イーストフードとは何か?

酵母の加工物だと思っていたイーストフードは、酵母の栄養源等になる食品添加物だと知って、何やらごまかされたような気分になりました。しかし、酵母は光合成をしないキノコのような菌類で多くの栄養が必要であることを知り、イーストフードに分類された18個の食品添加物を一つずつ見ていくと、全て酵母が生きていくために必要な成分を含んでいて、食品添加物だからだめだという考えではいかんなと思いました。

パン生地

私は買い物をするときに、よくひっくり返して原材料名を見ます。先日、お店でパンをひっくり返したら原材料名にイーストフードと書かれていました。酵母の加工品?なのかなと思いましたが、違いました。

イーストフードとはイーストの栄養源等になる食品添加物

イーストフードは、イーストの栄養源等になる食品添加物です。消費者庁のサイトにある、食品表示法等(法令及び一元化情報)の中の、食品表示基準に係る通知・Q&Aについて、にある別添 添加物関係という文書にありました。

1 イーストフード
(1)定 義: パン,菓子等の製造工程で,イーストの栄養源等の目的で使用される添加物及びその製剤
(2)一括名: イーストフード
(3)添加物の範囲: 以下の添加物をイーストフードの目的で使用する場合

塩化アンモニウム 塩化マグネシウム
グルコン酸カリウム グルコン酸ナトリウム
酸化カルシウム 焼成カルシウム
炭酸アンモニウム 炭酸カリウム(無水)
炭酸カルシウム 硫酸アンモニウム
硫酸カルシウム 硫酸マグネシウム
リン酸三カルシウム リン酸水素二アンモニウム
リン酸二水素アンモニウム リン酸一水素カルシウム
リン酸一水素マグネシウム リン酸二水素カルシウム

イーストフードとは、イースト(yeast=酵母)の加工品だと思っていました。これを読むと、イースト、つまり、酵母の栄養になるものが一番の意味のようです。

全部で18個の物質が並んでいます。これを全部使うわけではないようです。パン食普及協議会のサイトの中にあるパンのはなしQ3 イーストフードとは?にこのように書かれています。

製パン会社で使用しているイーストフードの代表的なものは、塩化アンモニウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウムの3種類に、食品素材として小麦粉、でんぷんなどを混合して製剤化したものです。

イースト(yeast)は酵母のこと

イーストは酵母菌のことです。これはお菓子の材料を売っているお店ならどこでも買うことができます。パンやお菓子をつくる時に、主に生地をふくらませるために使います。

例えば、こんなのが販売されています。

酵母は植物に近いが光合成をしないキノコのような菌類

ウイキペディア酵母を読むと、このように書かれています。パンに使う酵母は、出芽酵母の一種 Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ) です。

狭義には、食品などに用いられて馴染みのある出芽酵母の一種 Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ) を指し、一般にはこちらの意味で使われ、酵母菌と俗称されている。(中略)

基本的には真核で単細胞性の微生物で、運動性はなく、細胞壁を持っている。光合成能はなく、栄養は外部の有機物を分解吸収することによる。

真核というのは細胞核のことです。細菌は細胞核を持っていません。細胞壁を持っているのは植物の特徴ですが、光合成をしないので、外から栄養を摂らなければいけません。このあたりはキノコと似ています。

光合成をする植物は糖や脂質などを自分で作れますが、酵母はそれらも含めて外から摂る必要があります。

酵母に必要な栄養

古い論文ですが、酵母の増殖を読むと、パンなど食品に使われる酵母に必要な栄養がわかりました。大きく炭素源、窒素源、ほかに微量の無機物とビタミンが必要です。

酵母の栄養について

酵母が生育するのに必要な養分は,水,炭素源窒素源,ほかに微量の無機物およびビタミンです。炭素源は主に生命活動に必要なエネルギーを生みだし,窒素源は体を構成しているタンパク質の材料になり,無機物およびビタミンは生育を助ける働きがあります。

炭素源としてはグルコースなどの糖類,窒素源としてはアミノ酸,アンモニア,無機物としてはリンカリウム,鉄,硫黄マグネシウムカルシウム,ビタミンとしてはB1,B6,イノシトール,パントテン酸,ビオチンなどが利用されます。

