ビタミンCの製造方法を調べてみた

この記事では、ビタミンC(アスコルビン酸)の製造方法を調べてみました。ビタミンCを製造するには、微生物による発酵と人工的な化学反応を組み合わせると書かれていたので、製造はむずかしいのかなと思いましたが、それはコストを下げるためでしょう。

つい最近、ポーリング博士のビタミンC健康法 (平凡社ライブラリー)を読んでいました。

ポーリング博士のビタミンC健康法
ポーリング博士のビタミンC健康法は、お気楽なタイトルとは反対に大真面目に読まないとなかなか理解できない内容の深い本でした。古本屋でもあまり見かけないので図書館で探すとよいでしょう。

この本は、ビタミンCをたくさん飲むと体のためによいと書かれている本です。昔の文庫本なので小さい文字で450ページ。読むのがなかなか大変でした。アマゾンではすごい値段がついています。古本屋で探すか、図書館で借りましょう。

有名な本なので図書館にあると思います。

本を神保町の古本屋で見つけて買ったのは3年くらい前のことです。斜め読みして、すぐにアマゾンで食品添加物のアスコルビン酸を1キロ買って飲み始めました。サプリメントは高いですが、アスコルビン酸のパウダーなら、1キロ1500円程度で買えます。

アスコルビン酸はビタミンCのことです。

ビタミンC

酸っぱいものは好きなので飲むのは苦になりませんでしたが、用量について自分なりに確かめながら飲んでいたわけでなく、惰性で小さじ一杯を水に溶かして飲んでいただけなので、じき、飽きてしまいました。

目のためにビタミンCを飲もうかと思って

今回、改めて丁寧に読んだのは、自転車に乗っていてひどく日焼けしたあとがシミになり、それが増えてきたり、視力が落ちていることが気になっているからです。

昨年、運転免許を更新したとき、視力検査はぎりぎりセーフでした。私はずっと視力1.5か2.0だったので、視力が落ちていくのがとても苦痛です。毎日長時間ディスプレーを見ているので仕方がないとはいえ、なんとか視力低下を遅くしたいのです。

ビタミンとは微量で間に合うものだと思っていたのですが、どうもこの本を真面目に読むと、ビタミンCをたくさん飲んでも大丈夫なんだという考えから、ビタミンCを継続的にたくさん飲んでみたいと思うようになりました。

ちなみに、ビタミンCは飲み過ぎると下痢します。

ビタミンCは発酵させてつくる?

そして、前から知りたかったことにビタミンCの製造方法があります。どうやらブドウ糖をもとに最初は発酵させて途中から化学反応をさせてつくるらしい・・・ところまでは知っていたのですが、どんな菌を使って発酵させているのだろうと興味がありました。

念入りに調べていって、「アスコルビン酸の中間体およびプロセス酵素類」という発明の明細書に書かれているのを発見しました。文献番号は、特公平5-86186です。

代表的なアスコルビン酸の製造方法の全行程の概要はこのように紹介されていました。

アスコルビン酸製造方法

アスコルビン酸製造方法

「アスコルビン酸の中間体およびプロセス酵素類」には次のように書かれていました。

D-グルコースのような通常微生物に利用される代謝産物から都合よく開始される。酵素的変換により、D-グルコースは一連の酸化過程を経由して、2,5-ジケト-D-グルコン酸を与える。

この一連の過程は単一の微生物によって与えられることが示された(中略)。

そのような微生物はたとえば、Gluconobacter、AcetobacterまたはErwinia属である。

GluconobacterAcetobacterとも酢酸菌のことです。Erwiniaはエルウィニアと読み、多くの植物病原菌がこの属に含まれるとありました。

この公報を読むと、アスコルビン酸をつくるにはいくつか方法があるようですが、2,5-ジケト-D-グルコン酸を、引用文中にあるとおり、単一の菌でつくり、さらに、2,5-ジケト-D-グルコン酸をその次の2-ケト-L-グロン酸にするには、また別の菌を使うようです。

2段発酵によるD-グルコースから2-ケト-L-グロン酸の生産を読むと、このとき使われる菌についてこのように書かれていました。

Corynebacteriumsp. 株は 2,5ジケト -D- グルコン酸を資化して 2- ケト -L- グロン酸を培地中に蓄積する.

Corynebacteriumは、コリネバクテリウム属のことです。結核菌と比較的近縁であり、外毒素を産生して、動物やヒトに対するジフテリア菌など病原性を持つものが含まれるそうです。(出典

後ろについている「sp.」 は species(種)の省略です。Corynebacterium属であることは分かっていますが、その下の種が不明な場合にこの表記を使うそうです。

いろいろな菌を使う方法が出てくるのは、D-グルコースからできるだけロスすることなくアスコルビン酸を製造したいという目的があるのです。

得られた2-ケト-L-グロン酸をアスコルビン酸に変換するのは、化学的に行います。「アスコルビン酸の中間体およびプロセス酵素類」にはこのように書かれていました。

アスコルビン酸へ変換する手段は今日では良く知られている。

これは山﨑の方法に従い、希酸の存在で加熱することにより行うか、または先ずメタノール中でエステル化し、次いで塩基中でラクトン環化する方法を用いる2段階法により行われる。

