麹の酵素は主にアミラーゼとプロテアーゼ

米麹は甘酒をつくったり味噌つくる時に使われます。でんぷんを分解することとたんぱく質を分解することは全く別なことですが、温度条件で変わります。へえーっ不思議だなと思いましたが、麹はそれ以外にも、食品加工で使われるくらいたくさん酵素をつくります。

麹

麹で甘酒や味噌がつくれるってよく考えると不思議に思いませんか?

米麹を買って来て、甘酒をつくったり自家製味噌をつくる方もいらっしゃるでしょう。甘酒は炊いたご飯を糖分に分解してできていて、味噌は大豆のタンパク質を分解してできているのは常識です。

しかし、同じ米麹でなぜこんな違うことができるのだろうと思いませんか?

甘酒をつくる時と味噌をつくる時では温度条件が違います。

麹の酵素はアミラーゼとプロテアーゼが代表的

麹の酵素はアミラーゼとプロテアーゼが代表的です。酒造りや甘酒を作ったり、味噌を作るときに活躍します。

アミラーゼは、デンプンを分解してブドウ糖に変えます。
プロテアーゼは、タンパク質を分解してアミノ酸に変えます。

甘酒を作る時はアミラーゼ、味噌を作るときはプロテアーゼ

米麹は、いまやたいていのスーパーに並んでいます。よく見るのは、このみやここうじ。200g入りのタイプをよく見かけます。

miyakokouji

袋の裏をひっくり返すと、手作り味噌や甘酒の作り方が書かれています。

味噌を作る時は大豆のタンパク質を分解するためにプロテアーゼを働かせます。この場合は常温でよいのですが、甘酒を作るには炊いたご飯と水を混ぜて60℃位の温度で保温する必要があります。

アミラーゼを働かすには60℃位での保温が必要

甘酒の作り方を見るとこのように書かれています。アミラーゼを働かせるには60℃くらいの温度で一定時間保温する必要があります。

温度を55~60℃位に保ち、8~10時間程保温したら出来上がりです。

私も時々甘酒を作ります。甘酒をヨーグルティアでつくるという記事を書いて紹介したことがあります。

麹は食品加工用に使われる酵素もつくる

麹はこれ以外にも酵素を作ります。麹カビと麹の話 (光琳テクノブックス 1)に書かれていました。現在、古本以外入手不可能な本で高い値段がついていますが、もともとは2000円の本です。

以下の8種類の酵素は、主に食品工業用に使われているようです。麹に関係する部分はわかりやすいようにラインマーカーを引いてあります。

ペクチン分解酵素(ペクチナーゼ)

ペクチナーゼはペクチンを分解する酵素です。ペクチンはジャムに使われていますね。アオハタのペクチンとは?を読むと、ジャムがゼリーのようにゲル化しているのはペクチンのおかげです。

ペクチンは果皮,果汁,野菜汁などに豊富に存在する多糖類の1種で,これが果汁中に存在すると著しく混濁の原因となり,市場に出てから返品されるという面倒な事故をしばしば引き起こす。ペクチナーゼはこのペクチンを,ものの見事に分解してくれる重宝な酵素である。(中略)

ペクチナーゼを強く生産する工業用菌株は主として麹カビ(アスペルギルス)と青カビ(ペニチリウム)であり,中でもアスペルギルス・オリゼー,アスペルギルス・フラバス,ペニチリウム・グラウカム,ペニチリウム・クリソゲナムは現在最適菌株として使用されている。

文中に出てきた、アスペルギルス・フラバスは、アフラトキシンという猛毒も作ります。アスペルギルス・オリゼーは米麹の麹カビなので、区別してください。

ナリンジン分解酵素(ナリンジナーゼ)およびヘスペリジン分解酵素(ヘスペリジナーゼ)

麹は柑橘類の苦味を分解したり、濁りの原因となる物質を分解する酵素も作ります。

柑橘類の果汁や果皮には強い苦味を持つものがあるが、その苦味の主成分はナリンジンというフラボノイド配糖体で,グレープフルーツ,ザボン,夏みかん,レモンなどにある苦味である。このナリンジンを分解するのがナリンジナーゼで,苦味を大幅に除去または減少してくれる。代表的な生産株は黒麹カビ(アスペルギルス・ニガー)で,この菌株を培養した麬麹(ふすまこうじ)から抽出して商品化されている。(中略)

一方、温州(うんしゅう)みかん,レモン,オレンジなどの柑橘類にはナリンジンによく似たヘスペリジンを多く含んでいる。この化合物は水への溶解性が少なく,缶詰や透明ジュースの中にあって微細な白点を作ったり,混濁の原因となっている。これを分解して溶解性のあるルチノーズとヘスペレチンにするのがヘスペリジナーゼで,アスペルギルス・ニガーが強く生産する。

黒麹カビは、100年前からクエン酸製造にも使われています。もともとは、パンに生えるカビから黒麹が分離されたそうです。詳しくは、クエン酸を黒麹カビで製造する歴史は100年前からを読んでみて下さい。

クエン酸を黒麹カビで製造する歴史は100年前から
この記事では、クエン酸が黒麹を使って製造されるようになったのは100年前のアメリカからで、黒麹は、パンに生えたカビから採取されたこと、黒麹のTCA回路の反応を途中で止めることで、クエン酸がたくさん得られるようになったことを説明します。 以前...

