なぜ甘酒は飲む点滴といわれるのか?

甘酒はなぜ栄養豊富で飲む「点滴」と呼ばれるのだろう?甘酒と炊いたご飯の栄養成分を比べると、甘酒の方がぶどう糖が多いものの、その他の栄養成分はご飯の方が多い。さらに、米麹甘酒の文献を読むと、炭水化物がほとんどぶどう糖に変わっていて、「点滴」の意味がぶどう糖を補給することならその通りだと思います。しかし、遊離アミノ酸もビタミンの量も大したことはなく、栄養豊富とはいえないと思います。

甘酒

なぜ甘酒は飲む点滴といわれるのか?

以前から「甘酒は飲む点滴」といわれることに違和感を感じていました。甘酒は飲む点滴で栄養豊富だとあちこちで目にします。本当かな?とずっと思っています。甘酒が栄養豊富なら、麹で発酵させるとはいうものの、原料の「炊いたごはん」も栄養豊富ということにならないでしょうか?

この記事を書くためにいろいろ調べました。

飲む点滴といわれるのはどっちの甘酒か?

ところで甘酒には、2種類あります。酒粕から作る甘酒と、米麹から作る甘酒です。私にとっては、子供の頃から酒粕から作る甘酒の方が身近でした。月桂冠 公式ブログに酒粕甘酒(さけかすあまざけ)を作ってみた!という記事があります。酒粕をお湯に溶かして砂糖を加えます。これでは、飲む点滴にはなりません。

米麹から作る甘酒が飲む点滴

ということで、米麹から作る甘酒が飲む点滴といわれる甘酒です。私もよく作ります。甘酒をヨーグルティアでつくるに書いています。砂糖を溶かしたのとは違う、おだやかな甘さの甘酒ができます。

甘酒をヨーグルティアでつくる
甘酒は、米麹と、炊いたご飯と、水があればできます。ヨーグルティアなら60℃の保温ができるので簡単に作れます。麹1:ご飯1:水3の割合で、10~12時間保温します。ご飯と甘酒の栄養成分を比較すると、甘酒にごくごくわずかにビタミンB2が増える程...

日本食品標準成分表2020年版(八訂)で甘酒と炊いたご飯と比べてみる

では、食品データベースで、炊いたご飯と甘酒の栄養成分を比較してみましょう。甘酒は炊いたご飯に米麹と水を加えて保温して作ります。そのため、炊いたご飯よりも薄くなります。

下の表を見比べて下さい。ご飯と比べて甘酒の方がほとんどの数値が小さくなっています。

甘酒はぶどう糖が多い

ご飯と比べて甘酒は、ぶどう糖が多いです。多いといっても100g中の3g程度です。ぶどう糖は、デンプンが麹のアミラーゼで分解されてできたものです。それ以外に増えたのは葉酸くらいでしょうか。

食品100gあたりの栄養成分
食品成分めし/精白米/
うるち米
甘酒
エネルギー156kcal76kcal
水分60g79.7g
たんぱく質2.5g1.7g
脂質0.3g0.1g
炭水化物37.1g18.3g
灰分0.1g0.2g
食塩相当量0g0.2g
ナトリウム1mg60mg
カリウム29mg14mg
カルシウム3mg3mg
マグネシウム7mg5mg
リン34mg21mg
0.1mg0.1mg
亜鉛0.6mg0.3mg
0.1mg0.05mg
マンガン0.35mg0.17mg
ヨウ素0μg
セレン1μg
クロム0μg
モリブデン30μg
レチノール‘(0)‘(0)
αーカロテン0
βーカロテン0
βークリプトキサンチン0
βーカロテン当量0‘(0)
レチノール活性当量‘(0)‘(0)
ビタミンD‘(0)‘(0)
αートコフェロールTrTr
βートコフェロールTr0
γートコフェロール00
δートコフェロール00
ビタミンK‘(0)0
ビタミンB10.02mg0.01mg
ビタミンB20.01mg0.03mg
ナイアシン0.2mg0.2mg
ナイアシン当量0.8mg(0.6)mg
ビタミンB60.02mg0.02mg
ビタミンB12‘(0)
葉酸3μg8μg
パントテン酸0.25mg0
ビオチン0.5μg
ビタミンC‘(0)‘(0)
水溶性食物繊維00.1g
不溶性食物繊維0.3g0.3g
食物繊維総量1.5g0.4g
でんぷん34.5g(13.4)g
ぶどう糖0.1g(3.4)g
果糖0‘(0)
ガラクトース‘(0)
しょ糖Tr‘(0)
麦芽糖0(0.1)g
乳糖‘(0)
トレハロース‘(0)
アルギニン200mg‘(120)mg
リシン84mg‘(59)mg
ヒスチジン61mg‘(38)mg
フェニルアラニン130mg‘(79)mg
チロシン100mg‘(76)mg
ロイシン190mg‘(130)mg
イソロイシン93mg‘(65)mg
メチオニン61mg‘(40)mg
バリン140mg‘(93)mg
アラニン130mg‘(93)mg
グリシン110mg‘(74)mg
プロリン120mg‘(75)mg
グルタミン酸410mg‘(260)mg
セリン140mg‘(92)mg
トレオニン91mg‘(68)mg
アスパラギン酸220mg‘(150)mg
トリプトファン35mg‘(24)mg
システイン54mg‘(33)mg
※日本食品標準成分表2020年版(八訂)

「点滴」の意味はブドウ糖が多いからか?

