グルタミン酸ナトリウム、うま味も発酵で

トコトンやさしい発酵の本には、グルタミン酸ナトリウムの製造について紹介されていました。うま味調味料、グル曹(グルタミン酸ソーダ)ともいわれます。いわゆる化学調味料のことです。

化学調味料は、いまや使わない方がよいものとなっていて、私もなるべく自分で料理するときは使わないようにしています。

しかし、昭和40年代の特に前半は、たいていの家庭には専用の容器に入った調味料がありました。それで、味噌汁のだしをとったり、例えばほうれん草のおひたしにもパッパとかけて醤油をかけて食べたりしていました。うちの祖母は、グルタミン酸は頭がよくなるんだとよくいってましたっけ。

グルタミン酸ナトリウムが工業的につくられるようになったのは、そのような需要があったからです。食品の歴史を調べるといつも思います。現在の食生活の問題から考えないことです。現在の食生活の問題は、たいてい何でも「とりすぎ」が原因です。

そして、開発をした頃の話はいつでも面白いのでちょっと調べてみました。

うま味の発見

うま味を初めて発見したのは、当時、東京帝国大学教授だった池田 菊苗(いけだ きくなえ)先生で、1907年(明治40年)に約38 kgの昆布から煮汁をとり、うま味成分であるL-グルタミン酸ナトリウム約30 gを得ることに成功したとあります。

幼少期より昆布のだしに関心を持ち、その後の湯豆腐のだし汁昆布の研究からうま味成分は生まれたのです。池田先生は京都生まれです。関西は昆布だしをよく使います。

1908年「グルタミン酸を主要成分とする調味料製造法」に関する特許を出願とありましたので、どんな内容だったのだろうと調べてみると、国会図書館の案内にある、「戦前の日本特許の調べ方」の実例として、池田先生のこの特許にアクセスする方法がでていました。

文献を読んでみると、塩酸もしくは硫酸のような強酸をタンパク質やタンパク質含有物に反応させ、加水分解させてグルタミン酸を主要成分とする調味料を得るということでした。

東大理学部のサイトにあるうま味の発見と池田菊苗教授を読むのが一番分かりやすいと思います。

この当時は、小麦や大豆を原料としてつくっていて、まだ価格がとても高かったようです。贅沢な調味料だったのだと思います。

発酵法の発見

その後、1950年代に、協和発酵工業がアミノ酸を微生物につくらせる方法を発見しました。コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)という菌が発見されたのです。

コリネバクテリウム属は、グラム陽性桿菌で、放線菌に分類されるとあります。ジフテリア菌はこの属であり、分類上は病原菌と近いようです。もちろん、コリネバクテリウム・グルタミカムは毒素を産生することはなく、病原性はありません。

図解入門よくわかる微生物学の基本としくみを読むと少し解説されています。ちなみに秀和システムのこのシリーズはよい本が多いと思います。

1957年に協和発酵工業株式会社が本菌のホモセリン要求株を用いて工業化に成功しました。炭素源にグルコース、窒素源(アンモニウム塩あるいは尿素)および無機塩類を添加した培養液を用いて1L中30gのグルタミン酸を生産することができました。(同書より)

ホモセリンとはアミノ酸の一種です。ホモセリン要求株とは、ホモセリンがないと成長できない変異株のことです。グルコースはブドウ糖です。

この頃は、生命を維持するのに必要以上のアミノ酸を、微生物が細胞外に分泌することはありねないと考えられていたそうなので、画期的なことだったようです。

もちろん、グルタミン酸ナトリウムを生産するためのコストは下がります。何しろ細菌は、2倍2倍2倍・・・と増えていきます。しかも、大豆や小麦を大量に用意する必要がなく、強酸も不要で、上記のえさを用意すればよいのですから。

グルタミン酸の生産

「コリネバクテリウム・グルタミカム」で検索をかけていると、詳しく説明している大阪大学のサイトからコリネ型細菌によるアミノ酸生産の代謝工学というページが出てきました。

その記事によると、グルタミン酸生産は、ビオチン制限や脂肪酸エステル・ペニシリンの添加により引き起こされるとのことです。

ビオチンはビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB7と呼ばれています。

脂肪酸エステルとは、脂肪酸の末尾についているカルボキシル基(-COOH)のOHとアルコールについている水酸基(-OH)からHがH2Oとして外れて残りが結合したものです。

グルタミン酸の生産に、TCA回路の代謝物が関係しています。

2-オキソグルタル酸(α-ケトグルタル酸)から次のスクシニルCoAに変化するとき、変化に関係する酵素、2-オキソグルタル酸複合体 (ODHC)の比活性が低下することで、代謝の流れがグルタミン酸生産に向かうのだそうです。

比活性とは、タンパク質あたりの活性なので、単純に、2-オキソグルタル酸(α-ケトグルタル酸)から次のスクシニルCoAに変化しにくくなると考えてよいのかな。

すると、2-オキソグルタル酸(α-ケトグルタル酸)はTCA回路から外れてグルタミン酸になっていく。また、その時にペニシリンがあると、菌の数は増えにくくなる一方で、グルタミン酸の生産量が増えるようです。

発酵の話を少し深く読もうとすると、かならずTCA回路に関係してきます。ちなみにグルタミン酸は、神経細胞のシナプスを結ぶ、記憶に関係する神経伝達物質だそうです。

うちの祖母が、グルタミン酸は頭がよくなるんだといっていたわけが分かりました。記憶に関係していたのですね。

TCA回路ではアセチルCoAが入ってきてオキサロ酢酸と反応するところから始まりますが、途中でできる物質は、なかなか重要なのだということがわかりました。高校生の生物Ⅰでやって以来ですが、TCA回路もちゃんと勉強します。

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