遠藤章博士とスタチン

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(下) を読んでいたら、前半にとても長いコラム「スタチン薬-遠藤章博士はいかにして何百万人もの心臓病患者の人生を変えたのか」があり、とても面白かったです。

この本は、上下巻2冊になっていますが実に面白くてよい本です。もともと文系で若くない私でもこれだけ楽しめるのだから、これから大学に行くやる気満々の高校生が読むともっと面白いと感じるのではないかと思います。何がよいかというと、開発物語が次々出てくるので読んでいて飽きないのです。

今は、情報過多の時代でネットにはたくさんの情報があふれていますが、よく編集された本を読むとやはり本はいいなと思います。

この記事では、遠藤章博士とスタチンについてちょっとだけご紹介します。興味を持ったら是非、遠藤先生のサイトや本をお読みください。記事の最後の方にリンクを貼っておきます。

スタチンはこんな薬

スタチンは、優れたコレステロール低下作用を示す薬の総称で、「悪玉コレステロール」として知られるLDLコレステロールの血中濃度を強力に下げる働きがあります。

スタチンは、安全性と薬効にきわめて優れた画期的な薬で、1994~2004年までにアメリカの冠動脈疾患の死亡率は33%低下したとあります。

少し前に、食べ物のコレステロールは気にしなくてよいというニュースがたくさん流れました。

例えば、産経新聞2015年4月29日の記事に、食事コレステロールもう気にしなくていい? 「血中濃度と無関係」 厚労省は抑制目標値「撤廃」がありますが、同じ時期にあちこちのニュースで流れていました。

しかし、たとえば、家族性高コレステロール血症の方にとっては関係がない話です。下げなければなりません。

開発のきっかけ

遠藤先生は、三共に入社後のアメリカ留学中、日本とは違って肥満者が多く、レストランではサンダルのようなステーキの脂身を丁寧に取り除く光景を目にしていました。

当時、1960年代半ばのアメリカでは、心臓病(心筋梗塞)による死亡者数はがんの死亡者数より多く、年間60~80万人に達していました。心臓病の予備軍である高コレステロール血症患者は1000万人を超すといわれていました。

心臓病の予防にはコレステロール低下剤が不可欠なのに、有効な薬がない状態でした。

コレステロールは大半が肝臓でつくられます。そして、食事から入ってくるコレステロールより、肝臓でつくられるコレステロールの方が多いのです。

肝臓では、外から入ってくるコレステロールが多い場合、コレステロール合成を抑える仕組みがありました。その主役はHMG-CoAをメバロネート(メバロン酸)に変えるHMG-CoA還元酵素です。コレステロール合成を制御しているのがHMG-CoA還元酵素だったのです。

そこでHMG-CoA還元酵素の阻害剤が有効なコレステロール低下剤になると考え、帰国後、開発が始まりました。

カビとキノコ

目的の物質を探すために選んだのはカビとキノコでした。カビとキノコからHMG-CoA還元酵素を阻害する物質を生産してくれるものを探そうという試みです。

1971年から2年間、4名のメンバーで6,000株のカビとキノコを調べたとあります。

なぜ遠藤先生がカビとキノコを選んだかというと、少年時代からカビとキノコに親しみ、大学では青カビからペニシリンを発見したフレミングの伝記に感銘を受けたからだそうです。

研究開始から1年後、強い阻害活性を示すものが数株でてきました。その中で最も有望な株は、京都の米穀店の米から分離した青カビ(Penicillium citrinum Pen-51)でした。こういう話時々聞きますが、お米屋さんから買って来た(?)米から出てくるというのが面白いですね。

当初は阻害成分の生産量がとても少なかったのですが、培養方法を改良し、1973年夏にようやく有望な新物質”コンパクチン”を手にすることができました。

しかし、ここからの道のりは決して順調ではありませんでした。

製品化までの長い道のり

1974年に三共中央研究所の生物学グループがコンパクチンの薬効を評価しましたが、コレステロール低下作用がまったく認められませんでした。当時は、検体を若い健常ラットに1~2週間経口投与する評価法が流行していました。

HMG-CoA還元酵素を阻害する物質を若い健常ラットに与えても、ラットの肝臓ではHMG-CoA還元酵素が8~10倍増加してコレステロールを生産していたのです。

そこで、血中コレステロール値が異常に高い動物なら効くだろうと産卵鶏で薬効を評価することにしました。実験は成功で、副作用はほとんどありませんでした。

ところが、1977年には、肝毒性問題が起き開発が中止されました。しかし、臨床試験として家族性高コレステロール血症の10人に投与したところ、コレステロール値が約30%低下し、治療中、重篤な副作用は見られませんでした。

臨床試験が進んでいた1980年、イヌの長期毒性試験で発がん性があると疑われ、開発は全面的に中止されてしまいました。

遠藤先生は、すでに退職し、東京農工大学に勤めていましたが、転職後まもなく紅麹菌(Monascus ruber)からコンパクチン同族体「モナコリンK(ロバスタチン)」を発見し、モナコリンKの特許を三共に譲渡していました。同じ頃、アメリカのメルク社も別のカビ(Asoergillus terreus)からロバスタチンを発見していました。

しかし、三共の後を追ってメルク社もロバスタチンの臨床試験を中止しました。

その後、1981年に日本で7名の重症患者をコンパクチンで治療し、画期的な成績を発表したのを機にスタチンの開発が再燃しました。

この治療で患者のLDLコレステロール値は29%低下し、HDLコレステロールは若干上昇したそうです。

そして、1984年にメルクから商業化スタチン第1号として、ロバスタチンは「メバコール」の商品名で発売されました。

三共からは、1989年にコンパクチンに水酸基(OH)1個をつけたプラバスタチンが発売されました。

スタチンは、世界中で3000万人以上の患者に毎日投与されているそうです。コンパクチンを発見されるまでの試行錯誤も大変なことだと思いますが、そこから先、製品化までに何度も来た開発中止の危機。普通ならあきらめてしまうのではないかと思います。すごい方だなと思います。

遠藤章ウェブサイト

新薬スタチンの発見―コレステロールに挑む

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