ウイスキーの発酵には乳酸菌が出てくる

ウイスキーの発酵工程には乳酸菌が関係します。酵母が増える前に乳酸菌が増えて雑菌を増やさないようにする他、アルコールがほぼできて酵母の勢いがなくなった後にも、いくつかの種類の乳酸菌が増殖して乳酸を作ります。

ウイスキー

日本ウイスキー 世界一への道を読みました。

この本のカバーでは著者をこのように紹介しています。お二人ともサントリーの方です。

世界を驚かせた日本のウイスキーはどうやって造られたのか。サントリーの蒸溜所工場長などを歴任した醸造の大家と、そのブレンド技術で世界のトップに立つカリスマブレンダーが、ウイスキーの製造法から楽しみ方まで、至高の味わいの秘密を惜しげもなく明かす。

少し前にビールを蒸留すればウイスキーになるだろうか?という記事を書きました。これは、ずっと思っていた疑問で、調べてみたのです。どちらも原料はモルト(発芽した大麦)です。

イメージとしては、ウイスキーは丁寧に造られてビールは(やや)アバウトなのかと思っていたのですが、実際の発酵工程の管理は、ビール(特にラガー)の方が厳しいのです。

ウイスキーの方が、自然の力に任せている感じがしました。

しかし、その分、発酵工程の変化はウイスキーの方がおもしろいです。ぜひ書いておきたいと思いました。

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ウイスキーの発酵

ウイスキーの発酵は、モルト(発芽した大麦)を粉砕して温水と混ぜて麦汁を濾過し、その麦汁を冷却して発酵槽に入れてから始まります。

このとき、温水は熱湯ではないので、大麦についている乳酸菌などが生き残ったまま発酵槽に入ります。乳酸菌は空気中にもいますが、ウイスキーを発酵する工程で出現する乳酸菌は、大麦由来です。

酵母を加える

それから酵母が加えられます。

現在のスコッチ蒸留所のほとんどは、酵母製造の専業メーカーより供給されるウイスキー酵母(Distiller’s yeast)を一種もしくは複数種使用している。

これらは純粋培養した酵母液を遠心分離してケーキ状の塊にしたものか、乾燥粒状化したドライイーストである。

伝統的にはビール(上面発酵のエール)の酵母を使うのが常態であったが、エールの飲酒量の減少に伴う生産減や供給量の不足、品質の不安定さもあって、ここ二〇年位の間に、供給面や品質の安定したウイスキー酵母の使用に切り替わってきた。

しかしながら、私達のビール酵母の有用性についての研究から、ウイスキー酵母の単独使用よりも、ビール酵母と併用した方が、香味の複雑化や特性化、ボディ感の充実(豊かな発酵)にとって有意であることが証明されている。

従って私達の蒸留所では、操作上は煩雑になるが、今もビール酵母をウイスキー酵母と併用している。

エールビールの酵母とウイスキー酵母を一緒に使うメリットは、別なところにもう少し詳しく書かれていました。

伝統的に使われてきたビール酵母は供給や品質面の不安定さと、アルコール収率の低さで、単独の使用は問題が多い。

しかし、ウイスキー酵母とビール酵母を併用した場合、そしてこれらが乳酸菌と共棲した場合には、酵母の生き残りの時間も変わり、最も欲しい独自のボディ感、酵母が分解したことで生じるイースティ香と、さらにクリーンさを生み出すという優位性を発揮する。

乳酸菌と酵母は相性がよいのです。酵母の生き残り時間が延びるということでしょう。

麦汁は高温で殺菌されないため、酵母をたくさん加えて早くアルコールがつくられるようにします。

添加する酵母の量はビールやワインに比べて多く、麦汁1ml当たり2000万個以上(細胞)になる。これは前述したように、ビールと違って麦汁の殺菌工程が無いので細菌類が混入しており、これらに負けないように早くスムーズに発酵を立ち上げるためである。

この時、大麦由来の乳酸菌も一緒に働いているようです。

最初に乳酸菌も働く

乳酸菌と酵母は相性がよく、最初に乳酸菌が増えて環境を酸性にします。そのおかげで雑菌が増えにくくなり、その環境でも増えていける酵母がどんどん増殖します。

この本の中には最初の乳酸菌の働きについて具体的に書かれていませんでしたが、このようには書かれていました。

酒づくりではその乳酸菌を、他の雑菌を除く「露払い」としていかに働いてもらうか、また発酵の後半で、酵母の脇役として酒に豊かな香味と切れの良さをいかに与えてもらうかということが、発酵管理上の大切な技術になる。

ウイスキーの場合も、乳酸菌が「露払い」として働いていると理解しました。

温度制御をせず、40時間でアルコール発酵は終了

ウイスキーの場合、発酵時間はビールよりかなり短いです。ビールの方が時間をかけて発酵させます。温度制御をしないというのは、「加温しなくても」という意味に読みかえていただいて結構です。

発酵開始後10~30時間が、ぶくぶく沸いている時間で、40時間ではおさまっている。丸二日かかっていないです。

ウイスキーの発酵はビールやワインと違って、スコットランドでも日本でも途中の温度制御をしないのが一般的である。

理由は温度コントロールにより発酵の理想温度まですぐに上げてしまうと麦汁の香りが貧弱になる経験則からきている。

発酵温度が徐々に上がっていく方ができ上がりの香味が豊かなのだ。よって温度のコントロールは、発酵のスタート時点の麦汁温度の設定(麦汁冷却温度)だけで、平均して18~20℃程度である。

