麹カビがなぜ 蒸米でよく増えると わかったのだろう?

蒸米が米麹作りに適しているのはわかったのですが、普段炊いたご飯を食べているので、なぜ蒸米が適しているとわかったのだろう?と思いました。調べてみると、大昔の弥生時代からお米は蒸して食べていたそうです。それなら食べ残したご飯にカビが生えるのは日常的に見ていただろうと思います。炊いたご飯にはカビが生えず、細菌が繁殖して腐るそうです。

麹

麹がなぜ蒸米だとよく増えるとわかったのだろう?

米麹を作る時、なぜ炊いた米でなく蒸米に麹カビを植えつけるのだろうと思ったことはありませんか?

米麹をつくる時なぜ蒸米を使うのだろう?では、蒸米を放置するとカビがつきやすく中でも麹カビが多いことを書きました。

実際、酒造りでは蒸米に種麹をふりかけて米麹を作る場面がよく出てきます。米を蒸すためには(こしき)という道具を使います。

なるほど、蒸米が米麹を作るのによいことは分かりましたが、なぜ、そんなことがわかったんだろう?思いました。

米を蒸すのは炊くことに比べて特別のことではないのか

というのも、普段、炊いたご飯を食べていますから、米を蒸すのは特別のことのように感じるのです。しかし、米麹作りに蒸米が適していると発見されるには、少なからぬ回数の試行錯誤があったはず。一体、どんな理由があって蒸すようになったのだろうと思っていました。

いつも発酵食品の本を書店で見つけるとパラパラやっていますが、小泉武夫さんの日本酒の世界 (講談社学術文庫)を読むとその理由がわかりました。

昔はお米を食べるために蒸すのが一般的だった

昔はお米を食べるときに蒸すのが一般的で、炊く(水を入れて水がなくなるまで煮る)ようになるのは後の時代になってからだったそうです。

奈良時代の風土記『播磨国風土記』に米麹による酒造りが初めて登場するのですが、その説明の中に、弥生時代前期までに米の調理法はすでに蒸していたと説明されています。

ところで、米麹を用いた酒造りが登場した最初の文献は、和銅六年(七一三年)に播磨国(今の兵庫県西南部)から録上した『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』である。

宍禾(しきわ)郡庭音(にわと)村の地名説話に「大神の御粮沾(みかれいぬ)れて䊈(かび)生えき すなわち酒を醸(かも)さしめて 庭酒(にわき)と献りて宴(うたげ)しき」(神様に捧げた強飯〔こわめし〕が濡〔ぬ〕れて黴〔かび〕が生えたので、それで酒を醸し、新酒を神に献上して酒宴をおこなった)とある。(中略)

ここに記してある「御粮(みかれい)」とは強飯(こわめし)、つまり蒸した米のことで、それを造るには、甑(こしき)、つまり蒸し器が必要となる。ところが、甑はすでに縄文時代晩期後半あたりにも出土しているし、その上、水稲と共に米の調理具として大陸型のものが渡来してきていた(和歌山市鳴神音浦出土)から、弥生時代前期は甑の使用は当たり前のことであるからである。

当時の米の調理法は強飯主体であって(それよりもっと古い時代には蕗〔ふき〕の葉や樹皮などに包んでから火で焙〔あぶ〕ったり熱灰の中に入れたりして焼いて食べた)、今日のように水と米を一緒に炊く方法は、後の世になって、炊飯用の釜や器の進歩にともない貴族間で始められたという。

蒸すのと煮るのでは、でき上がりまでの時間がかなり違います。もちろん、煮る方が早い。釜や鍋があれば煮るのは簡単ですが、縄文式土器では無理だったのかな?

少し調べてみると、米穀安定供給確保支援機構:米ネットにあった縄文人は米を煮て食べていた?というなかなか面白い記事が出てきました。お米の調理の仕方は、このように最初に短く説明されています。なるほどなあと思いますよ。煮るのは(多分)誰でも考えることで原始的なことだと思いますが、煮るから蒸すにかわったのは、煮るのがむずかしかったからです。詳しくはリンク先を読んで下さい。

考古学では稲作が行われた当初はコメを煮て調理し、のちに蒸す方法にかわり、さらに中世になって釜で炊く方法へと戻ったといわれています。

どんな時代でもお米を無駄にすることなく食べたいと思っていたのでしょう。今は炊飯器や圧力鍋、鍋や釜でご飯を炊いていますが、上薬がかかっていない素焼きの土器でご飯を炊いたら結構大変ですね。

炊いたご飯はカビないで腐る

日本酒の世界 (講談社学術文庫)には、焼いた米、蒸した米、煮た米を放置した変化が詳しく書かれています。

炊いたご飯を放置すると、カビが生えず腐るそうです。

そういえば、ご飯が「すえる」時はまずにおいがおかしくなりましたね。納豆菌のような菌が増えるのか、さらにご飯のねばりがなくなりべちゃべちゃしてきます。

米を焼いたもの、蒸したもの、煮たものの三種を用意して別々の椀に入れ、室内に放置しておく。三日目には、蒸した米の表面にはカビが旺盛に繁殖し、ほのかに甘い匂いがしてきた。

