「酒の戦記―ほんものの酒と農に挑み続けた人々の証言」を読んだ

神亀酒造、小川原良征さんの「純米酒にこだわり続ける理由」というインタビューを読みました。品質のよい酒は翌日残りにくい。日本酒の品質は昔に比べてぐっと上がっていますが、一方では安い第3のビールが売れている時代です。お酒を長く楽しむには品質のよいものを選ぶ必要があるかもしれません。

天寶一

本棚を整理していたら、酒の戦記―ほんものの酒と農に挑み続けた人々の証言が出てきました。

著者の尾瀬あきらさんは、1990年頃に大ヒットしたマンガ、夏子の酒を描かれた方です。

本の奧付を見ると1994年第3刷とあったのでその頃買ったのでしょう。すっかり忘れていました。そして、この本は現在本屋さんに並んでいる本と比較すると、ビックリするくらい字が小さい。つまり中身がビッシリ詰まっているのです。

本の最初が、なんと埼玉の神亀酒造、小川原良征さんの「純米酒にこだわり続ける理由」というインタビューでした。

先日、「どはどぶろくのど 失われた酒を訪ねて」を読んだという記事を書きましたが、この本を読んで一番印象に残ったのが、神亀酒造、小川原良征さんの濁り酒の話でした。

この記事では、酒の戦記―ほんものの酒と農に挑み続けた人々の証言のインタビューで印象に残ったところを抜き書きしておきます。

この本、もちろん絶版なので現在古本しか手に入りません。図書館にもきっとあるでしょう。定価1500円でした。ご参考まで。

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東京農大で純米酒を造る

農大とは、醸造学科のあるもちろん東京農大のことです。

―農大に行かれて勉強されて、酒造りの面白さみたいなものはその頃すでに感じていたんですか・・・。

小川原 農大で造る酒は純米でしょ。おもしろかったですよ。

―純米酒を造らせたわけですか。

小川原 だって、初めは純米でしょ。添加アルコールを買うとまた余分なお金が掛かるから、添加アルコールなしなんですよ。で、発酵したもので純粋にどんなものが生産されるかとか、そういうものもデーターをとったんです。

で、それをやっていると、手抜きをすれば手抜きをした酒、ちゃんと管理すればちゃんと管理した酒、本当に差が出ます。で、純米酒というのはおもしろいなと。

農大で造った酒、よく出来ていてうまかったですよ。度数が九度位でも飲めるんです。精白が悪いでしょ、味がどっと出るんです(笑)。

それを割り水(加水)していくと、あっ、このころ飲み頃かなってアルコールを計ると九度か十度位なんですね。ビールよりちょっと高い位です。

でもそれに炭を入れて濾過すると、うま味も雑味も全部味がぬけてしまって飲めないのです。

―水に近くなっちゃいますからね。

小川原 そうですね。きれいにするということですけれど、おいしいところもみんな取ってっちゃうんですよね。こんなに活性炭というのがもてはやされるようになったのは明治以降でしょ。

その昔は本当に炭を使うといっても木炭をばんとぶち込んで少し置いておくくらいでしょ。そんな感じの濾過しかしなかったわけですから。

―それじゃ、すでに大学時代に酒造りはこんなふうなものをやりたいなという、理想みたいなものが芽ばえていたわけですか。

小川原 ええ。自分で飲んでみてね。その頃「剣菱」というのは三増(三倍増醸酒)はないし、アル添量は少なかったんです。で、他の酒を飲むと翌日駄目なんですよ。気持悪くて。

けれども、自分で造ったもの(純米酒)はもう、味も多いし酸も多くて「しょうがねえなこんなの造って」とか何とか言いながら氷を入れたりして飲む。それは翌日何ともないですよね。

