わが家でできるこだわり清酒

わが家でできるこだわり清酒―本格ドブロクも指南を読みました。

著者の永田十蔵氏は、もと麹屋さんだそうです。わが家でつくるこだわり麹―米・豆・麦から雑穀までや、誰でもできる手づくりワイン―仕込み2時間2か月で飲みごろとか、誰でもできる手づくり酢誰でもできる手づくり味噌―はじめてでもできる極上の味という本も書かれています。

この本は、酒のつくりかたの本です。とても面白い。酒造会社やメーカーのサイトにも酒を造る説明がありますが、この本は自分で作りながら解説しているので、まるで農学部の学生になって実習しているかのような気分で読めます。きっと永田さんのその他の本も同じように書かれているのだろうなと思います。

書かれていた中で、私にとって勉強になったことを書いておきます。

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アミラーゼは熱に強い?

ビール造りはまず大麦を発芽させてモルトを作らなければなりません。大麦は発芽すると胚乳(芽が生長するときの栄養分になるところ)と種皮の間にアミラーゼができます。アミラーゼは、デンプンをブドウ糖に分解する酵素です。

その後、モルトは、80℃で加熱・焙煎されます。これは乾燥室のような所に入れて行われるようです。この工程で、胚乳のアミラーゼは固定され、胚乳のデンプンはアルファー化されます。アルファー化というのは、加水分解が容易に行われる状態です。昔から登山用品店には、アルファー米というのを売っています。水を入れればごはんに戻る乾燥食品です。

酵素はタンパク質で高い温度には弱い、変性すると昔生物の授業で習った覚えがあります。それで温度に弱いのかと思っていましたが、80℃の温風で乾燥させられても平気だということを初めて知りました。

酵母は麹から米から空気から?

酵素資源余話-酵素のおもしろさを尋ねてでは、日本酒の発酵について特に並行複発酵について知ることができました。酒母づくりでは、蒸し米、麹、酵母、乳酸を仕込んでつくるのが現代のスタイルですが、この本にある昔からのどぶろくのつくりかたを読むと、水、麹、蒸し米だけで酒はできるようです。

麹は蒸し米を糖にするために使っているのですが、空気中にいる酵母が入ってきたのか麹に一緒にいるのか、麹と共存してアルコールをつくるようになります。麹は雑菌をシャットアウトするのですが、酵母には寛容なのです。

ちなみに、韓国のマッコリも水と蒸し米と麹だけで作られているそうです。

酛の先祖そやし

さらに、「そやし」というのが紹介されていました。そやしというのは、昔々の酒造りにつかわれていた酛の先祖だそうです。

小さなおにぎりを作り、容器に入れる。そのおにぎりがかくれるくらいに白米(炊いてない生のもの)を入れる。最後に水を米の量(重さでなく体積。何合でしょう)の2倍ほど入れる。これに軽くふたをして数日置くと、ぶくぶくと泡が出て来ます。これが、酵母が増殖して発酵を始めた証拠なのだとか。

そうすると、おにぎりは炊いたご飯ですから一度殺菌されています。すると生の白米に酵母がついていてそれがおにぎりのでん粉質をえさに増殖したということなのでしょう。

その後、蒸し米、麹、水に、そやしを入れてどぶろくを仕込むそうです。

酵母は白米にいるのは間違いないのでしょう。しかし、麹は蒸し米に種麹を植え付けていますから、一度白米は殺菌されています。空気中の酵母が蒸し米について麹菌と一緒に増えたのかよく分からないのですが、少なくとも白米に酵母がついていることは分かりました。

果物に酵母がついているのは知っていましたが、白米に酵母がついていたのは初めて知りました。

そやしは、水酛、くされ酛(あんまりいい名前じゃないですね)ともいわれていたそうです。

酛の中で起きていること

日本酒造りで酛は酵母を増やす工程です。この本のおかげで本当にいろいろなことが分かりました。

酛の中では、麹によってデンプンの糖化が始まると同時に、自然界にある乳酸菌が酛に取り込まれ、糖を乳酸に変える乳酸発酵が進みます。乳酸によってpHが下がって酸性になります。雑菌は増殖できず、あるいは死滅します。

その間、空気中の酵母、麹についていた酵母が酸性条件下で増殖し始め、アルコールを生産します。しばらく乳酸菌と酵母が同居することになりますが、乳酸菌はやがて乳酸とアルコールによって死滅します。

このように説明されると実に分かりやすいです。しかし、もう少し詳しく知りたい。

特定非営利活動法人酵母細胞研究会の記事に、清酒醸造において酵母と共に活躍する乳酸菌の魅力というのがありました。

かいつまんで説明します。

生酛(きもと)づくりとは

生酛(きもと)づくりと酒のラベルに書いてあるものがあります。生酛は天然酵母を取り入れて増やす方法です。

生酛では、蒸米、米麹、水を混ぜ合わせた後、6℃くらいの低温に保つことで野生酵母などの雑菌の活動を抑えます。酒造りに低温が欠かせないのはこのためでしょう。この期間を打瀬(うたせ)と呼びます。

この期間には、まず硝酸還元菌が生育し、硝酸塩を還元して亜硝酸を生成する。硝酸還元菌は、仕込み水や米にくっついているそうです。硝酸塩も仕込み水に入っているようです。

その一方、低温増殖性の乳酸菌も活動を開始します。まず、球菌である Leuconostoc mesenteroides が生育を始めます。この菌はヘテロ型発酵といって、ブドウ糖から乳酸と乳酸以外のもの(アルコールなど)をつくります。その後、桿菌(細長い菌)であるLactobacillus sakei が増殖することで、優占菌がLactobacillus sakeiになることが知られています。この菌はブドウ糖から乳酸だけを生成するホモ型発酵をします。

そして乳酸菌がつくり出す乳酸と亜硝酸により野生酵母は淘汰されます。このような乳酸酸性下で、乳酸に強い清酒酵母が増殖しながらアルコールを生産します。

生酛で生育する乳酸菌はアルコールに弱いため死滅し、やがて清酒酵母のみが増殖することになります。

明治時代に発酵学が入って以後、アルコール発酵の主役は酵母だと分かるのですが、酵母も乳酸菌も分からない時代から菌の性質を利用した醸造方法があったのですから、人の知恵の集積というのはすごいですね。

本には発芽玄米酒のつくりかたなんていうのも出ていました。読みやすいのに内容が深い本です。本当に。

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