「熟成させる」とはどういうことか

熟成とはどんなことをいうのか?発酵と熟成。よくセットになって使われます。発酵も熟成も酵素による分解です。発酵は、自分以外の菌やカビなどの酵素による分解。熟成は自分がもつ酵素による、自己消化、自家発酵することです。

「発酵」のことが一冊でまるごとわかるを読みました。この本はやさしすぎず難しすぎず、とはいうものの、どちらかというと学術書に近い立ち位置の本です。とてもよい本です。

ベレ出版の本は初めて読んだので、出版社を調べてみました。おもに学習関係の本を出している出版社のようです。なるほど。

ベレ出版 - いつも、学ぶ人の近くに
ベレ出版は、英語・各国語・数学・自然科学・人文・社会を中心に受験や成績のためではなく、実際に役立つ知識を得られるようなやさしくて楽しい学習本をお届けする出版社です。

熟成させるとはどういうことか

よく発酵食品の広告文に「○年発酵熟成させたものです」なんて書いてあります。発酵はわかるのですが、熟成がよくわからない。なんとなく寝かせておいてなじませることをいうのかなと思っていましたが、それでは説明にならないですね。

この本の第8章、肉の旨さと発酵には、どんな関係があるのかに説明されていました。

自分のもっている酵素で自家発酵するのが熟成

熟成とはどういうことでしょうか。発酵や腐敗と何が違うのでしょうか。実は、発酵も腐敗も熟成も、本質的には同じことなのです。いずれも、すべての生体の生命活動において決定的に重要な働きをする「酵素」の働きに違いはありません。(中略)

問題は酵素の所属です。発酵と腐敗を司る酵素は、問題の生命体以外の生命体からきた酵素です。平たくいえば、食品にたかる微生物からきた酵素です。

それに対して熟成を司る酵素は生命体そのものに備わっていた、「身から出た酵素」なのです。つまり、自分が持っていた酵素による自家発酵、それが熟成なのです。

熟成とは、このようにはっきり書かれています。自分が持っている酵素によって分解されることです。

もう少し踏み込んだ説明が読みたい。探してみると、肉の熟成についてという論文が見つかりました。

肉は死後硬直の後自己消化で柔らかくなる

肉は最初は死後硬直して硬くなる。死後硬直した肉はおいしくない。その後自己消化して柔らかくなり、おいしく食べられるようになります。これが熟成。

私どもが食用に供している肉は骨格筋とよばれる筋肉の部分で,動物の屠殺後数日間,場合によってはさらに長期間貯蔵してから食べるのが普通であります。現在の流通機構から考えても屠殺直後の肉を食べることはでぎませんし,また,屠殺後の肉が必ず経過する死後硬直期の肉を食べても肉質がかたくて肉汁の分離が多く,食味の悪いことが知られております。

そこで,死後硬直後におこる肉の軟化をまって食べるのが一般的であります。このような軟化現象を肉の硬直の解除とか解硬という言葉で呼んでおりますが,その機構についてはまだはっきりしたことがわかっておりません。

これらの過程中に筋肉中に存在している各種の酵素によって自己消化が起り,肉の風味がよくなり,調理材料としても適した状態に変化してきますが,このような全過程を”肉の熟成”と呼んでおります。

さて、熟成の定義はわかりましたが、最近よく聞く熟成肉は、なんとなくカビをつけてカビの消化力に頼って、アミノ酸を増やしているのかと思っていましたが、どうなんでしょう?

一番上の写真は、肉の表面の色が変わっていますが、これは乾燥状態で熟成させた肉で、乾燥熟成肉と呼ばれます。

熟成肉は、乾燥熟成肉のこと

乾燥熟成肉とはあまり聞きませんが、「ドライエージング」ということばなら時々聞きますね。もちろん、同じことです。「発酵」のことが一冊でまるごとわかるに戻ります。

最近話題を集めているのは、乾燥状態で熟成させた牛肉、乾燥熟成肉です。これは、食肉を調理前にある程度の期間保存することで、食味や食感を変化させたものです。

この間に自家酵素によって自家発酵が進み、肉は牛肉、豚肉、鹿肉、鴨肉を問わずタンパク質の分解に伴って柔らかくなり、アミノ酸が増加した結果、味も深く美味しくなります。

なぜ乾燥させるのかなと思ったのですが、青色のマーカーを引いたところ、「ある程度の期間保存する」が比較的長いという意味ではないかと思います。水分が多いと雑菌が活動しやすくなるので、乾燥させて肉が腐らないようにするのでしょう。

乾燥熟成肉の作り方

乾燥熟成の方法が少し書かれていました。熟成期間が14~35日間とはずいぶん長い。

庫内温度を低く湿度高めで空気を回しカビを生やす

代表的な牛肉の乾燥熟成プロセスとしては、ブロック(肉塊)または枝肉(半身)などを乾燥熟成庫内に一定期間貯蔵するというもので、庫内の温度を0~4℃、湿度は80%前後に保ち、常に肉の周りの空気が動く状態とします。熟成期間は14~35日間というものです。

保管中にカビが自然に生えますが、保管庫内に置いた数年物の肉についたカビを意識的に肉に移して、熟成を促すこともあるといいます。どちらの場合でも、カビが広がった肉の表面近くを調理前に削り取るのは当然のことです。

庫内の温度が0~4℃とは、家庭の冷蔵庫の冷蔵室とほとんど同じです。湿度が80%もあるのかと思うかもしれませんが、例えば、温度2℃の湿度80%と温度30℃の湿度80%では、空気中に含まれる水分量は全然違います。

温度が低くなると、結露しないで空気が含むことができる水分量は少なくなります。これは乾燥させすぎないための配慮でしょう。

目的とするカビによってタンパク質が分解されてアミノ酸になり、自己消化、自家発酵と合わせて美味しい肉になるのです。

NOTE

この本を読んで目からウロコだったのは、発酵と熟成が明確に説明されているところです。

発酵は、外から来た菌やカビの酵素によって分解されること。熟成は自分のもっている酵素で自己消化すること。しっかり覚えておきます。

タイトルとURLをコピーしました