さらに微生物によるビタミン生産を読むと、別なビタミンCの製造方法がでていました。

D-ソルビトールから直接アスコルビン酸へ

上の図と見比べてみてください。微妙に違います。

これら一連の反応で、D-グルコースをD-ソルビトールに変える反応は、微生物による反応ではなく、化学的に行います。糖アルコールには、高圧条件下で金属触媒を用いて原料糖に対して水素添加をすることによって工業生産されていると書かれていました。

D-ソルビトールから先の反応については次のように書かれています。

L-ソルボースから 2-ケト-L-グロン酸を効率良く生産する Ketogulonicigenium vulgare が,L-ソルボソンから 2-ケト-L-グロン酸に加え,アスコルビン酸をも生産することが報告されている.基質を L-ソルボース,D-ソルビトールにしても,2-ケト-L-グロン酸とアスコルビン酸を同時生産した.

つまり、最初、Ketogulonicigenium vulgareは、L-ソルボソンから 2-ケト-L-グロン酸とアスコルビン酸を生産することが分かったのです。

Ketogulonicigenium vulgareは、ケトグロニシゲニウム・ウルガーレと読みます。

その後、Ketogulonicigenium vulgareにL-ソルボソンより前の物質を与えたところ、L- ソルボースでも、最初のD-ソルビトールでも代謝して、2-ケト-L-グロン酸とアスコルビン酸を同時に生産したのです。

ビタミンC製造

D-ソルビトールからアスコルビン酸

さらに、L-ソルボソンから2-ケト-L-グロン酸とアスコルビン酸を生産する菌は他にもありました。

酢酸菌 Gluconobacter oxydans からもL-ソルボソンから 2-ケト-L-グロン酸に加えアスコルビン酸を生成する L-ソルボソン脱水素酵素が精製,クローン化された.

これを読むと、細菌を増やして酵素を取りだして利用する方法のようですね。

ビタミンCを合成できない動物は少ない

ところで、こんな話を知っていますか?ポーリング博士のビタミンC健康法 (平凡社ライブラリー)から引用します。

アーウィン・ストーンは、一九六五年に「たいていの動物は、ビタミンCを合成できる。一方、人と他の霊長類 ー リーサスザル、台湾産オナガザル、オマキ(中南米産褐色尾巻)ザルなど ー は、これを合成することができず、ビタミンとして必要とする」と指摘し、ビタミンCの合成能の損失は、人と霊長類動物の共通の祖先で起こったのであろう、と結論した。

大雑把に推測してみると、この突然変異が起こったのは、二五〇〇万年前であったと思われる。

モルモットとインド産の果実食性コウモリだけが、哺乳動物のなかでビタミンCを必要とする。

また、ある種のナキ鳥とインド産のエンジャク類に属する若干種の鳥も、ビタミンCを必要とする。

しかし、圧倒的大多数の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類は、組織(ふつうは肝臓か腎臓)内で、これを合成する能力をもっている。

モルモット、果実食性コウモリ、ナキ鳥、エンジャク類の鳥が、合成能を失ったのは、おそらくビタミンCを十分に含む食物が摂取できる環境内で生息していた、これらの動物種の集団の中で、互いに無関係な突然変異が起こったせいであろう。

肝臓には、グルコースを分解していくウロン酸経路という反応経路があり、アスコルビン酸の製造方法の全行程の概要でできてくる物質とは中間物質が違っています。

しかし、途中、中間物質として2-ケト-L-グロン酸にとても近い、L-グロン酸ができます。

2-ケト-L-グロン酸はアスコルビン酸の前段階の物質でした。

両者の違いは、2-ケト-L-グロン酸の構造式の上から2番目のケト基(C=O)が(HOーCーH)に変わっているだけです。

L-グロン酸

L-グロン酸

肝臓でも、やはりL-グロン酸がもとになって、L-グロノラクトン、2-ケト-Lグロノラクトンと変化し、ビタミンC(L-アスコルビン酸)ができます。

しかし、ヒトを始め、ビタミンCを合成できない動物は、L-グロン酸の次のL-グロノラクトンまではできますが、そこから先に進行しないのです。

L-グロノラクトンオキシダーゼという酵素が欠けているためにビタミンCを合成することができません。(出典

まとめ

最初にビタミンCの製造について読んだ時、微生物を利用した発酵過程と人工的な化学反応の過程があると書かれていて、ビタミンCをつくるのはむずかしいのかなと思いました。

ヒトにはビタミンCは必須で、不足すると壊血病など大変なことになってしまいます。しかし、ビタミンCをつくることができないヒトを含めた動物は少数派でした。

限られた動物以外には、ビタミンCはごくごく当たり前のものです。

ビタミンCの製造方法を2つ調べましたが、細菌もビタミンCをつくります。人工的な化学反応と組み合わせているのは、製造コストを下げるためだと思います。化学反応を使った方が、短時間でできるのか、できあがりのビタミンCの量が増えるかどちらかでしょう。

ビタミンCはビタミンに分類されているので、微量で効き目がある貴重なものかと思ってしまいますが、そうではなくもっと普通のものです。

ビタミンCに関しては、主にこちらで書いています。ご興味があれば読んでみてください。

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