ほんの数日前まで納豆は日本独自の食品だと思っていました。インドネシアのテンペが納豆に近いらしいということは知っていましたが、他の国では納豆はないだろうと思っていました。そして納豆はどちらかというと寒い地方の食べ物だと思っていました。九州ではそれほど嫌われていないようですが、私が学生だった1980年代の初め、関西の友達は食べたことがない、見たことがないというのも居ました。
ところが、早大探検部出身の高野秀行さんの新刊謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉
を読んだら、納豆は日本のオリジナルではないことが分かりました。
この本は、第一章がタイのチェンマイから始まります。納豆の本がタイでの話から始まるので初めはとても読みにくく感じました。しかし、350ページのこの本を読み終わる頃には、やはり高野さんの本は面白いなと思いました。納豆好き、特に納豆自作者へのヒントがいろいろ書かれています。
アジアで食べられている納豆
高野さんの本に出てくる納豆を食べる国は、中国、タイ、ミャンマー、ブータン、ネパールです。もっと調べるともっと出てくるかもしれませんね。
最初は、シャン族の納豆が出て来ます。「トナオ」と呼ばれるそうです。
タイのチェンマイでシャン族がつくっている納豆はつぶして広げて乾燥させて形はせんべいのようなものです。下のリンク先で見られます。私はGoogleChromeを使っていますが、今は翻訳までしてくれるのだから便利な時代です。ちなみにこれはバナナの葉っぱで包んで発酵させたと書かれていました。
シャン族の人たちは納豆を好み、食べない人はほとんどいないらしいです。また、ミャンマーのシャン州チェントゥンでは、味噌のようなドロドロとした納豆がありました。
出来上がった納豆をミンチにして生のショウガとトウガラシを入れ、容器に保存すると味噌のようなドロドロした納豆ができるのだそうです。
納豆は大豆をゆでて、スターターとなる納豆菌を植え付けて保温して作ります。これはどこでも一緒ですが、シャン州では納豆作りにクワ科イチジク属の青い葉っぱを使っていました。納豆菌かそれに類する菌がくっついているらしいのです。できあがりは糸を引かないのが特徴です。
また、乾いた場所に生えるシダの葉っぱを使って納豆をつくるところもありました。シダの葉の裏が大豆に触れるように包む。
今は情報過多の時代で、私たちが納豆を食べるときは体によいことを意識しますが、どうもシャン族の人たちは、調味料代わりに使っているようです。
日本には味噌や醤油があり、さらに煮干し、カツオ、サバなど出汁をとるための魚にも恵まれています。体によいかどうかなんていうのは贅沢な話で、それよりもおいしいかどうかが重要です。
納豆とゆで大豆のアミノ酸成分比較
納豆を調味料に使うなら、ゆでた大豆と納豆の成分にはどんな違いがあるのだろう?そう思って、ゆでた大豆と納豆の成分を比較してみました。特にうま味に関係があるアミノ酸についてどれだけ違うのだろうと思っていました。
うま味はウイキペディアにはこのように書かれています。
うま味(旨み、旨味、うまみ)は、主にアミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸や、核酸構成物質のヌクレオチドであるイノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸など、その他の有機酸であるコハク酸やその塩類などによって生じる味の名前。5基本味の1つ。
アミノ酸は、グルタミン酸とアスパラギン酸です。下の表を見比べて下さい。
成分 | ゆで大豆 | 糸引き納豆 |
エネルギー | 176kcal | 200kcal |
水分 | 65.4g | 59.5g |
たんぱく質 | 14.8g | 16.5g |
脂質 | 9.8g | 10.0g |
灰分 | 1.6g | 1.9g |
イソロイシン | 740mg | 760mg |
ロイシン | 1300mg | 1300mg |
リシン | 1000mg | 1100mg |
メチオニン | 210mg | 260mg |
シスチン | 220mg | 320mg |
フェニルアラニン | 860mg | 870mg |
チロシン | 570mg | 680mg |
トレオニン | 650mg | 620mg |
トリプトファン | 210mg | 240mg |
バリン | 780mg | 830mg |
ヒスチジン | 420mg | 480mg |