点滴っていままで数回しか打たれた経験がないので、どのようなものが入っているのかよく分かりません。調べてみると、日本薬局方ブドウ糖注射液というのがあるのです。単純に水にブドウ糖だけが加えられている注射液でした。

ブドウ糖を点滴することがあるので、甘酒はブドウ糖が多いので「飲む点滴」と言われたのでしょうか?

甘酒が栄養豊富なら炊いたご飯はもっと栄養豊富だよね?

しかし、やはり、栄養豊富というのは間違っていると思います。比べてみれば、炊いたご飯の方が栄養豊富です。甘酒が栄養豊富なら、炊いたご飯はもっと栄養豊富です。ご飯を栄養豊富だという人がいるでしょうか?

これはやはり、甘酒を「売りたい」人が考えた広告文か何かの断片なのでしょう。

米麹と水だけでつくった甘酒は成分が濃い

ところで、念入りに甘酒についての論文を探していると、麹甘酒に含まれる成分についてという論文が見つかりました。

これは、日本酒好きの方にはおなじみの八海山の甘酒、麹だけでつくったあまさけについての論文でした。麹だけでつくったあまさけは、米麹と水だけで作られています。炊いたお米は使っていません。

この論文を読むと、日本食品標準成分表2020年版(八訂)と違って、炭水化物のほとんどがぶどう糖なので、飲む「点滴」の意味を感じられるようになります。

論文に書かれていた栄養成分だけ表にしました。上の日本食品標準成分表2020年版(八訂)と比較すると、結構な違いがあります。水分が少ないので、「濃い目」の甘酒です。ドロッとしているのでしょう。

炭水化物のほとんどがぶどう糖

炭水化物は100mlあたり24.8gありますが、そのうち、23.2gがぶどう糖です。日本食品標準成分表2020年版(八訂)のデータとはかなり違います。これだけぶどう糖が多いと、上で書いた飲む「点滴」といわれても、そうかなと思うようになります。

麹だけでつくったあまさけ
100mlあたりの栄養成分
食品成分
エネルギー105kcal
水分73.8g
たんぱく質1.3g
脂質0.1g
炭水化物24.8g
ナトリウム1mg
カリウム9.9mg
カルシウム1.7mg
マグネシウム1.4mg
リン12.7mg
亜鉛0.3mg
0.04mg
マンガン0.14mg
ビタミンB10.06mg
ビタミンB20.47mg
ニコチン酸(B3)0.26mg
ビタミンB60.04mg
葉酸(B9)0.27mg
パントテン酸(B5)0.03mg
ビオチン(B7)1.01mg
食物繊維総量0.3g
ぶどう糖23.2g
麦芽糖0.13g
トレハロース0.45g
アルギニン12.2mg
リシン25.6mg
ヒスチジン6.5mg
フェニルアラニン27.6mg
チロシン37.4mg
ロイシン46.7mg
イソロイシン24.9mg
メチオニン13.1mg
バリン34.9mg
アラニン39.3mg
グリシン19.6mg
プロリン16.9mg
グルタミン酸39.7mg
グルタミン29.1mg
セリン29.3mg
トレオニン22.1mg
アスパラギン酸35.7mg
アスパラギン9.6mg
トリプトファン11.3mg
システイン5.9mg
※麹甘酒に含まれる成分について

オリゴ糖が含まれる

その他に12種類のオリゴ糖が含まれていると書かれていました。オリゴ糖は、オリゴ糖とはどのようなものかに書いています。米のデンプンが麹で分解される時にできたものです。

オリゴ糖は、腸内でビフィズス菌のエサになり、ビフィズス菌を増やすことができます。

わかりにくい記号はぶどう糖(あるいはガラクトース、果糖)同士の結合の仕方が書かれているのですが、ここでは知る必要がないので、飛ばしてください。

グルコースを主成分として,二糖であるマルトース (Glc(α1-4)Glc), イソマルトース (Glc(α1-6) Glc),ニゲロース (Glc(α1-3) Glc),コージビオース (Glc(α1-2) Glc),三糖としてイソマルトトリオース (Glc(α1-6) Glc (α1-6) Glc),パノース (Glc(α1-6)Glc(α1-4)Glc) と四糖としてマルトテトラオースの存在を推定している。

