納豆のネバネバ成分は、納豆菌が増えるに従って非常食のように用意したポリグルタミン酸です。納豆菌が大豆にいっぱいになるまで増えると、栄養がとりにくくなり、ネバネバ成分を栄養にし始めます。そのため時間とともに納豆が粘らなくなります。
この記事は、納豆自作者の皆さんにぜひ伝えたい内容です。粘る納豆が好きな方はぜひ読んでください。
人を助けるへんな細菌すごい細菌―ココまで進んだ細菌利用を読みました。
とても読みやすく書かれている面白い本です。ところどころ中身が深くて楽しめます。生物を習っている最中の高校生が読んだら面白いと感じるでしょう。
納豆の粘りが減る
納豆をつくる時に長い時間保温すると、糸を引かない粘らない納豆ができるのです。
私はいつも納豆を自作しています。だいたい週に1回。それで私と妻の1週間分の量になります。いつもヨーグルトメーカーを使っています。
納豆自作については納豆の作り方 自作してみようで詳しく説明しました。何年も続けているので、すっかり慣れていて他のことをしながら片手間にできます。

ヨーグルティアで作ると、温度管理はバッチリできるのですが、1回につき乾燥大豆を300gずつ仕込むので、蒸した大豆が空気に直接触れる部分が少なくなり、いつも水分が少し多い納豆ができます。
保温時間を長くした場合
毎回45℃24時間の設定にしていますが、いつだったか、もう少し水分をきちんと飛ばしたくて、45℃48時間にしてみたことがあります。においがやや強くなり、あまり粘らない、それほど糸を引かない納豆ができてしまいました。
それまで、納豆づくりの失敗は、保温がきちんとできていないことが原因で糸を引かない納豆ができたことがあります。
かき混ぜて温度を下げてしまった場合
24時間45℃で保温しなければいけないのに、生半可な知識で納豆菌が好気性細菌なので、何時間かおきに酸素を入れてやろうとかき回したことがあります。
風味が薄く粘らない納豆になってしまいました・・・。かき回すとそれまで保たれていた温度が下がります。保温が大切なんだと学習しました。
しかし、保温時間を長くした時は一度もかき混ぜていません。かといって、できあがりの水分が減ってひどく乾燥してしまったから粘りがなくなったという感じでもありません。
なぜ糸を引かない、粘らない納豆ができたのかなと思っていました。
納豆の粘りは納豆菌の栄養が足りなくなるとつくられる
いままで全く聞いたことがない話がこの本には書かれていました。納豆菌が活発に分裂しているとネバネバしてくるのだと思っていました。
さて、このネバネバですが、納豆菌の生育とネバネバの関係を調べたところ、納豆菌が活発に分裂している間はネバネバは作られず、自分の周辺が細菌だらけになり、栄養分が足りなくなってくると、ネバネバが作られることがわかりました。
食卓に登場する納豆は、食べる時にちょうどネバネバするように発酵が調整されているのですが、そのまま納豆菌を育て続けると、やがてネバネバは消えてしまいます。
これは、納豆菌が自分で作ったネバネバを食べてしまったためです。
納豆菌は、自分の周辺が混雑して栄養分が減り始めると、必要な栄養をネバネバに変換して蓄えます。
やがて栄養分がなくなると、必要な分ずつネバネバを分解し、それを栄養源として生育を続けます。
このネバネバは、納豆菌以外の細菌は利用することができないため、限られた栄養分をいち早く自分だけが使える形に変換して確保するという、生き残り作戦の結果なのです。
ネバネバは納豆菌のあつまりだと思っていました。だから、納豆菌が増えれば増えるほどネバネバもたくさんできると思っていたのです。
ところが、納豆菌にとってのネバネバは、非常食みたいなものだということですね。
つまり、納豆菌が増えに増えて簡単に大豆から栄養を摂れなくなると、ひとまずネバネバとしてためておいて、本格的に栄養がなくなると、それを使い始める。
これは、いずれ納豆のネバネバはなくなってしまうということになります。
ところで、納豆のネバネバの粘り成分はどのようなものからできているのでしょう?