ところが煮た米では、一週間ほど経つとカビが来ないどころか細菌(バクテリア)がクリーム状の薄い膜を造って繁殖し、腐った納豆のような異臭を放った。

さらに焼いた米に至っては、何の微生物もやって来ないことがわかった。実験は何度繰り返しても結果は同じである。

あとで出てきますが、炊いたご飯にもついカビが生えるだろうと思ってしまうのは、お餅のことを思い出すからです。

私は北海道で育ちましたが、正月に飾る鏡餅は、ストーブが消えると室温が氷点下になるような室内でも数日でカビが生えていました。でも、お餅は、もち米を蒸してからついていましたっけ。炊いたご飯ではなかったです。

蒸したご飯に種麹をふりかけるのは米麹を作る方法の完成形

米麹を作るためになぜわざわざお米を蒸すのだろう?という疑問から始まって調べ始めた話ですが、大昔、弥生時代にはすでにお米を蒸して食べていた(らしい)ことがわかりました。コトバンクで弥生時代を調べると、紀元前4世紀から紀元後3世紀頃のことです。

蒸したご飯を毎日食べていると、食べ残したご飯にカビが生えることをよく見ることになります。そのカビの中には麹カビがいて、それをいつから利用し始めたのかはよくわかりませんが、8世紀の奈良時代には、麹カビを使った酒造りが行われていました。

その後、カビだらけのご飯から木灰を使って麹を単離することができるようになったのは室町時代です。室町時代は14世紀。麹カビを単離するのは麹カビが酒造りに必要なものだとはっきり分かったからです。

弥生時代から室町時代まで、ざっと1800年くらいあります。

今のようにご飯を炊いて食べる時代、米麹を作るためにわざわざお米を蒸して種麹をふりかけている光景を見ると、なぜ米を蒸かすのかなと思いますが、米麹を作るための方法がかなり長い時間をかけて完成されているのです。

カビの生えやすさは調理後のそれぞれの米の含有水分量が関係している

ところで、煮ると蒸す。その違いは、私はお米についてはわかりません。お米を自分で蒸したことがないのです。

ただ、ジャガイモが好きなのでポテトサラダを作るために煮ると蒸すことを比べたことがありその違いが分かります。私は蒸します。煮るとすぐに形が崩れて来ますが、蒸すと(なかなか)崩れません。これはもちろん水分が関係しています。煮た方がジャガイモの水分が多くなります。

お米も同じようです。

含有水分量は多過ぎても少なすぎてもいけない

そして、カビが生えるかどうかは、調理した後の含有水分量が関係しているそうです。煮ると含有水分量が多くなりますが、多過ぎても少なすぎてもいけないらしいです。

その最大の理由は三種の加熱米の水分の差にある。煮るというのは一〇〇℃という温度で水中で加熱されることであり、蒸すというのは一〇〇℃に近い温度で水の蒸気と触れることであり、また焼くというのは数百度という高い温度で水を介在させずに加熱されることであるから、それぞれの場合での間には大きな水分含有量の差が出る。

ところで、微生物の繁殖には、生育環境の水分量が重要な影響を及ぼす。水分が多すぎたり少なすぎたりしてはならず、微生物の種類によって最適な水分含量の範囲があるのである。

そこで三種の米の水分量を測ってみたところ、煮た米は約六五%もの水分を含んでいたのに対し、蒸し米では三七%、焼いたものでは一〇%以下と、大きな差があった。

麹カビの繁殖には、三五ー四〇%が最も理想的な水分活性領域で、この数字は蒸した米の水分含有量と見事に一致しているのである。私のこの実験で、蒸した米にだけ麹カビがやってきたのはそのような理由によるのであって、今日私たちの生活にあっても、正月に神棚に捧げた餅(餅は蒸した米で造る)が数日間でさまざまなカビに被われてしまうのもその例である。

麹カビが増えるには、含有水分率が35~40%がよいということです。硬めの炊きあがり(蒸し上がり)になるのでしょう。

NOTE

この記事を書きながら、赤飯とかおこわってもち米を蒸して作っていたなと思いだしていました。デパ地下にたまに行くと山菜とか栗が入ったおこわはおいしそうだなと思ったことを思い出します。ウイキペディアでおこわを調べるとこんな説明が。

おこわ(御強)とは、もち米を蒸した飯の事を言う。元々は強飯(こわめし/こわいい)をあらわす女房詞が一般化した語である。強飯とは、こわい(堅い)飯の意で、うるち米の飯に比べ、独特のもちもちとした食感と甘味がある。赤飯もおこわに含まれ、狭義では赤飯のことを指す。

さらに、コトバンクで強飯を調べるとこのように書かれていました。

おこわ,強飯(ごうはん)とも。元来は米を甑(こしき)や蒸籠(せいろう)で蒸して作った飯のことで,釜(かま)で水を加えてたく飯を姫飯(ひめいい)というのに対し,堅かったのでこの名が付いた。

おこわは、御強で、強飯のことでした。覚えておこう。

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