この記事では、乳酸の構造式と異性体について。異性体のRS表示法とDL表示法について。乳酸の乳酸菌を使った製造方法について。乳酸の用途と多く含む食品、そして、きっとおいしい乳酸飲料の作り方について書きます。
乳酸の構造式
乳酸は、分子式 C3H6O3、示性式は CH3CH(OH)COOH です。構造式は下記の通りです。
これだけだったらよいのですが、乳酸には2種類の異性体が存在します。それがいくつか決める方法があり、最初理解できなくてとても困りました。せっかくなので今日理解したことを書き残しておきます。
乳酸の異性体について
助けてもらった本はビギナーズ有機化学です。
まずは、下図を見てください。乳酸を立体的に書くと、炭素(C)を中心にして4本の手にそれぞれ、CH3、H、OH、COOHが結合しています。
実線のくさびと破線のくさびがありますが、実線のくさびは画面よりこちら側(手前)に浮き出ていて、破線のくさびは、画面より向こう側(奥)に向かっているという意味です。
このように炭素(C)の4本の手にそれぞれ別のものが結合している時、炭素は不斉炭素(またはキラル炭素)と呼ばれ、必ず異性体が存在します。
次に2列目を見てください。
とりあえず、一番上にCH3を位置決めしました。次にHを結合させますが、3通りあります。しかし、どこにHを結合させても、回転させれば同じことです。とりあえず一番左の手に結合させましょう。
次にその下、3列目を見てください。
Hの隣の手にOHを結合させました。すると、残りのCOOHは自動的にその隣になります。また、Hの隣の手にCOOHを結合させると、残ったOHはその隣になります。
3列目に2個の乳酸がありますが、回転させてみてください。あれっ、どのように回転させても同じ配置になりません。これが異性体です。2個できます。
右の乳酸を180度回転させて向かい合わせると、まるで鏡に映ったようになります。このような異性体を鏡像異性体、あるいは光学異性体と呼びます。
異性体の表示法
異性体の表示には、dl表示法、(+)(-)表示法、RS表示法、DL表示法があり、じつにややこしい(!)です。
dl表示法と(+)(-)表示法について、旋光性が理解できなくてここでは説明できません。
そこで、RS表示法、DL表示法について知り、それで表示されたものについて、「dl表示法ならこのようになる」「(+)(-)表示法ならこのようになる」とさせて下さい。
RS表示法
中心にある炭素(C)に結合している置換基に順位をつけて、最低順位の置換基の裏側方向から炭素を見て、残りの3個の置換基が順位の上位から順に時計回りで並んでいればR、反時計回りならSとします。
順位は、原子番号順です。もし、同じ原子ならその先に結合している最高順位の原子で決めます。
原子番号は下の周期表で確認してください。
原子番号 | 1 | 2 | ||||||
元素名 | H 水素 |
He ヘリウム |
||||||
原子番号 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
元素名 | Li リチウム |
Be ベリリウム |
B ホウ素 |
C 炭素 |
N 窒素 |
O 酸素 |
F フッ素 |
Ne ネオン |
原子番号 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
元素名 | Na ナトリウム |
Mg マグネシウム |
Al アルミニウム |
Si ケイ素 |
P リン |
S イオウ |
Cl 塩素 |
Ar アルゴン |
置換基は、CH3、H、OH、COOHです。
- CH3・・・炭素(C)原子番号6、次の水素(H)原子番号1
- H・・・水素。原子番号1
- OH・・・酸素(O)原子番号8
- COOH・・・炭素(C)原子番号6、次の酸素(O)原子番号8
すると、OH>COOH>CH3>Hという順位になり、水素(H)が一番小さくなります。
そこで、一番低い順位の水素を画面の向こう側に置いて、その他の置換基がどのように並んでいるか確認します。
下図の上の乳酸は、残りの置換基が上位順から左回り(反時計回り)にならんでいますから、(S)-乳酸となります。
もう一つの乳酸は、残りの置換基が上位順から右回り(時計回り)に並んでいるので(R)-乳酸となります。
RとSってなんだ?
