「微生物が未来を救う」を読んだ

小泉武夫さんの20年前の本「微生物が未来を救う」を見つけて借りて来ました。NHKで放映されていた課外授業ようこそ先輩という番組に合わせて作られた本です。発酵を知るために最初に読むとよい本です。この本が書かれた当時、小泉先生は、遺伝子工学を使って微生物を操作するより、自然の中から人類の生活に有効な働きをしてくれる微生物を探してくる方が早くて安全だと考えていたようです。

細菌

図書館で見つけた「微生物が未来を救う」

年末の最終日に図書館で見つけて借りて来ました。小泉先生の「微生物が未来を救う」という本です。タイトルが昔風(=かなり前の)のつけ方ですが、読んだことがなかったです。パラパラしてみると、後ろの方にハザカプラントが出ていました。

私も以前、生ゴミなど有機性廃棄物を発酵処理するハザカプラントという記事を書いています。懐かしい。奥付を見ると、2000年の本でした。

課外授業 ようこそ先輩は、NHKで1998年から2016年まで続いた番組でした。小泉先生が母校、福島県の小野町立小野新町小学校を訪ねて発酵の授業をされたのですが、その時に作られた本です。私はこの番組は時々見ていましたが、小泉先生の授業の回は見ていなかったです。

発酵や発酵食品を知るために最初に読むとよい本

授業はかなりインパクトがあって、しかも面白いです。発酵について知りたい人が最初に読む本としてよいと思いました。まず、小泉先生といえば、シュールストレンミング。

加熱していないニシンの缶詰、シュールストレンミングの強烈なにおいで生徒達の度肝を抜き、くさやとくさやの漬け汁で追い打ちをかける。世の中にはとんでもなく(腐ったような)臭い食べ物があることを知るのですが、そこで終わらすわけでないのが、さすが大学の先生です。

次に、本当に腐ったもののにおいをかがせます。腐ったサバと腐った牛乳が出てきます。そこで腐ったようなにおいがする食べ物と腐ったもののにおいを比較して、食べられる/食べられないを区別することができることを学ぶのです。

ヨーグルト、甘酒、納豆を自作すると発酵がグッと身近になる

そして、次に、自分たちで、ヨーグルト、甘酒、納豆を作ります。どれも数時間から1日か2日でできるものです。

それまでお店で買ってきたものを自分で作ると、意外とたやすく作れること、一度にたくさん作れること、そして何より自分でも作れることを学びます。これが一番大きなことでしょう。

私も、ヨーグルト、甘酒、納豆を作りますが、初めてそれぞれ作った時は毎回「自分でも作れるんだ」という気分を味わいます。この気分は発酵や発酵食品をぐっと身近なものにしてくれます。

バイオテクノロジーよりオーソドックスの方が早い

ところで、今の時代、細菌を遺伝子組み換えして何かの目的の物質を作らせることは珍しいことではなくなりました。この本は20年前の本なので、まだ、それが始まった頃の話です。

ただ、ここで語られる小泉先生の話は書き写しておきたいと思ったので、ほぼ自分用ですが、ここに書いておきます。

自然の中から人類の生活に有効な働きをしてくれる微生物を探してくる

小泉先生は、遺伝子工学を使って微生物を操作するより、今いる微生物からヒトの生活に有効な働きをしてくれるものを探して来る方がよいと考えられているのです。

今、バイオテクノロジーで遺伝子工学とか色々な難しいことをやっていますが、わたくしはむしろ、オーソドックスに自然の中から無限の性質を持った微生物を取り出してきて、人類の生活に有効な働きをしているものを見出した方がはるかに早いと思っているのです。現実に、遺伝子工学とかニューバイオテクノロジーとだとかの世界で、どれぐらいすごくなってきたかと見渡しても、現在はほとんどないに等しい。それはこれからの課題なのですよ。

そのニューバイオテクノロジーが叫ばれて一〇年になります。ところが我々の方は、そんな遺伝子工学的なことではなくて、本当に設備も金もない研究です。例えば色を消してしまう微生物だとか、すごく汚れた川の水や排水をきれいにしてくれる微生物とか、自然界にはもう、いっぱいいるわけです。

今、一番私が注目してこれからやろうと思っているのは、海の微生物ですね。これからはマリンバイオテクノロジーあたりが非常に面白い分野だと思います。海の中の微生物というのはまだほとんどやられていません。海は発酵微生物の宝庫じゃないかな、とわたくしは思っています。

(聞き手)バイオテクノロジーというのは、学問分野では注目の最先端ですよね。先生の研究というのはどちらかと言うと、地道な方なのですか?

全くそのとおり。我々人類というのは、まだ一五〇万年とか言っていますが、微生物というのは今から三〇億年前にすでにいるわけです。三〇億年間ずっと自然の中で生きてきて、いろんな進化を経たものや、あるいはそのままの形で生きているものもいます。 ふつう、そういうものを我々が人間の都合だけを考えて自由に変えて、つまり、微生物を家畜化しようという考えを持ちますが、私はそうではなくて、彼らと共存しようという考えから彼らの自然の力を利用させてもらいたいと考えるのです。

ですから、私はニューバイオテクノロジーで遺伝子工学とかはやらず、むしろ微生物のオーソドックスな分離を考えています。限りない微生物の可能性を探した方が早いと思っています。それが自然の摂理というものではないですかね。

例えば新しいテクニックで異なった微生物同士をつくり変え、新しい微生物をつくって、人間にとって有効だと考えても、果たして他の生物に対しては害を与えるかもしれないということは考えられます。そういう意味では、取り返しのつかないような微生物学はやってはいけないですよ。

土、 一グラムの中に、微生物は日本の人口の二〇倍もいるわけです。その中にはとんでもない性質を持ったものがいます。素晴らしい性質のものがいます。そういうものを分離した方が早いのです。人間がいたずらにいろんな新しい微生物を作り出すということが果たしてどうなのかなという感じを、私は持ちます。

最先端工学には、お金も設備も必要になります。ぼくらには何もいりません。学生に「山に行ってうんこ取ってこいと言うと、全国にバッと散らばる。 そして全国から集まる。 一人三〇袋ぐらい取ってくると、一〇人の学生がいれば、三〇〇ぐらいのうんこが集まる。

これは別に金もかからずにものすごいですね。あと必要なのは寒天。シャーレに寒天を溶かして、ブドウ糖などの栄養源を入れて固める。そこで分離して、その中からおもしろい性質のものを釣り上げれば、これはもうあっという間に結果が出ます。そういうことの方がぼくはいいですね。

NOTE

少し前に、酒造りが学べる大学・学部について調べました。バイオテクノロジーについて学べる大学はとても多いですが、実際に酒造りを学べる大学はわずかしかありません。その中でも小泉先生が教えていた東京農大は、カリキュラムからして酒造りに特化している珍しい大学でした。

従来からある技術を大切に継承させようとしているのです。

さらに、小泉武夫「食いしん坊発明家」はとても面白かったに書きましたが、小泉先生は、発明家でもあるのです。調べてみると、小泉先生が発明者に名を連ねている特許出願は70件ほどありました。

今あるものから工夫するのが、小泉先生の考えのベースになっているんだなと思いました。

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