カビだらけのご飯から木灰を使って麹を単離する

カビだらけのご飯から、麹カビらしきものをヘラで採り、それにくぬぎの葉っぱを乾燥させて焼いた木灰を薄くかけておくと、徐々に麹カビ以外の微生物が死滅し、10日目からは、麹カビだけが取り出せるようになります。すごい。

木灰

木灰と麹の関係をもっと知りたい

農大の先生だった小泉武夫さんの灰と日本人を読みました。

少し前に、豆味噌と米味噌が登場したのはいつ頃か?という記事を書いた時、米味噌ができるには米麹が普通に使えるようになっていることが条件になると気がつき、麹がいつから量産できるようになったのか調べると、農大の小泉先生の書かれた文章が見つかりました。室町時代、木灰を使って麹が量産できるようになったというのです。

よくそんなことを考えついたものだと思いました。

そして、この本には、きっともっと木灰と麹について詳しく書かれているだろうと思いました。もちろん、ありましたよ。

カビだらけのご飯から木灰を使って麹を単離する

小泉先生が、研究室で、炊いた米と煮た米を放置してカビを生やし、そこから麹カビだけを単離する実験を書かれていました。ここが一番面白いです。

読んでいると自分でもやってみたくなります。特別な器具は必要なく、木灰と、炊いたか蒸したご飯だけでできます。すごい。木灰といっても、くぬぎの葉っぱを乾燥させて焼いたものです。

「実験考古学・室町時代、麹カビの純粋分離に木灰は可能か否か」

実験はカビの好む高温多湿の条件を設定するため六月を選んで行いました。まず実験室の片すみに、米を煮たものと蒸したものを木の碗に別々に入れて放置しましたるところ、三日後にはその両者の表面に赤、青、白、黒、黄、緑などの色彩豊かなカビの小さなコロニー(集落)が着生して参りました。ちょうど神棚などに供えてそのまま忘れた古い餅にカビが生えたような状態であります。

このコロニーをよく観察いたしますと我が目的とする麹カビらしきものも少しは着生しているようですが、非常にわずかで、はなはだ心細い。炊いた飯の方は多くのカビの出す分解酵素によって米粒が溶け、表面から下の方はドロドロの様相であり、蒸した方は米の表面に一様にカビが繁殖していました。

次にこの多様のカビが群がっている表面の部分を、木片で簡単に作った小さな篦(へら)で菌叢をくずさぬように静かにすくいとり、別の小さな木の椀に移しました。そして、これに櫟(くぬぎ)の葉を乾燥し、焼いて作った木灰を、表面がうすい灰色となる程度に上から一様にふりかけ、ここから毎日一度ずつ表面の一部分(小匙一杯ほど)を採って、それを別の小さな盃(さかずき)に入れ、直ちに自然乾燥し、この操作を一二日間続けたのであります。

さて一三日目に別に蒸した米をつくり、これを一二等分して新たな木の椀に入れ、これに毎日採取して乾燥させた一二日間の試料をふりかけて室内に放置し、麹を作ってみたのです。するとどうでありましょうか。最初の三日目くらいまでの試料を加えた麹は毛カビや赤カビ、青カビなど雑多のカビの混合麹であって麹カビはほとんど見当たらないのですが、四日目以降日数が経つにつれてそれらの雑カビ群はしだいに目に見えて心細くなり、その反面、麹カビが際立って目立つようになったのでありました。

そしてついに一〇日目からの試料では目的とした麹カビだけの麹ができたのです。煮た米でも蒸した米でも結果は同じでした。

すなわち、この事実はまさに木灰の効用といえるものであります。日数の経過とともに麹カビ以外の微生物は、毎日振りかけられる木灰の持つ抗菌作用のために耐えることができなくなり、しだいに死滅していき、ついに最後には木灰をむしろ好みとする麹カビだけが純粋に生き残れたというわけで、木灰を用いた見事な微生物の淘汰現象であります。

こうして木灰を使えば、今日のような微生物分離用の器具や薬品がなくとも、自然界から麹カビを純粋に取り出すことは可能であることがわかりました。

おそらく室町時代、麹屋が種麹造りのために麹カビを自然界から純粋に分離できたのは木灰の使用のためであったろうと存ずる次第であります。

そしていかに木灰が麹カビの培養に有効であるかをした先達者たちは、この時から種麹の製造の際には必ず木灰を用いることになったのでしょう。

培養のためのシャーレーも寒天培地も必要がなくて、なんだか自分でもやってみたくなりますね。木灰だけあれば子供でもできそうです。

方法がわかれば「簡単」ですが、それまでの試行錯誤にはどんな苦労があったのかなと思いますね。

ところで、木灰はどんなものでもよいというわけではなかったようです。

木灰の原材料には条件がある

木灰の材料は、なら、くぬぎ、つばき、くり、かしの木でなければいけなかったそうです。

さて種麹製造に使う木灰の材料は、どんな木であっても良いというわけではありませんで、昔からこれに使用する原材料には厳しい条件がございました。例えば樹齢一〇〇~三〇〇年の楢(なら)、櫟(くぬぎ)、椿(つばき)、栗、樫(かし)を選び、その古木に生じた一五~二〇年くらいの若木の枝先と葉のみを採集して使用し、一切の下枝や落ち葉は使用しないのです。

その上、山は必ず東向きの朝陽のよくあたる斜面で、岩質の地のものを選ぶに限るとされてきました。

さらに、この本に出てくる糀屋三左衛門では、木灰になるまでに細かい管理がされます。ひょっとすると、日本酒などの微妙な風味などに影響するのかもしれません。

あるいは、日本人特有の手仕事へのこだわりなのか・・・?

葉柴の集荷は八月下旬から十月上旬までの間に一定量を刈り採り、数日間秋の陽に蔭干しし、その間決して雨にあてぬよう細心の注意を払います。雨に当てると葉は貯蔵中に変質し、使用に耐えぬものとなるらしいのですが、このようにして乾燥した葉は、一様に飴色となり、風通しの良い倉庫に一年以上保存し使用いたします。

保存された葉は、使用時に適宜焼いて木灰をつくりますが、これを焼く釜は煙道を持たないかまぶろ式の特殊釜で、ここで一夜蒸焼きにした後、翌朝これを銅製の鍋に入れて再度焼き上げ、きめ細かい木灰を仕上げるのでございます。

小泉先生の研究室での実験では、くぬぎの葉っぱを乾燥させて焼いたものとだけ書かれていたので、ここまでのこだわりはないと思います。

糀屋三左衛門の種麹は、手軽に買うことができます。

しかし、カビの生えたご飯から麹を単離させること、大人の自由研究としてやってみたいですね。

NOTE

以前、味噌玉作りは大豆に麹をつけるための方法を書いた時、味噌玉を作って軒下にぶら下げておくのは、大豆にカビや乳酸菌をつけるための方法だと知りました。この方法は、自然任せの方法なので、ご飯に種々のカビが生えるのと同じで、制御できません。

おそらく出来上がりの味はかなりバラツキがあったと思います。

しかし、木灰を使って麹カビだけを単離できると、米に植え付ければ、米麹や酛を簡単につくることができます。これは技術としては相当な進歩だと思いました。

種麹ができるようになり、麹を量産できるようになってから酒、醤油、味噌の品質が上がったのは間違いないことです。すごい。

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