パンを作るには、小麦粉と砂糖が必要です。酵母にとって炭素源としては十分にありますね。また、練った小麦粉にはたんぱく質の一つグルテンが含まれています。たんぱく質は窒素源になります。無機物はミネラルです。

小麦粉100gあたりの
栄養成分
中力粉/1等 強力粉/1等
エネルギー 337kcal 337kcal
水分 14g 14.5g
たんぱく質 9g 11.8g
脂質 1.6g 1.5g
炭水化物 75.1g 71.7g
灰分 0.4g 0.4g
日本食品標準成分表2020年版(八訂)

酵母が生きていくのに窒素が必要だとよくわかったことがあります。以前、「第3のビールは、なぜビールの味がするのか?」を読んで、買って来て飲んでみたという記事を書いたことがあります。

「第3のビールは、なぜビールの味がするのか?」を読んで、買って来て飲んでみた
第3のビールにエンドウタンパクや大豆タンパクが原材料として使われていることを知って、今まで買ったことはありませんでした。しかし、第3のビールの造り方を読むと、酵母の生存にたんぱく質が必要であり、それは意外とたんぱく質の多い麦芽の使用率が第3...

第3のビールにエンドウタンパクや大豆タンパクが原材料として使われていることが不思議に思ったことがきっかけで調べて書いたのです。酵母はデンプンをアルコールに変える時アミノ酸を必要とするのですが、第3のビールはアミノ酸を含む麦芽使用率がとても低いので、エンドウタンパクや大豆タンパクを必要とするのです。

イーストフードとなる食品添加物18個

酵母に必要な栄養がわかったところで、改めてイーストフードとなる食品添加物18個をそれぞれ調べて行きます。

塩化アンモニウム

パン食普及協議会のサイトの中にあるパンのはなしQ3 イーストフードとは?にこのように書かれています。

塩化アンモニウムは、イーストによって分解され、栄養源としてイーストに利用されます。

塩化アンモニウムは塩素とアンモニアが結合したものです。アンモニアは、化学式で書くとNH3です。酵母へN(窒素)の供給源です。

塩化マグネシウム

ウイキペディアには塩化マグネシウムの用途について次のように書かれていました。

にがりとして豆腐作りなどに使用される。

にがりに使われているということは一般的なものです。

さらに、鳥越製粉のフランスパン作りに関する用語を読むと、焼き塩についてこのように書かれていました。

焼き塩

フライパン等で焼いた塩。塩化マグネシウムを変化させ水分も飛ばすためベタ付きが無くなります。また、しょっぱさが強くなり味が濃くなるといわれています。

食塩の中に入っているようです。コトバンク焼き塩にはこのように書かれています。

精製度の低い食塩には塩化マグネシウムが含まれ、吸湿性や苦味があるが、煎ることにより水分が除かれるとともに塩化マグネシウムは酸化マグネシウムに変化する。酸化マグネシウムは吸湿性がないため、食塩はさらさらした状態になる。また、苦味もなくなる。

さらさらとした使いやすい食塩として加えるのか、あるいは、酵母の生育のためにマグネシウムを供給しているのでしょう。

グルコン酸カリウム/グルコン酸ナトリウム

グルコン酸カリウム及び同ナトリウムの指定についてに説明が書かれていました。

グルコン酸カリウム及び同ナトリウムは、パン、味噌、醤油等の製造における食塩の加工機能の代替(中略)

食パン又は菓子パンの製造過程において、食塩の25~100%を代替した場合、食パン又は菓子パンの比容積(体積/重量)は食塩のみを使用した場合と同等若しくは同等以上であった。

食塩の代わりになるので食塩を使わずに済み、さらにパンがふっくらするという効果があるということです。

酸化カルシウム

厚生労働省の酸化カルシウムの食品添加物の指定に関する部会報告書(案)にありました。

用途

栄養強化剤、pH調整剤、イーストフード、パン生地改良剤等
酸化カルシウムは、欧米諸国等でパン生地調整剤(DOUGH Conditioner)、イーストフード等として使用されている食品添加物である。また、栄養強化の目的で使用されている。