ただし季節によってその設定温度を変えており、発酵の最高温度が32~33℃になるように各蒸留所ともスタート温度を季節によって調節(17~22℃)している。

麦汁の栄養分が豊富であること、添加酵母量が多いことやスタート温度が18~20℃位であることから、発酵の立ち上がりはビール等に比べて早く旺盛となる。

発酵開始後10~30時間が最も激しい糖の消費(アルコールの生成)と泡の湧き上がり期であるが、スタート温度から最高温度までの温度経過は華やかなウイスキー成分を多く作る上で極めて大切なプロセスであり、この時期の発酵醪は辺りに花のような、また果物のような香りを充満させる。

40時間位で酵母のアルコール発酵は終了し、目標のアルコール度数に達する。蒸留所によっては48~50時間位の発酵ですぐに蒸留に入る所もあるが、私達は酵母発酵終了後の20~30時間が豊かなウイスキー造りに重要と考えており、この期間を「醪の後熟」と呼んでいる。

この醪の後熟を経ることによって、ウイスキーは厚み、複雑さ、個性と同時にクリーンさを備える。

この時点の醪自身の香りは、それまでの華やかさとは打って変わり、酵母の自己消化臭や味噌のような重い香りが支配的となっている。

この後熟の工程でまた乳酸菌が活躍します。

アルコールができた後にも乳酸菌が働く

ウイスキーの後熟では、よく知られた乳酸菌が酵母に代わって増殖します。アルコールがずいぶん高い環境だと思いますが、平気なんですね。

乳酸菌は乳酸をつくります。アルコールとあわせて雑菌が増えることができない環境になりますね。

発酵30時間余りでアルコール度数が目標近くまで高くなり糖類が減少してくると、栄養源を失った酵母の内部に大きな変化が起こってくる。

酵母はまだ生きてはいるが、細胞内のグリコーゲンが減少し、液胞が大きくなってくる。この液胞内にダンシングボディといわれるリンを含む化合物が生じて動き始める。

この現象が起きるということは、酵母が死期を迎えつつあることを意味している。この少し前から増殖し始めた乳酸菌類(ラクトバシラス・ガゼイ、ラクトバシラス・ファーメンタム等)が発酵力の衰えた酵母に代わって増殖を始め、酵母が利用し残した二糖類を消化して乳酸を作っていく。

これによって酸度が上がりpHが低下すると、飢餓状態の酵母は完全に死滅する。死滅した酵母は自己消化を起こし、菌の内部成分を醪の中に溶出させる。

この溶け出た成分は栄養に富んでおり、これを利用して別の乳酸菌(ラクトバシラス・アシドフィラス)が増えてくる。

この乳酸菌は酵母が全く利用できなかった三糖類や四糖類を消化し、さらに乳酸を作って酸度を高める。これらの乳酸菌は酵母によるアルコール生産を妨げないし、この時期の醪内の環境ではもはや他の雑菌が増えることは難しい。

アルコール発酵終了後の酵母の飢餓、第一次乳酸菌の増殖、第二次乳酸菌の増殖と酸度が急上昇する発酵40時間後から70時間位までの経過(醪の後熟)は極めて重要である。

この期間は酵母による香味にさらに多くの有用な微量成分が加わり、ウイスキーの性格にクリーミーさや複雑さを与えると同時に、切れの良いクリーンさや軽やかなエステル香も付与するのである。

ラクトバシラス・ガゼイ(Lactobacillus casei )、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)はよく聞く名前です。

ラクトバシラス・ガゼイ(Lactobacillus casei )は乳酸菌飲料で有名な菌です。もちろん菌株は違っているでしょうけれど。ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)は、漬け物に入っている菌です。

ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)は、腸内細菌として知られ、ビオフェルミンの乳酸菌もアシドフィラスです。

まとめ

ウイスキーは何年も寝かせて熟成させるので、アルコールができるまでの時間がわずか2日足らずでビールより短いと知った時は、意外な感じがしました。

しかし、発酵工程の話を読むと、香りや風味を豊かにするためにあえて殺菌などしない環境で製造しているため、最初に酵母をたくさん加えなければいけないのだなと分かりました。

発酵食品には、たいてい酵母と乳酸菌が登場しますが、共生関係の話が個人的に好きです。面白いなと思います。

ビールには乳酸菌は登場しません。なぜかというと、ビールの場合、麦汁を1~2時間煮沸するからです。殺菌しているのです。大麦由来の乳酸菌は生きていられません。ビールを蒸留すればウイスキーになるだろうか?では、ビールの発酵工程について詳しく書きました。よかったら読んでみてください。違いがよく分かりますよ。

ビールからウイスキーはできるでしょうか?ビールは麦汁から不純物を除去して発酵させられます。そして最後に濾過されます。一方、ウイスキーの蒸留前の発酵モロミは、酵母の自己消化臭や味噌のような重い香りが支配的です。近いものはできるようですが・・・。

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