乳酸とはどのようなものか

乳酸菌の乳酸と、筋肉にたまる乳酸。何となく別なものであるように感じます。乳酸とはどのようなものか。乳酸発見の歴史と解糖系で乳酸ができる仕組みを知ると、同じものだと分かるようになります。

sour milk

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乳酸の構造と性質

乳酸は、分子式 C3H6O3、示性式 CH3CH(OH)COOHで表される有機酸です。カルボキシ基(-COOH)がついているので、酸性を示します。

構造式

構造式は下図の通り。天然物ではL-乳酸が多いそうです。

乳酸

L-乳酸とD-乳酸の違いは異性体といいます。このことについては、乳酸の用途や製造法を調べていたら異性体も知らなければならなくなったに書きました。

この記事では、乳酸の構造式と異性体について。異性体のRS表示法とDL表示法について。乳酸の乳酸菌を使った製造方法について。乳酸の用途と多く含...

乳酸のすっぱさ

乳酸って「酸」だからすっぱいのかな?どのくらいすっぱいのだろうと思います。答えは簡単。ヨーグルトは牛乳を乳酸菌で発酵させてつくりますが、食べるとすっぱいですね。あの酸味が乳酸のすっぱさです。

お酢のような強烈な酸味ではなく、ほのかにすっぱい。

乳酸菌がつくる乳酸と筋肉でできる乳酸の違い

乳酸について興味を持つと、だいたい2つの乳酸について知ることになります。

  • 乳酸菌がつくる乳酸
  • 筋肉でできる乳酸

乳酸菌がつくる乳酸は、発酵食品に関係しています。一方、筋肉でできる乳酸は、疲労物質として知られています。もっとも、こちらの乳酸は、2000年以降、疲労物質ではないといわれるようになりました。

細菌がつくる乳酸と、筋肉でたまってくる乳酸に違いはありません。同じ物質、同じ乳酸です。

しかし、私たちが受ける印象は、それぞれかなり違いますねえ。

乳酸菌がつくる乳酸は役に立つ

乳酸菌がつくる乳酸について、だいたい次のような発酵食品をつくる時に話が出てきます。私もいくつか記事を書きました。主な役割は、環境を酸性にして雑菌を繁殖させない働きがあります。保存性がよくなります。そして風味をつくるもとになります。

  1. ヨーグルト
  2. 漬けもの
  3. 味噌・醤油
  4. 日本酒

ヨーグルト

ヨーグルト

ヨーグルトは牛乳を乳酸菌で発酵させてつくります。ヨーグルトが固まるのは、牛乳のたんぱく質が乳酸で固まるからです。

牛乳はそのまま放置しておくと腐ってしまいますが、乳酸菌を加えることによって、他の雑菌が繁殖することができなくなり、乳酸菌がたくさん増えて保存性がよくなり、傷みにくくなります。

漬けもの

浅漬け

浅漬けもぬか漬けも乳酸菌によって発酵させてつくります。漬けものに塩をするのは、雑菌を増やさない工夫でもあります。

浅漬けの正しい漬け方が分かる本では、著者、針塚藤重さんの漬け方を紹介しました。

浅漬けは、野菜を浅漬けの素に混ぜてもみもみするものではありません。乳酸発酵した漬物です。針塚藤重さんの「漬けもの名人が教える おいしい浅漬け」を読むと、塩分3%で乳酸発酵する浅漬けの作り方を学ぶことができます。

漬けものの乳酸菌は、材料になる野菜についている耐塩性の乳酸菌です。乳酸が増えれば酸性になり、より雑菌が増えにくい環境になります。つけものが古くなると酸っぱくなるのは乳酸のためです。

味噌・醤油

味噌

味噌

味噌は大豆と米麹で仕込みます。米麹が大豆のたんぱく質を分解してくれるのですが、味噌づくりには麹だけが活躍するのではありません。乳酸菌と酵母も一緒に働きます。

味噌の中でも乳酸菌が活躍しているに詳しく書きました。

このブログを始めて改めて知ったことがあります。それは、「酵母と乳酸菌は相性がよい」こと。特にお酒に関しては、日本酒でもウイスキーでも酵母の前...

乳酸菌は、乳酸を作り、味噌に酸味を与えて大豆臭を取り除き、環境を酸性にすることで酵母の発育を促します。酵母はアルコールをつくり、香り成分であるエステルをつくるもとになります。

たまり醤油

醤油

醤油の場合も味噌と変わりません。

乳酸菌は乳酸をつくります。乳酸が増えると、諸味(もろみ)が弱酸性になります。乳酸菌は与えなくても蔵に棲みついているのが入って来ます。味に酸味を加え、また、次に酵母が増えてできてくるアルコールとエステル反応して、香りを作ります。乳酸は酵母を増やす条件を整えます。

醤油の作り方-本醸造-に詳しく書きました。

家庭で味噌を作る人は結構いますが、醤油を作っている人はあまり聞きません。手作り醤油を作った人を検索してみると、地球のココロに3年前に仕込んだ...