繊維分解酵素(セルラーゼ)およびヘミセルラーゼ

繊維といわれて一番イメージしやすいのは、紙でしょうか。紙を食べても消化できないように、繊維をヒトは分解できません。でも、もともとは糖がつながってできています。麹は分解できるのですね。

繊維(セルロース)を分解する酵素をセルラーゼという。繊維は自然界に最も多く存在する多糖類で,植物(木材,藁〔わら〕,紙,パルプ,葉,茎など)の組織のほとんどはこの成分である。(中略)

カビではアスペルギルス・ニガーからも強い活性を持つ株が発見されてセルラーゼ製剤の製造に使われている。(中略)

一方、植物の木質細胞にはヘミセルロースという強固な多糖類もある。これは,セルロースがぶどう糖の重合体であるのに対し、アラビノース,キシロース,マンノース,辛くトース,ラムノースなどの種々の糖が重合しあった複雑な多糖類である。これを分解するのがヘミセルラーゼで,アスペルギルス・オリゼーアスペルギルス・ニガーなどがこれを生産する。

繊維は糖がたくさん結合したものなのですが、結合の仕方がでんぷんなどとは違っていて、アミラーゼでは切れないのです。以前書いた記事ですが、食物繊維とはを読んでいただくと少しわかっていただけるかなと思います。

脂肪分解酵素(リパーゼ)

ヒトも消化酵素リパーゼを出して脂肪を分解しています。

油脂を加水分解してグリセリンと脂肪酸にする酵素をリパーゼという。(中略)麹カビではアスペルギルス・ニガーが最適株としてリパーゼの製造に利用されている。

タンニン分解酵素(タンナーゼ)

タンニンは柿や茶などに存在している渋味成分として知られています。ワインにも入っていましたね。タンニンを分解する酵素です。

この複雑な化合物を加水分解するのがタンナーゼで,アスペルギルス・オリゼーアスペルギルス・ニガーアスペルギルス・グラウカスなどにより生産される。

最後に出てくるアスペルギルス・グラウカスとは、日本工学院のサイトにあったカビ・酵母・細菌のお話し(4)を読むと、かつお節に付けるカビのことでした。

アントシアン分解酵素(アントシアナーゼ)

アントシアンとは色素のことで、まず思い出すのはブルーベリーです。あの青紫色。そして、梅雨に咲くあじさいの花の色もアントシアンです。麹はそれを分解する酵素もつくるそうです。そんなものが必要なのかなと思いましたが。

花や果実の赤,青,紫の色素はアントシアン系化合物が多いが,この色素を分解して無色のアントシアニジンとグルコースにするのがこの珍しい脱色酵素である。この酵素はアスペルギルス属に強く,現在ではアスペルギルス・ニガーアスペルギルス・オリゼーアスペルギルス・パラシチカスなどから生産している。

この酵素は、ブラックベリーのような過剰のアントシアン色素を持つ果実のジャム,ジュース,色素の濃すぎるぶどう酒などから色素の一部を抜くのに使われているそうです。黒っぽい色を少し薄くするのでしょう。

また、最後のアスペルギルス・パラシチカスは、アスペルギルス・フラバスと同様に、アフラトキシンという猛毒も作ります。

麹の主な種類

上で書いた酵素の説明で、麹には種類があることに気づかれたと思います。代表的なものをご紹介します。

日本麹菌Aspergillus oryzae

日本の麹菌の代表です。米麹を買って来たら、まず、間違いなくこれのことです。アスペルギルス・オリゼー。日本にしかいないのです。

麹カビ属(アスペルギルス属)の中で最も代表的菌種である。澱粉分解酵素力,蛋白質分解酵素力が強いから,清酒,焼酎,味噌,醤油,甘酒,味醂などに広く使われているし,タカジアスターゼ生産株として医薬用にも使われている。

分生子(胞子)の色は通常黄緑色で,古くなると褐色を呈する。

アスペルギルス・ソヤAspergillus sojaeアスペルギルス・タマリAspergillus tamari

sojaeは大豆のことです。タンパク質を分解する能力が高く、おもに醤油醸造用として使われます。この仲間の菌種にたまり醤油用のアスペルギルス・タマリ(Aspergillus Tamarii)があります。

黒麹カビAspergillus niger泡盛麹カビAspergillus awamori

食品加工用に使われる酵素では、アスペルギルス・ニガーが大活躍でした。説明を読むとおわかりになるように、クエン酸の生産力が強いので、高温になる土地でも酒造りができます。できたもろみが酸っぱいので、蒸留してアルコールを取り出すのでしょう。

アスペルギルス・ニガーは胞子の色が黒色であるため niger の名が付いている。そのためこの株で米麹をつくるとまっ黒な麹ができる。澱粉分解力が強く,アルコール製造の際の原料糖化に使用されたり,過去には焼酎の製造用にも使われた。

またクエン酸の発酵力も強く,多量のクエン酸をぶどう糖から造る際にも応用されている。(中略)

アスペルギルス・アワモリは沖縄の泡盛の製造に使われる代表的な焼酎麹カビである。ニガーと同様に糖化力が強いうえにクエン酸の生産が強く,泡盛原料の蒸米上で増殖(製麹)する時,強くアミラーゼを生産するほか多量のクエン酸を米麹に蓄積させることになり,仕込み後のもろみのpH(水素イオン濃度)を低下させる。pHの低下は雑菌による汚染防止となるため沖縄のような温暖な土地でも焼酎もろみは他の有害菌の侵入を受けることなく安全に焼酎を得ることができる。

NOTE

麹は温度条件を変えるとアミラーゼとプロテアーゼの生産量が変わることがとても面白いなと思いました。そして、他にもいろいろな酵素をつくります。

何だか不思議な感じもしますが、よく考えれば、カビは、葉緑素を持つ植物とちがって食べ物(養分)を自分でつくることはできません。ヒトと変わらないのです。

外から養分を得て利用するには、何種類も酵素が必要になるのは当然ですね。

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