RとSって何の略なんだろう?ネットを歩き回って調べると、立体配置の記述法というページが見つかり、Rは、ラテン語のrectus「右」という意味、Sはラテン語のsinister「左」という意味だそうです。ありがとうございます。
確認のために書いておきます。上が(S)-乳酸、下が(R)-乳酸です。
- 置換基の配置が右回り:R-体
- 置換基の配置が左回り:S-体
DL表示法
この表示法は、慣用表示法といわれています。グリセルアルデヒドを基準物質として、そのある配置のものをD-体、その鏡像体をL-体として表示されます。アミノ酸や糖によく使われます。
OH基の位置に注目すると分かりやすいですね。この場合、実線と破線のくさびがあると分かりやすい。Hを頂上に立てて、Cを中心部に置いた四面体を考え、その底部から見上げて位置関係を把握します。
さあ、RS表示と比べてみましょう。
D-乳酸は、右回りの(R)-乳酸です。L-乳酸は、左回りの(S)-乳酸です。
dl表示法と(+)(-)表示法について
これに関しては今のところこのように書くしかありません。
L-乳酸は、(+)-乳酸であり、(S)-乳酸、d-乳酸です。
D-乳酸は、(−)-乳酸であり、(R)-乳酸、l-乳酸です。
乳酸菌を使った製造方法
乳酸の乳酸菌を使った製造方法は、乳酸という文献に出ていました。基本はデンプン糖化液を使うようです。それは原材料が安価だからでしょう。
発酵型式から, グルコースを炭素源として, 主として乳酸のみを生成するホモ乳酸発酵と, 乳酸のほかにエタノールと二酸化炭素を生成するヘテロ乳酸発酵とに分けられるが, 工業生産において糖蜜や糖化デンプンなどを原料とする場合は Lactobacillus delbrueckii (ホモ型発酵, D(-)乳酸)等が用いられる。
また牛乳や乳清などを原料とする場合は, L. bulgaricus (ホモ型発酵, D(-)乳酸)や L.casei (ホモ型発酵, 主としてL(+)乳酸)等が用いられる。
L. bulgaricus は、 Lactobacillus bulgaricusのことです。ヨーグルトの菌種はこのタイプです。
一方、L.caseiは、Lactobacillus caseiのことです。ヤクルトの菌種はこのタイプです。
乳酸の用途
乳酸は、酸味料として、日本酒造りの乳酸菌の代わりに、そして、食品の日持ち向上などに使われています。
食品添加物、酸味料として
乳酸は、厚労省の指定添加物リスト(規則別表第1)に記載されています。食品衛生法第10条に基づき、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物です。
さらに東京都福祉保健局のサイトの 用途別主な食品添加物を見ると、乳酸は、清涼飲料水、漬物、酒類、氷菓などの酸味料として主に使われているようです。
清酒の醸造に
わが家でできるこだわり清酒で書きましたが、日本酒造りには酛(もと)という行程があります。清酒酵母を増やす工程です。この工程では、清酒酵母が増える前に乳酸菌が先に増えて乳酸を作ります。そのおかげでpHが下がり、雑菌や野生酵母が繁殖しないようにしているのです。

乳酸菌を増やす代わりに乳酸を加える方法もよく行われています。その時に使われます。
日持ち向上、pH調整に
乳酸は酸性で、制菌作用があります。ネットで見つけた松尾薬品産業のサイトを読ませていただくと、その性質を生かして、日持ち向上やpH調整に使われています。
また、タンパク質に柔軟性を与える働きもあります。
乳酸を多く含む食品
乳酸を含む食品について調べてみました。ヨーグルトや漬けものなど、さぞいろんなものに入っているのだろうと思っていましたが、実際はとても限られたものにしか含まれていないようです。チーズ、ヨーグルト、そして魚醤油に多く含まれています。
魚醤油とは、魚を塩と共に漬け込み、自己消化、好気性細菌の働きで発酵させたものからできた液体成分のことです。
食品名 | 成分量 100gあたりg |
プロセスチーズ | 1.1 |
ヨーグルト/無脂肪無糖 | 0.9 |
ヨーグルト/ドリンクタイプ/加糖 | 0.8 |
ヨーグルト/低脂肪無糖 | 0.8 |
ヨーグルト/脱脂加糖 | 0.7 |
乳酸菌飲料/乳製品 | 0.6 |
ナチュラルチーズ/クリーム | 0.4 |
ナチュラルチーズ/やぎ | 0.4 |
ナチュラルチーズ/カマンベール | 0.3 |
魚醤油/いかなごしょうゆ | 0.3 |
魚醤油/しょっつる | 0.2 |
ナチュラルチーズ/カテージ | 0.2 |
魚醤油/いしる(いしり) | 0.1 |
自家製乳酸飲料の作り方
乳酸についてネットで調べていると健栄製薬のサイトに子ども向けの自家製乳酸飲料の作り方が書かれていました。ついでに書いておきましょう。こんなふうに作っているんですね。初めて知りました。

■必要な材料
乳酸飲料を作るために必要な材料は以下のとおり。
- 牛乳 ……300ml
- 乳酸 ……7ml
- 砂糖 ……500g
- エッセンス ……少々
- クエン酸 ……2g
この5つの材料さえあれば、簡単に懐かしの乳酸飲料を作ることができるのです。クエン酸、乳酸は馴染みがないという方もいますが、薬局などで販売されており、今は通販でも購入できるため簡単に入手可能です。
乳酸飲料の作り方は、とっても簡単です。
ただし、火を使用するため小さいお子さんと一緒に作る場合は、十分にご注意ください。
- お鍋に牛乳(300ml)と砂糖(500g)を入れ、弱火~中火で温めながら混ぜあわせます。
- 砂糖が溶けたら、火を少し強くして70℃まで温めます。
- 70℃になったら、火を止めて自然放置で冷まします。
- 45℃まで下がったら、クエン酸(2g)と乳酸(7ml)を加え、よく混ぜあわせて溶かします。
- 最後にエッセンスを少々加えて、完成です!
以上が、乳酸飲料の作り方です。お召し上がりの際は、約6倍にうすめてください。
まとめ
この記事は、最初、乳酸がどのように使われているのか用途について調べていたのですが、乳酸の異性体について「はまって」しまい、長い記事になってしまいました。
乳酸菌を使い、発酵させて乳酸をつくると、異性体がひとしくできるようです。その記事を書いた時に役に立つといいなと思って調べました。
乳酸について他の記事は、まず、乳酸とはどのようなものかをお読み下さい。