植えつけるのが特徴です。これを食塩水と一緒にタンクに仕込んで諸味を造り、約6ヵ月ねかせると、麹菌や酵母、乳酸菌などが働いて分解・発酵が進み、さらに熟成されて醤油になります。

しょう油

 

この記事では、醤油の作りかたと、そこで活躍する麹、乳酸菌、酵母について書きます。

醤油の作りかた

醤油の作りかたはJAS法で決められています。こいくち醤油の作りかたは、本醸造、混合醸造、混合方式と3つありますが、混合醸造、混合方式は工業的な作りかたなので、ここでは本醸造方式だけを書きます。

しょうゆ麹を作り、塩水を足して諸味(もろみ)とし、発酵させ、しぼって火入れします。

しょうゆ麹

蒸した大豆(または脱脂加工大豆)と炒って砕いた小麦をほぼ等量ずつ混ぜ、そこに種麹を加えてしょうゆ麹を作ります。醤油の原料には、大豆が多く使われますが、そのたんぱく質をアミノ酸に分解するためにはたくさんの酵素が必要になります。

そのため、清酒や味噌の麹と異なり、醤油では原料のすべてを麹にする全麹にするのが特徴です。

つまり、原料である蒸した大豆(または脱脂加工大豆)と炒って砕いた小麦をほぼ等量ずつ混ぜたものすべてに麹菌を植えるということです。清酒や味噌では、半麹といって、麹をつけた原料とつけてない原料を一緒に仕込みました。

種麹は、しょうゆを製造する麹を作るための元となる優良な麹菌をあらかじめ培養したものです。

発酵

しょうゆ麹に食塩水を加えて諸味(もろみ)とし、タンクに仕込みます。最初は乳酸菌や酵母の生育を抑えるため、比較的低温に保ちます。まず、麹菌の酵素で、たんぱく質やでんぷんを分解させるためです。

その後諸味の温度を少しずつ上げ、乳酸菌を増やします。乳酸菌は諸味1グラム数億個まで増えます。

pHが下がって主発酵酵母が増えます。諸味1グラム数百万個まで増えます。アルコールを作るので二酸化炭素が出て来ます。諸味の温度が上がり、30℃くらいになります。

アルコール発酵が終了する頃は、香りが豊かになり諸味の色もしょうゆらしくなっています。

熟成酵母はフェノール系の香りを作ります。この工程は20℃前後で進みます。

仕込まれた諸味を、ときどき攪拌しながら、約6ヶ月発酵、熟成させた後、圧搾します。16%以上の高食塩濃度の中では、働いてくれる麹菌、乳酸菌、酵母の増殖はゆっくりと進みます。そのため、しょうゆ造りは6ヶ月かかります。

最後に、搾った醤油は加熱(火入れ)します。火入れは殺菌だけでなく、色、味、香りを整えるためです。

醤油づくりでも麹、乳酸菌、酵母が活躍する

麹菌

麹は大豆や小麦のタンパク質、でんぷん、脂肪などを分解する酵素を作ります。タンパク質を分解するのはプロテアーゼ。でんぷんを分解するのは、アミラーゼ、脂肪を分解するのはリパーゼです。

醤油に使われる麹は、ニホンコウジカビAspergillus oryzae、ショウユコウジカビAspergillus soyaeです。soyaeではソヤーと読み、大豆から由来した命名です。

麹が大豆のでんぷんを糖化すると乳酸菌の出番です。ここから先は、酒や味噌と変わりませんね。仕込んでからおよそ1ヶ月くらいで乳酸菌がでて来ます。

ちなみに、今全国の醤油醸造元で使われている麹菌は、昔から代々伝わる種麹屋から購入して使っている場合が多いです。

種麹屋は、酒造用、醤油用、味噌用、甘酒用、焼酎用など、用途に適合した性質が優良な麹菌の原菌を所有していてその胞子を純粋培養して採取、それを醸造藏に納めています。

乳酸菌

乳酸菌は、ブドウ糖を乳酸に分解します。乳酸が増えると、諸味が弱酸性になります。乳酸菌は与えなくても蔵に棲みついているのが入って来ます。味に酸味を加え、また、できてくるアルコールとエステル反応して、香りを作ります。

醤油の乳酸菌は耐塩性の菌でテトラジェノコッカス属ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)と言われる細菌です。この乳酸菌は品温の上昇と伴に急速に増殖し、諸味の酸度を低下させた後、自分が作った酸により急激に死滅・減少します。

菌株はいろいろあるようですが、例えばTetragenococcus halophilusTh221株はキッコーマン株式会社が持っていて、アレルギー性鼻炎の改善効果があるようです。

乳酸菌が増え始めpHが下がると、酵母が活動し始めます。

酵母

酵母には、主発酵酵母、熟成酵母があります。どちらも、ブドウ糖から、アルコールや醤油の香り成分を作る働きがあります。食塩濃度が高いと香り成分は多く作られます。

主発酵酵母は、パン酵母やアルコール発酵酵母に比較的近いですが、高食塩存在下で生育できる酵母で、チゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)18%の塩分濃度中でも生育でき、糖から、アルコール、微量の有機酸、エステルなどを生成し、醤油の香味に重要な役割を果たしています。

チゴサッカロミセス・ルキシーが消失したあとに熟成酵母が出て来ます。

熟成酵母は、やはり耐塩性のあるカンジダ・バーサティリス(Candida versatilis)です。小麦の皮の成分から、熟成香に分類される燻製のような香りを作ります。

主発酵酵母も、熟成酵母もメーカーによって蔵に棲みついている菌株が異なるので、微妙に風味が違ってきます。

NOTE

家庭で味噌を作る人は結構いますが、醤油を作っている人はあまり聞きません。手作り醤油を作った人を検索してみると、地球のココロに3年前に仕込んだ手作り醤油を、いよいよ搾ってみるという記事がありました。

読んでみると、できた醤油を搾ったときに油が出るのでそれが少し面倒なのかなと思いました。大豆油は、昔からサラダ油でおなじみです。大豆の含油率は20%程度あり、植物油の採取を目的とする油糧作物としてはそんなに油が多くないと思いますが、油はあります。丸大豆醤油を仕込んで出てくる油のことは別な記事で書きます。

しょう油についていくつか記事を書いています。他の記事は、しょう油についての記事でご覧下さい。

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