そうするとやっぱり(他の酒は)アルコールとか酸味料とか化学調味料なんか入れたりしますから、それ(が原因)かななんて思って。だから体で覚えたようなもんですよ。

農大で純米酒を造るのは、醸造用アルコールは余分な費用になるからです。分かりやすい理由です。精白が悪いとは精米歩合をあまり上げていないということなのでしょう。

剣菱は三倍増醸酒を造っていなかった

剣菱は知っていますが、5合瓶を何度か買ったことがあるくらいです。品質にこだわりがある銘柄のようですね。

少し調べてみました。剣菱の歩みにはこのように書かれていました。物資不足の時代酒は造っても剣菱の商標は使わなかったとあります。

太平洋戦争における物資不足に伴い国の指導のもと行われた大規模な酒造業の整備により、剣菱酒造は他の3酒造会社と合併。

甲南酒造として引き続き酒造りを行うことになったが、この間、白樫政雄が剣菱の商標を使うことは一度としてなかった。理由は、「今造っている酒は剣菱に値しない」から。

さらにその後の三倍増醸酒も拒否していたようです。

戦後の深刻な米不足のなか、国の指導により昭和24年から三倍増醸酒(酒に水と醸造アルコールを足し、薄まった味を酸味料や糖類などで補って造る通称「三増酒」。

純米酒と同じ量のお米で三倍の酒を造ることができた)の生産が本格的に導入された。

しかし、当時社長に就任したばかりの白樫政一は「これは日本酒ではない」と主張し、その生産を拒否。

当然、国の指導に対してそのような言い分がまかり通るはずもなく、抵抗しきれなくなった白樫政一は桶1本分だけ三増酒を造るということで了解をとった。

が、造った三増酒は桶ごと他社に譲渡。剣菱の商標をつけて売ることはなかった。

アルコール添加で酒質は高まるか

アルコール添加についてなかなか厳しい意見をお持ちのようです。

―ひとつ、これは是非聞きたいんですけど、お酒というのはすごく多様性があって面白いってところがあるけれども、これが一番、究極の酒はこれだっていうのを「夏子の酒」ではあえてやったんです。

確かに日本酒は嗜好品だという前提に立てば、おかしいんですけど、例えばアル添にしても、蔵元によってはアル添のイメージが三増酒で非常に悪くなっているけども、それは誤解で、日本酒の技術として、アル添というのはひとつの存在の意味を獲得しているのではないか、という意見もありますけど。

小川原 ちょっと難しいけれども、醸造物なんだと思います。日本酒を醸造物としてとらえると、アルコールを蓄積するための醸造物ですよね。味噌はアミノ酸を蓄積してる。醤油も同じです。

その中でアルコールを蓄積していく醸造物の中で、何で外から持ってきたアルコールを加えなくちゃいけないのか、それが疑問なんですよ。

―それは酒質を高めるための一つの技術として。

小川原 いえ、酒質は高まりません。酒だけをとらえるから酒質が高まってくると思うのであって、食と合わせていくと添加アルコールっていうのは全然合わなくなってくるんですよ。食の邪魔をしてくる。

で、日本が一番悪いのは、ワインにしてもアル添を許しちゃう。ワインにアル添したら、添加したアルコールっていうのはバンバン浮いてくるんです。だからちょっとワインに心得のある人は日本のワイン、国産ワイン飲まなくなっちゃう。

―しかし大吟醸レベルになるとアル添量もほんとにわずか・・・・・。

小川原 わずかなんですけれども、食に合いますか。お酒だけを楽しむための、アベッキーズ的な酒で捉えればそれでいいんです。そのための酒っていうのも必要だから。

―そのために存在する大吟醸っていうのは認めるわけですか。

小川原 ええ。ただし食の中にそれをもってくると、今の日本の料理屋さんの業界も、日本酒のメーカーでも、その酒で料理を食いなさいって出すでしょ、そしたらなにも食うものがないですよね。

その時の相性考えると。だから、なんで(メーカーが)二千軒必要か。そんな酒は、貴方が造りなさい、私は知りません。御飯をおいしくとか、食事をおいしく食べるための酒を狙って造りたいって言うのが一人や二人いてもいいんじゃないかって。