おりがらみ

日本酒

日本酒は、蒸したお米に麹を植え付け、酵母を添加してアルコール発酵させます。このときも乳酸菌が活躍します。

わが家でできるこだわり清酒に詳しく書きました。

わが家でできるこだわり清酒―本格ドブロクも指南を読みました。 著者の永田十蔵氏は、もと麹屋さんだそうです。わが家でつくるこだわり麹―米...

日本酒造りで酛(もと)は酵母を増やす工程です。酛の中では、麹によってデンプンの糖化が始まると同時に、自然界にある乳酸菌が酛に取り込まれ、糖を乳酸に変える乳酸発酵が進みます。乳酸によってpHが下がって酸性になります。雑菌は増殖できず、あるいは死滅します。

その間、酵母が酸性条件下で増殖し始め、アルコールを生産します。しばらく乳酸菌と酵母が同居することになりますが、乳酸菌はやがて乳酸とアルコールによって死滅します。

以上、書いてきたように乳酸菌がつくる乳酸は、発酵食品をつくるために実に役に立つのです。

筋肉にたまる乳酸は疲労物質?

筋肉にたまる乳酸は、少しイメージがよくないです。疲労物質であると長くいわれてきました。休日にランニングしている方、そして、長距離を走る方には常識だと思います。

しかし、発酵食品が好きな方にとっては、乳酸菌がつくる乳酸の方に関心があり、知るにつれ、発酵には乳酸菌と乳酸が欠かせないものだと思うようになるでしょう。

一方、筋肉に乳酸がたまる話は、知識としては知っていても何か腑に落ちない気持ちを持つのではないでしょうか?たとえばこのように。

乳酸は、周囲の環境を酸性にするので、雑菌が増えないようにしてくれた・・・。
乳酸があると、酵母が増える・・・。
乳酸とアルコールでエステルがつくられると芳香成分になった・・・。
しかし・・・
なんで筋肉にも乳酸ができるのだろう・・・。
乳酸が疲労物質というなら体によくないのだろうか・・・。

実は、私が一時そんな気持ちを持っていたのです。特に乳酸はからだによくないのかな・・・と何となく思っていました。

こんなときは、まず、乳酸の発見の歴史を調べてみるといろいろなことが分かります。

乳酸発見の歴史

乳酸は、最初にサワーミルク(もしくは、腐った牛乳ともいわれる)から発見されました。1780年のことです。

その後血液や筋肉からも発見されます。乳酸菌からも発見されましたが、それより前に疲労した筋肉から発見されていました。1840年ころです。

この時代は、筋肉に乳酸が発見されても、筋肉を動かすエネルギーになるものは何か分かっていませんでした。そこで、グリコーゲンがブドウ糖に分解され、それが乳酸になる反応がエネルギーを生み出す、乳酸学説が注目されました。

しかし、10年足らずのうちに、それが間違いであることが判明します。

ただ、筋肉をよく動かし酸素が不足した状態では乳酸濃度が高くなることには変わりがないので、今世紀になるまで、乳酸は疲労物質だと考えられていました。

乳酸が発見されて疲労物質となるまでに詳しく書きました。

この記事では、乳酸が発見されてから乳酸学説によって乳酸がエネルギー代謝に深く関係していると思われていた時代までを調べて、なぜ乳酸が疲労物質だ...

乳酸はブドウ糖が代謝されてできる

乳酸菌でも筋肉でも、乳酸は、ブドウ糖が代謝(分解)されてつくられます。

ATP(アデノシン三リン酸)を得る

その目的は、ブドウ糖を分解してATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを得るためです。乳酸はブドウ糖を分解した結果できるものであって、乳酸をつくるためにブドウ糖を分解しているわけではありません。

発酵食品をつくる時、乳酸菌が乳酸をつくり環境が酸性になるので雑菌が増えにくくなり、酵母が増える条件になると書きました。これは乳酸菌が酵母のために乳酸をつくっているわけではありません。酵母が乳酸菌が増えた環境を利用しているのです。

乳酸菌は、自分が生きていくエネルギー、ATPをつくるためにブドウ糖を分解しているだけです。

乳酸菌が糖を分解して乳酸をつくるのはエネルギー獲得のためでは、乳酸菌が発酵するのは、誰かに利用してもらうためでなく、自分が生きていくためであることを強調して説明しました。

