乳酸菌が乳酸をつくる経路は2つある

乳酸菌がブドウ糖から乳酸をつくる経路を調べました。大部分の乳酸菌はヒトの細胞と同じ解糖系で乳酸をつくりますが、ヘテロ発酵の乳酸菌は、別の経路を使います。

エンテロコッカス・フェカリス

乳酸菌がブドウ糖を乳酸に変える仕組みと、ヒトの筋肉がブドウ糖を乳酸に変える仕組みが同じなのか違うのか調べてみました。

乳酸菌の保健機能と応用には、乳酸菌から乳酸がつくられる経路が2つ載せられていました。

無酸素呼吸も発酵といわれる

発酵は、一般的に、微生物が人間の生活に役立つものをつくってくれることをいいますが、それは微生物が生きていくエネルギーをつくることでもあります。

乳酸菌は、通性嫌気性菌で酸素があっても生きて行けますが、酸素を必要とはしていません。エネルギーをつくるために酸素を必要としないことも「発酵」といいます。

乳酸発酵やアルコール発酵のように従属栄養細菌が人間の生活に有用なものを生成することを「発酵」と呼んでいるが、生化学の世界では「発酵」は呼吸形式の意味にも使われている。

つまり、呼吸には酸素を必要とする呼吸(酸素呼吸)と酸素を必要としない呼吸(無酸素呼吸)とがあり、酸素を必要としない呼吸のことを「発酵」と呼んでいる。

発酵によって細菌は外界から取り込んだ栄養素からエネルギー(ATP)をつくりだし、ATPのもつ高いエネルギーを自己の細胞の増殖に利用している。

ATPの役割は細菌に限らずヒトを含めたあらゆる生物においても同じであり、ATPを沢山つくることのできる生物は、それだけ大きな代謝エンジンをもっていることになる。

無気呼吸(つまり発酵)をおこなう微生物の場合は酸素呼吸をする微生物よりも原始的で、通常一分子のグルコースを消費して僅か2分子のATPをつくる力しかもっていない。しかし、無気呼吸をする細菌は、ATPをうまく使って35億年もの間生命を維持させてきたのである。

乳酸菌の発酵の経路は2つある

乳酸菌は、ブドウ糖を代謝して乳酸をつくるのが特徴です。細胞内小器官であるミトコンドリアを持っていないので、たくさんのATPをつくるためのTCA回路(クエン酸回路)はありません。乳酸が最終代謝物です。

しかし、すべての乳酸菌が乳酸だけをつくるわけではありません。

ホモ発酵型とヘテロ発酵型

乳酸菌には、ホモ発酵型とヘテロ発酵型があります。

ホモ発酵型では、ブドウ糖から乳酸だけがつくられます。一方、ヘテロ発酵型では、ブドウ糖から乳酸とアルコール(エタノール)がつくられます。

どうやら、大多数がホモ発酵型で乳酸だけをつくるようです。

Leuconostoc属と一部の乳酸菌を除くすべての乳酸菌は解糖系(Glycolysis, Embden-Meyerhof pathway)と呼ばれる経路でグルコースを分解する。

Leuconostoc属は、リューコノストック属と読みます。ウイキペディアには、ザワークラウトなどの発酵植物製品から分離されるとありました。(出典

ホモ発酵型(解糖系)

ホモ発酵型では、ブドウ糖がすべて乳酸に分解されます。この過程は、ヒトの細胞がブドウ糖を分解する解糖系とまったく同じです。

ヒトの細胞と同じ

乳酸菌もヒトの細胞も同じ経路でブドウ糖を分解します。

乳酸菌の場合は、乳酸が最終物質です。しかし、ヒトの場合は、その先にミトコンドリアがあるので、ピルビン酸からアセチルCoAになりミトコンドリアの中に入ります。

TCA回路の中でさらに分解されるには、酸素が必要になりますが、酸素が足りない場合、一時的に乳酸がたまる場合があります。

この図は、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版に出ていた図を書き写したものです。

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版を表示し

乳酸菌の場合は、一番上のグリコーゲン、グルコース1-リン酸は関係ありません。また、下に赤字で書いたクエン酸回路(TCA)回路も関係ありません。

ヒトの細胞の場合は必要です。

解糖系

ヘテロ発酵型は解糖系とはちがう

ヘテロ発酵型の場合は、キシルロース5-リン酸まで解糖系とは違っています。その次のグリセルアルデヒド3-リン酸から先は解糖系と同じです。また、アセチルリン酸が分かれ、こちらがエタノールになります。

キシルロース5-リン酸までの経路は、ペントースリン酸経路の一部です。イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版にはこのように説明されていました。

ペントースリン酸経路は,グルコース代謝のもう1つの経路である.この経路ではATPは産生されないが,(1)脂肪酸およびステロイド合成に必要なNADPHの産生,および抗酸化活性のための還元型グルタチオンの維持,(2)ヌクレオチドおよび核酸合成に必要なリボースの生成,という2つの主要な機能をもつ.

解糖系とは違っていること、エネルギーであるATPを産生しない経路を途中まで進むとだけ知っておけばよいと思います。

図は、乳酸菌の保健機能と応用に出ていた図をもとに、構造式を書き足しました。グリセルアルデヒド3-リン酸から先は解糖系の図と同じです。

乳酸ヘテロ発酵型

まとめ

乳酸菌が乳酸をつくる経路は、きっと解糖系なのだろうと思っていましたが、乳酸菌はミトコンドリアを持たないので、ひょっとして少し違っているのではないかとも思い、ときどき思い出しては本を探していました。

やっと見つかってよかったです。やはり、ヘテロ発酵型の場合が違っていました。

乳酸菌が糖を分解することは、乳酸菌が糖を分解して乳酸をつくるのはエネルギー獲得のために基本的なことは書きました。

乳酸菌が糖を分解して乳酸をつくるのはエネルギー獲得のため
失敗せずに自作ヨーグルトができるのは、乳酸菌の出す乳酸のおかげです。しかし、一方で乳酸は筋肉の疲労物質ともいわれています。同じ乳酸なのにどうしてこんなに扱いが違うのでしょう。乳酸菌の乳酸も筋肉の乳酸も全く同じ仕組みでできています。

そちらもよかったらお読み下さい。

乳酸について他の記事は、まず、乳酸とはどのようなものかをお読み下さい。

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