くさやは干し魚に使う塩を倹約することから生まれたとか

農大の小泉先生が今年出した本、江戸の健康食: 日本人の知恵と工夫を再発見を読みました。

小泉先生の書く文章の勢いは出版社によって微妙に変わる場合があるのですが、河出書房新社のこの本、とても勢いがあって読みやすいです。おまけに、読んでいると、とてもお腹がすいてきます。

この本に書かれていたくさやの話が面白かったので、かいつまんでお知らせしましょう。

くさやはくさい

私が初めてくさやを食べたのは、30歳を少し過ぎた頃でした。

その前、初めてくさやを焼いているにおいを嗅いだのは、今はないですが、八重洲に当時あった灘コロンビアという、うまい生ビールを飲ませるお店でだったと思います。

なんか腐っているものを間違って焼いているのではないかと思いました。そして、ひょっとすると、これがくさやというものかもしれないと思いました。

実際に初めて食べたのは、どこかの山小屋だったか、居酒屋だったか。山小屋だったような気がします。おそらく誰かが酒のつまみとして担いで来たのでしょう。

一切れもらって口の中に入れたら、まるでう○こを食べたらこんなにおいになるのではないかと思いました。私は好き嫌いがほとんどないのですが、1回目はにおいに圧倒され、食べられませんでした。

何でこんなくっさい(>くさい)ものを食べる人がいるのだろうと心から思いました。

くさいものは食べ慣れるとくせになるといわれますが、私はくせにならん!そもそも、いったいなんでこんなくっさいものが作られるようになったのかと思いました。

もちろん、それからそんなことはすっかり忘れていました。

くさや

くさやは塩の倹約でできた

くさやの生産地、伊豆七島近海は、真アジ、むろアジ、あおむろ、鯖、いわし、トビウオといった青魚がたくさん獲れるところで、干物の製造が古くから盛んな土地でした。

江戸時代初期には、上質の塩干し魚がつくられていたそうです。

当時、この地方は年貢として塩(食塩)を納めていたのですが、その塩のとり立てがたいそう厳しく、塩干し魚をつくるために使う塩にも制限されるほどでした。

干物をつくるにも塩が足りないと腐ってしまいます。この塩が足りないということが、くさやを作る条件になりました。

塩は足りないが、見渡せば塩水は海からいくらで手に入る。知恵のある人はいつもいるもので、干物のつくり方が工夫されたのです。

海から海水をくんできて、大きな半切りという底の浅い桶に入れて、開いたあおむろやトビウオを浸してから天日に干す。

すると水分は蒸発しますが、塩は表面に残ります。それをまた海水に浸して干すと、少し魚についた塩分が濃くなります。この工程をくり返すと魚には塩分がしっかりのり、塩干し魚になります。

そして、思わぬ副産物ができました。

魚を浸していた海水が発酵して、異様なにおいを放つ汁になったのです。そうだろうなあ。ものすごくくさいのですが、なめてみると実に美味だったそうです。なめてみようと思うチャレンジャーがいつもいるのですね。

においがきついが、こんなに美味な汁ができたのだから、その汁に開いた魚を漬け込んで、それを天日で乾かしてから試しに江戸に送ってみたら大評判。

これが、くさやの始まりでした。「くさいや」が「くさや」になったそうですが、よく分かるなあ。

くさや作り方、製造工程、新島みや藤を読むと写真つきでつくり方が解説されています。

くさや汁の効果がすごいな

くさやの発酵汁に棲む発酵菌は、コリネバクテリウムという一連のくさや菌で、その他に耐塩性の酵母が棲んでいます。

あのくさいにおいは、それらの菌の生産する酪酸や吉草酸、カプロン酸といった短鎖脂肪酸とそのエステルなんだとか。

脂肪酸は、油を構成するものです。オリーブオイルならオレイン酸、最近、健康によいと評判のえごま油ならα-リノレン酸がよく知られています。きっと聞いたことがあるでしょう。

脂肪酸は、末端にカルボキシル基(COOH)がついているのが特徴です。たいていの油は炭素数が18くらいの脂肪酸が多いです。これは炭素数18のステアリン酸。

ステアリン酸

短鎖脂肪酸は、炭化水素の鎖が短くなっているだけで、この構造は変わりません。吉草酸は、炭素数5でこんな形をしています。

吉草酸

脂肪酸は短くなるとにおいます。短鎖脂肪酸はくさいのが特徴です。足のにおい、汗臭いにおい、洗濯物の生乾きのにおい、みんな短鎖脂肪酸が関係しています。

昨日、納豆の本を読んでいたら、納豆のにおい成分のことが出ていました。納豆のにおいは納豆菌が大豆成分を分解してつくったにおいです。酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸・・・、と出て来て、これは短鎖脂肪酸ですね。納豆、クサヤ、ギンナン、

エステルは、脂肪酸とアルコールが結合したものです。一般的には香り成分といわれていて、吟醸酒のにおいなどそれの一つです。

薬がわりのくさや汁

島の生活では、体の調子が悪くなると自分で何とかするしかありません。下痢、便秘、風邪、疲労にはくさや汁を飲んでいたのだとか・・・。

たしかに、くさや汁を発酵エキスだと思えば、発酵菌が生産したビタミン類や必須アミノ酸が豊富で、滋養成分がたくさん入っているといえます。におい以外は。

そして、なにより重宝されていたのが、外科の薬代わりとしてでした。

切り傷、腫れもの、瘡(できもの)などにくさや汁をつけると、ほどなく治癒したそうです。後に分かったのは、くさや汁には天然の抗生物質が含まれていたそうです。

なぜそのようなものが含まれてくるかというと、微生物同士の勢力争いがあるからです。くさやの発酵には、何十種類の微生物が関係していますが、それぞれは自分たちの子孫だけを増やして快適に生きる場所を確保しようとします。

そのためには他の発酵菌の増殖を抑える必要があり、相手を殺してしまう物質を生産する菌が出て来ます。それが抗生物質です。

抗生物質というと、おそろしい気もしますが、くさや汁に含まれているものは、タンパク質でできているので、食べてしまえば、タンパク質分解酵素でたちまち分解されてしまうので無害です。

しかし、空気中から傷に浸入してくる化膿菌には抜群の効き目だとか。

まとめ

塩があまり使えないから海水を使いながら干し魚を作り、その海水がくさや汁になるというのがなんとも面白いところです。

最初から、あんな(失礼!)くさいものを作ろうと思う人はいないと思うのです。初めて食べたとき、なぜこんなものができたんだろうとおもったのですが、やはり、ものができてくるのは理由があるのですね。

くさや食べたいですか?私は遠慮しておきます。

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