文中、「アベッキーズ」とは何か探しましたが分かりませんでした。

特定名称の清酒

日本酒のラベルには、本醸造、純米酒、純米吟醸など書かれていますが、これらは特定名称の清酒と呼ばれています。もちろん、きちんと規格が決められています。

国税庁の清酒の製法品質表示基準に説明されています。使用原料に醸造アルコールも入っています。

特定名称 使用原料 精米歩合 香味等の要件
吟醸酒 米、米こうじ、醸造
アルコール
60%以下 吟醸造り
固有の香味、色沢が良好
大吟醸酒 米、米こうじ、醸造
アルコール
50%以下 吟醸造り
固有の香味、色沢が特に
良好
純米酒 米、米こうじ 70%以下 香味、色沢が良好
純米吟醸酒 米、米こうじ 60%以下 吟醸造り
固有の香味、色沢が良好
純米大吟醸酒 米、米こうじ 50%以下 吟醸造り
固有の香味、色沢が特に
良好
特別純米酒 米、米こうじ 60%以下又は特
別な製造方法(要説
明表示)
香味、色沢が特に良好
本醸造酒 米、米こうじ、醸造
アルコール
70%以下 香味、色沢が良好
特別本醸造酒 米、米こうじ、醸造
アルコール
60%以下又は特
別な製造方法(要説
明表示)
香味、色沢が特に良好

ここに出てこない、特定名称の清酒でないものは、「普通酒」と呼ばれるようです。

さらに、醸造アルコールはこのように定められています。特に醸造アルコールをつくる原料については指定がないようです。

もちろんアルコール以外の原料由来の物質は不純物として除かれるでしょう。当たり前ですが、純粋なアルコールに近いものが醸造アルコールになるはずです。

醸造アルコールとは、でんぷん質物や含糖質物から醸造されたアルコールをいいます。もろみにアルコールを適量添加すると、香りが高く、「スッキリした味」となります。

さらに、アルコールの添加には、清酒の香味を劣化させる乳酸菌(火落菌)の増殖を防止するという効果もあります。吟醸酒や本醸造酒に使用できる醸造アルコールの量は、白米の重量の10%以下に制限されています。

わざわざていねいに酒造りをやっているのに、何で安い原料からつくった(純粋な)アルコールを足さなければならないのかと考えているのです。

化学調味料は味覚を鈍らせる

最後に、最近当たり前すぎて忘れがちな化学調味料の話が出て来ました。昔は、化学調味料そのもの(白い粉でした)を味噌汁のダシに使っていた時代もありました。それが嫌われるようになったので、今は、たとえばダシ調味料に、自然素材に混ぜて化学調味料が入っています。

少し前にかつお節がなくなったので、ダシ調味料を使いましたが、確かに風味が強くて味噌の塩味が薄く感じました。

小川原 それはね、味の素を使わせない生活を六ヵ月やったら戻りますよ。化学調味料なしの飯ばっかり食わせるんです。だいたい自信あります。

うちの蔵人には化学調味料絶対使わせないから。で、今年移籍してきたのがいて、隠れて使ってたのを見て、「お前もう酒飲ませないよ。そのひと振りが酒一合分くらいの、肝臓に負担かけるんだから、もう酒飲んじゃ駄目」って。ピッタリやめさせちゃった。

そうすると、初めはなんか味気ないらしいんだけど、そのうちにだんだん慣れてくると、塩味を取らなくなってくるんです。だんだん薄味になってきて、ほんとにいい方に回ってくる。

ところが味の素がポンとあると、それが強烈だから、塩を感じなくなって味がだんだん濃くなってくる。そうなると、もう手遅れですね。

まとめ

以前書いた「どはどぶろくのど 失われた酒を訪ねて」を読んだという記事とも関係するのですが、小川原さんが農大時代、造っていた酒は、「しょうがねえなこんなの造って」とかいいながら飲む純米酒でしたが、翌日残らない。

醸造アルコールや酸味料とか化学調味料が入っているような酒は、翌日残りやすい。

日本酒は、三増酒の時代は終わり、添加物が入っているような酒はよほどの激安商品以外ほとんど見かけません。

しかし、よく売れている(らしい)第3のビールは、添加物が結構入っています。ビールよりはるかに安いですが、飲み比べれば、当たり前ですがビールの方がはるかにうまいです。

お酒を長く楽しむために、添加物が入らないものを飲むようにしようと改めて思いました。

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