著者らもこれら二糖及び三糖の 6種類を検出し, さらに二糖としてトレハロース (Glc(α1-1)Glc) とソホロース (Glc(β1-2) Glc), ゲンチオビオース (Glc(β1-6) Glc),三糖としてラフィノース(Gal (α1-6) Glc (β1-2) Fru) と二種類の未知三糖を新たに検出し,麹甘酒には少なくとも 12種類のオリゴ糖が含まれることを明らかにした。

遊離アミノ酸

上の表でアルギニンからシステインまではアミノ酸です。アミノ酸でも甘酒に含まれるたんぱく質を分解して計測したのではなく、麹甘酒の上清を分析した、遊離アミノ酸の数値を入れています。遊離アミノ酸は、甘酒の中に単独で存在するアミノ酸のことです。

スポーツ飲料よりも多く全てのアミノ酸を含む

遊離アミノ酸総量としては各社のスポーツ飲料よりも多く,また全てのアミノ酸を含むなどアミノ酸の供給源として有用である。

ビタミンB群が含まれる

ビタミンは水溶性ビタミンのB群が含まれています。論文にはこのように書かれています。

麹甘酒はビタミンの種類が豊富と言われるようにビタミン B群のうち, B12を除く 7種類が検出された。

これらビタミンは精白米にも含まれるが,麹菌によって生産・増強される。

特に, B1(チアミン)については原料米の搗精,原料処理によって著しく減少するが出麹時には 160μg/mL麹程度生産されることが報告されている。ビタミン B群の中で B7(ビオチン)が比較的多く生産されているが, B7は麹菌のペルオキシソームで生合成されることが報告されている。

これだけ読むと、ビタミンB群が多いのかなと思いますが、ビタミンB群については、以前記事を書いています。これらの記事を読んでいただくと、麹甘酒で1日の必要量を満たしているのは、葉酸くらいだとおわかりになると思います。しかし、この葉酸の数値、単位が違っているかもしれません。違っているなら、ビタミンB群は含まれていても、全て多くありません。

ビオチン(B7)と葉酸(B9)の単位はmgではなくµgかも

表を見ると、ビオチン(B7)は、麹甘酒100ml中1.01mgあることになっていますが、これは、1.01mgではなく1.01μgの間違いではないかと思います。1.01mgは、1010μgになり、ビオチンは酵母に多く含まれるでビオチンが多く含まれる食品を紹介していますが、1位のパン酵母乾燥の3倍強の数値になってしまいます。

また、葉酸(B9)についても、食品分析表で出てくる単位は、たいていµgです。表の通り0.27mgなら、270μgとなり、あおのりの素干しや、乾燥そらまめに含まれる葉酸とほぼ同じ数値になりますが、ちょっとこれは考えにくい。

甘酒はぶどう糖が多く、ぶどう糖を補給するという意味でなら飲む「点滴」といえるかも

さて、麹甘酒に含まれる成分についてを読むと、米麹と水だけで作った甘酒は、炭水化物のほとんどがぶどう糖になっていて、ぶどう糖を補給するという意味で、飲む「点滴」と言えると思います。

遊離アミノ酸とビタミンについて、量として多いのか少ないのか、ぶどう糖とアミノ酸とビタミンからなる点滴がないのか調べたらありました。大塚製薬のビーフリード輸液です。組成を見ると、500ml中、ぶどう糖は約37.5g、総遊離アミノ酸量15g、ビタミンB1(チアミン)0.75mgです。

この数字と米麹甘酒の成分を比較してみます。

米麹甘酒の成分表は、100mlあたりなので、500mlにすると、ぶどう糖は116g、遊離アミノ酸は約2.4g、ビタミンB1(チアミン)0.3mgです。

点滴の成分は、設計して決められているので、この割合でなければ体の中でうまく働かないのだと考えます。すると、米麹甘酒は、ぶどう糖が突出して多く、遊離アミノ酸、ビタミンB1(チアミン)も足りないということになります。

やはり、甘酒は、ぶどう糖を補給するという意味で飲む「点滴」といえるものの、「栄養豊富」とは言えないと思います。

NOTE

麹甘酒に含まれる成分についてには、最後にこのように書かれていました。まったくその通りだなと思います。

インターネットや雑誌には,まことしやかな効果・ 効能が列挙されているが,科学的な根拠が乏しいものや全く示されていないケースも多い。今,甘酒は空前のブームと言われるが,ただ単なるブームで終わらせることなく,科学的根拠に墓づいた正しい情報を消費者に発信することで,この「伝統的な飲み物」の素晴らしさを伝えていきたい。

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