失敗せずに自作ヨーグルトができるのは、乳酸菌の出す乳酸のおかげです。しかし、一方で乳酸は筋肉の疲労物質ともいわれています。同じ乳酸なのにどうしてこんなに扱いが違うのでしょう。乳酸菌の乳酸も筋肉の乳酸も全く同じ仕組みでできています。

乳酸菌も筋肉も同じ仕組みで乳酸をつくる

乳酸菌は1個の細胞です。筋肉もばらばらにすれば細胞をたくさん集めたものです。ブドウ糖を乳酸に分解するのは、それぞれの細胞の中で行われます。

解糖系

炭素数6ブドウ糖が炭素数3のピルビン酸まで分解される過程を解糖系といいます。下に解糖系の反応図を載せます。

覚える必要はありません。α-D-グルコース(ブドウ糖)がいくつもの反応を経て、炭素数3のピルビン酸まで変化しながら、2分子のATPを使い、4分子のATPがつくられ、差し引き1分子のグルコースから2分子のATPがつくられることになることを知ってください。

炭素数6のブドウ糖1分子は、分解されて炭素数3のグリセルアルデヒド3-リン酸からは2分子になります。

そして解糖系から先に、細胞内小器官ミトコンドリアでもっとたくさんのATPをつくるTCA回路(クエン酸回路)があり、筋肉細胞では、ピルビン酸はTCA回路に向かいます。

ミトコンドリアでの反応には酸素が必要です。一方、解糖系の反応では酸素を必要としません。もし酸素が不足していると、ピルビン酸から先に反応が進めなくなり、ピルビン酸は乳酸になってたまっていきます。

解糖系

乳酸菌、赤血球はミトコンドリアを持たない

一方、乳酸菌は、ミトコンドリアを持っていません。また、われわれの体の細胞の中でも、赤血球にはミトコンドリアがありません。

このような細胞では、乳酸が最終物質になります。

乳酸菌のヘテロ発酵型は途中まで別な経路をたどる

乳酸菌には、いろいろな種類があります。ブドウ糖を分解して乳酸だけをつくるものをホモ発酵型、乳酸とアルコールをつくるものをヘテロ発酵型と呼んでいます。

ホモ発酵型の乳酸菌は、上の図にある解糖系をそのままたどります。しかし、ヘテロ発酵型の乳酸菌は、一部、別な経路をたどり、途中から解糖系に入って来ます。

乳酸菌が乳酸をつくる経路は2つあるで詳しく説明しました。

乳酸菌がブドウ糖から乳酸をつくる経路を調べました。大部分の乳酸菌はヒトの細胞と同じ解糖系で乳酸をつくりますが、ヘテロ発酵の乳酸菌は、別の経路...

乳酸菌の乳酸は最終物質だが、体の中の乳酸は再利用される

乳酸菌は、ミトコンドリアを持っていません。そのため、乳酸は最終物質です。ヨーグルトや漬けものは古くなると酸っぱくなっていくのはそのためです。

しかし、われわれの体の中では乳酸は再利用されます。

糖新生という仕組み

赤血球はミトコンドリアを持たないので、乳酸ができます。また筋肉でも乳酸がたまります。これらは、肝臓や腎臓に送られて、再びブドウ糖に戻される糖新生という仕組みがあります。

乳酸は肝臓に戻されて再びブドウ糖になるに詳しく書きました。

筋肉や赤血球でつくられた乳酸は、血液を流れ、肝臓や腎臓に送られて、糖新生によって再びブドウ糖に変わります。その道筋を追ってみました。 ...

疲労物質といわれていた乳酸は、体によくないものではありません。

まとめ

乳酸菌のつくる乳酸と疲労物質の乳酸が同じものだとは、最初はなかなか思えないものです。

しかし、乳酸が発見された歴史を知ると、ああそういうことなのかと分かってきます。やはり歴史を知ることは大切だなと思います。

乳酸は、ブドウ糖が代謝(分解)された結果であり、ブドウ糖を分解する目的はATP(エネルギー)を得ることにあります。

乳酸菌も筋肉の細胞も、解糖系と呼ばれる経路でブドウ糖を代謝します。ただし、ヘテロ型の発酵をする乳酸菌は、一部違う経路をたどり途中から解糖系でブドウ糖を代謝します。

乳酸菌は、ミトコンドリアを持たないので、解糖系だけでエネルギーを得ており、乳酸が最終物質です。

筋肉の細胞では乳酸がピルビン酸に再び変わり、ミトコンドリアのTCA回路(クエン酸回路)に向かって送られます。

もし、大量に乳酸がたまった場合は、肝臓や腎臓で再びブドウ糖に戻す、糖新生という働きもあります。

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