納豆の粘り成分
納豆の表面はネバネバ粘性成分と納豆菌で覆われています。
この粘性物質は納豆菌が分泌したものですが、その成分はうまみ成分のグルタミン酸が鎖のように細長くつながったものと、砂糖の成分の一つであるフラクトースが集まってできたフラクタンの、二つの成分からできています。
グルタミン酸はネバネバの本体であると同時に、納豆のおいしさの源でもあります。
フラクタンには味はありませんが、ネバネバを安定化させる役目を担っています。
フラクトースは、果糖です。フルクトースとも書きます。砂糖はブドウ糖と果糖が結合したものです。
グルタミン酸は、アミノ酸の一つです。グルタミン酸自体、大豆にもともとたくさん含まれているのですが、ネバネバ成分は、グルタミン酸がたくさん細長くつながったポリグルタミン酸という形になっています。
グルタミン酸は納豆の中でどのくらいある成分なんでしょう?
納豆の成分表を見るとグルタミン酸が多い
納豆のカロリーと成分分析を調べてみたから成分分析表を一部切り出して持って来ました。

水分を抜くと、納豆の成分は約40gそのうち約10%がグルタミン酸です。表のなかのたんぱく質とアミノ酸は重なっています。たんぱく質を構成するのがアミノ酸ですから、アミノ酸の集合がたんぱく質だと考えてください。
成分表に出ていたアミノ酸は全て書きました。グルタミン酸はダントツに多いですね。
アミノ酸は、たんぱく質を構成する材料になります。長い鎖になっていたポリグルタミン酸が切れてグルタミン酸になると、納豆菌はそれを使えるようになります。
水分 | 59.5g |
たんぱく質 | 16.5g |
脂質 | 10.0g |
炭水化物 | 12.1g |
灰分 | 1.9g |
イソロイシン | 760mg |
ロイシン | 1300mg |
リシン | 1100mg |
メチオニン | 260mg |
シスチン | 320mg |
フェニルアラニン | 870mg |
チロシン | 680mg |
トレオニン | 620mg |
トリプトファン | 240mg |
バリン | 830mg |
ヒスチジン | 480mg |
アルギニン | 940mg |
アラニン | 680mg |
アスパラギン酸 | 1800mg |
グルタミン酸 | 3200mg |
グリシン | 680mg |
ブロリン | 900mg |
セリン | 720mg |
果糖 | 0.1g |
納豆の中ではグルタミン酸がとても多いことが分かりました。では、納豆のネバネバがどのように増えてどのように減って行くのか。
粘り成分のピークは3日目
本に書かれている記事のもとになった大もとの記事を探すことができました。納豆菌も納豆粘質物(ポリグルタミン酸)を食べる!というのがそれです。
ここには納豆菌と粘り成分のグラフが載せられていて、納豆菌数の最大数はほぼ2日目達し、粘り成分のピークは3日目にありました。それ以降、7日目まで納豆菌数は横ばいですが、粘り成分は4日目から大幅に減っていきます。
細かい培養条件は書かれていませんでしたが、通常の納豆製造に準じていると思います。
発酵させる時間には注意だね
納豆を作る場合、工場でも保温を原則24時間で終えるのは、その後納豆を冷蔵庫で冷やしても静かに発酵が進むので、消費期限をなるべく長くできるよう粘りのピークを過ぎないように配慮しているからではないかと思いました。
発酵食品をつくるとき、つい、長く発酵させた方がよいのではないかと思ってしまうのですが、その後の保存期間を考えると、ピークの手前、短めで終わらせておくのがよいのかもしれません。
納豆自作をしている方、ご参考まで。
まとめ
納豆のネバネバは納豆菌の非常食みたいなもので、納豆菌が増えすぎて大豆から栄養がとりにくくなってきたら使われるようになることが分かりました。
納豆菌の分裂は、2日でほぼ最大数になりその後は一定になります。ネバネバは3日目がピークでした。
私が45℃48時間保温して、粘りが少ない納豆ができたのはなぜなのかなと考えていました。
培養温度の差が時間に関係しているのかもしれません。たとえば40℃と45℃の5℃差がどのくらい時間の長短の差になるのか分かりませんが、ブルガリアヨーグルトの培養条件のことを思い出すと、時間に影響があるのは間違いないと思います。
納豆について記事をいくつか書いています。他の記事は、納豆についてをご参照下さい。