食べる人の栄養強化のために添加されるようです。パン生地調整剤がどのような意味を持つのか知りたかったのですが、わかりませんでした。

もちろん、酵母の生育にもカルシウムは必要です。

焼成カルシウム

焼成カルシウムは、厚生労働省の第8版食品添加物公定書成分規格・保存基準各条によれば、貝殻焼成カルシウムと卵殻焼成カルシウムがあります。どちらも主成分はすでに紹介した酸化カルシウムなので、説明は省きます。

貝殻焼成カルシウム

定 義: 本品は,焼成カルシウムのうち,貝殻を焼成して得られたものである。主成分は酸化カルシウムである。
含 量: 本品を強熱したものは,酸化カルシウム(CaO=56.08)として91.0%以上を含む。

卵殻焼成カルシウム

定 義: 本品は,焼成カルシウムのうち,卵殻を焼成して得られたものである。主成分は酸化カルシウムである。
含 量: 本品を強熱したものは,酸化カルシウム(CaO=56.08)として95.0%以上を含む。

炭酸アンモニウム

冒頭に紹介した消費者庁のサイトにある別添 添加物関係には膨張剤として分類されていました。ふくらし粉です。

膨脹剤
(1)定 義 パン,菓子等の製造工程で添加し,ガスを発生して生地を膨脹させ多孔性にするとともに食感を向上させる添加物及びその製剤
(2)一括名 膨脹剤,膨張剤,ベーキングパウダー又はふくらし粉

炭酸カリウム(無水)

食品工業では中華そば用のかんすいとして使われているそうです。消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では膨張剤として出てきました。

炭酸カルシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、まず膨張剤として出てきました。次に、ミネラル類として。つまり、カルシウムを補給するという意味です。

硫酸アンモニウム

硫酸アンモニウムは、硫安(りゅうあん)と呼ばれ、窒素肥料の一つとしてよく知られています。酵母にどんな意味があるのか探すと、フランス食品衛生安全庁(AFSSA)、硫酸アンモニウムのワイン醸造用固定化酵素としての使用認可について意見書を公表という記事を発見しました。

ワイン醸造では既に、窒素化合物の欠乏で酵母菌醗酵停止リスクが生じた場合にアンモニウム塩が使用されている。欧州において認可されているアンモニウム塩は硫酸アンモニウムとリン酸アンモニウムの2種類である。共に使用量等の最大限度は300mg/Lである。

窒素を供給するために使われるようです。

硫酸カルシウム

石膏の主成分でもあります。消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、膨張剤とミネラル類として出てきました。カルシウムを供給するためにも使われます。

硫酸マグネシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、ミネラル類として出てきました。マグネシウムを供給するために使われます。

リン酸三カルシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、膨張剤とミネラル類として出てきました。カルシウムを供給するためにも使われます。

リン酸水素二アンモニウム

シンワフーズケミカル株式会社の発酵助成剤に説明がありました。具体的ではないのですが。

果汁発酵時や発酵調味料製造時などの酵母の栄養剤として幅広く使用されているリン酸塩です。

リン酸二水素アンモニウム

同じく、シンワフーズケミカル株式会社の発酵助成剤に説明がありました。

発酵時の酵母の栄養成分として、幅広く使用されるリン酸塩です。

リン酸一水素カルシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、膨張剤とミネラル類として出てきました。カルシウムを供給するためにも使われます。

リン酸一水素マグネシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、ミネラル類として出てきました。マグネシウムを供給するために使われます。

リン酸二水素カルシウム

消費者庁のサイトにある別添 添加物関係では、膨張剤とミネラル類として出てきました。カルシウムを供給するためにも使われます。

NOTE

食品添加物と聞くとあまりよい印象を持ちません。加工品を裏返して原材料名に食品添加物が多いと棚に戻してしまいます。イーストフードが食品添加物だと聞くと、当初、なにやらごまかされたような気分になったのですが・・・。

しかし、酵母を培養することを考えると、微生物を培養するにはそれなりに過去から積み重ねられた方法があります。

もちろん、天然酵母を使ってよく練った小麦粉をふくらますのはよいと思います。

しかし、早く増やすことができれば、パン生地は早くふくらんで早く焼くことができるのだろうなと思いました。

特に、酵母にとっての栄養を知ってから、イーストフードとなる食品添加物を一つ一つ見て行くと、理にかなっていておかしなことはないなと印象が変わって来ました。

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