アルギニン | 1200mg | 940mg |
アラニン | 680mg | 680mg |
アスパラギン酸 | 1900mg | 1800mg |
グルタミン酸 | 3000mg | 3200mg |
グリシン | 680mg | 680mg |
ブロリン | 850mg | 900mg |
セリン | 830mg | 720mg |
アンモニア | 330mg | 400mg |
どうでしょう。ほとんど差がありません。食品分析では、ビタミンに多少の差があるくらいでした。ゆでた大豆と納豆では見た目は全く違い、味も全く違うのにあまり差がないのです。これは意外なことを知りました。違いは香りの成分によるものなのかもしれません。
ミツカンの納豆を科学するには、このように書かれていました。



ある研究者が納豆の醗酵中に発生する香りの成分を調べた結果、68種類のにおい成分があることが確認されました。つまり納豆のにおいは一つの物質がもとではなく、納豆菌が醗酵の途中で作り出すたくさんの物質のにおいが混ざり合ったもので、それら全体が溶けあい、一つのものになっていることがわかりました。とは言え、納豆の作るにおいの成分にも代表的なものがいくつかあります。それは、ピラジン類、ジアセチル、低級分岐脂肪酸、アンモニアです。
納豆のだしにも変わるような味は、におい成分によるものなのでしょうか?これは今後調べてみます。
納豆菌は葉っぱについている
納豆菌はどこにでもいると読んだことはありますが、自分で実験したことはありません。
高野さんは、びわの葉、笹、ワラ、ヨモギ、シダを使って納豆を作る実験をしました。ヨモギの葉っぱはうまくできなかったようですが、びわの葉、笹、ワラ、シダでは納豆ができ、それを調べてもらうと、それぞれに違う納豆菌がいることが分かりました。
ただし、葉っぱにはセレウス菌(Bacillus cereus)も検出されました。菌数が多いと食中毒を起こす菌です。納豆菌と同じように胞子を作って100℃くらいではなかなか死なない菌です。こんな菌が当たり前にいるんですね。

またその後、朴葉やトチの葉で包んで納豆を作ることにも成功しています。トチの葉は緑色のでも枯れて黄色くなったものでも成功していました。
納豆はわらに包んで作っていたと思っていましたが、大豆を包むことができる葉っぱの方が作るには手間がかからず便利です。納豆を包んでいるワラは、藁苞(わらづと)というそうですが、これはワラを束ねて作らなければなりません。
何でこんな面倒なことをするのでしょう?
納豆をワラで包むのは保存のため
高野さんらが考えた理由はこうです。
大豆ができて寒い季節に納豆を作ろうとすると、大きな葉っぱは落葉してしまい集めてくるのが困難になります。特に寒い地方では雪が降ります。
しかし、日本では稲作を行っているので、わらじや簑、畳や縄の材料として、また家畜のエサとしてワラはふんだんにとってあります。ワラで包むようになるのはその利用法の一つとして自然の流れだろう。
もう一つは、保温力がよいこと。藁布団というのも確かに聞いたことがあります。そして、多分これが一番大きいと思いますが、通気性のよさと水分調整ができることです。
これは本当にその通りだなと思いました。
自分で納豆を作っている方は、水分調整がむずかしいと思っているのではないかと思います。私もそうです。仕上がりの水分が多い。大きなタッパーのような容器にいれながら、もう少し水分が減らせるとよいと思っています。だんだんべたべたしてきます。
藁苞(わらづと)に小分けして入れてあると、通気性がある上に、ワラは水分を吸って納豆の水分調整をしてくれます。
メーカーが作る納豆は、水分調整が本当にちょうどよいと思います。自作するとメーカーの品質管理のよさがよく分かります。
クレイジージャーニーで高野秀行が「謎のアジア納豆」を語る!
2016年11月24日、TBSクレイジージャーニーに高野秀行さんが登場、アジア納豆について語っていました。
もちろん、アジア納豆の映像もあり、なかなか面白かったです。大豆は中国東北部が原産といわれていて、そこからヨーロッパやアメリカに伝えたのは、日本(旧満州)なのですが、南へはどうやって伝わったんでしょうね。
納豆に関しては、高野説では、囲炉裏の上に葉っぱに包まれて保存された煮豆が納豆化したのではないかといってました。
私が納豆を自作する時は、45℃で24時間保温します。ちょうどよい感じの環境になるのでしょうか?
納豆について記事をいくつか書いています。他の記事は、納豆についてをご参照下さい。