スコッチウイスキーを造るとき、香りづけにピート(泥炭)が使われます。どんなふうに使われるのかと思ったら、大麦麦芽を製造後、熱して乾燥させるための燃料でした。ピートはもともと蒸留所の周辺にある入手しやすい燃料だったのです。もちろん、今はピートを使う割合や産地、時間など厳密にコントロールされています。
スコッチウイスキーの独特の香りは、ピートを使ってつけられます。どんな工程でどんな風に香りがつけられるのかご存知ですか?私はピートを使って香りをつけるということしか知りませんでした。
最新 ウイスキーの科学 熟成の香味を生む驚きのプロセスを読みました。ウイスキー好きだけに読ませておくにはもったいない奥が深い本です。発酵過程と熟成の話にはしびれます。
モルトは乾燥させる必要がある
スコッチウイスキーの原料であるモルトは、大麦を発芽させた大麦麦芽のことです。
麦芽は、胚乳のデンプンを糖化させる糖化酵素をつくります。大麦(種子)を麦芽にして、デンプンとデンプンを糖化させる糖化酵素を一度に手に入れてしまおうということなのです。
酵母は糖をアルコールにしますが、デンプンをそのまま分解することはできません。
発芽させるには、水が必要ですが、発芽した大麦をそのままにしておくと、芽と根が生えて伸びいってしまいます。すると糖化酵素の生産が活発ではなくなります。
そのために、途中で生長を止める必要があります。
本にはこのように書かれています。
時期を見はからって発芽した大麦種子を乾燥し、発芽をストップさせる。通常、水分が5%くらいになるまで乾かすのだが、なるべく速く、しかも、温度をあまり上げずに乾燥させることが大切だ。
そうでないと、麦芽中の酵素が活性を失ってしまい、のちの仕込み・発酵工程で支障をきたすことになる。
そのために、麦芽づくりには温度管理はもちろんのこと、送風速度の制御が非常に重要になってくる。種子を目覚めさせるときと同様、麦芽を眠らせるときも神経を使う。
通常、乾燥は2段階で進める。第1段階は温度を33~55℃に保って麦芽の含水量を10%くらいにする。この段階で麦芽表面に付着した水は脱水される。
全体の焙燥時間は24~60時間を要する、手間のかかる工程なのだ。
空気を温めて麦芽を乾燥させるには、熱源が必要です。
ピートはそもそも燃料
ピートは、枯れた植物が土壌菌によって十分に分解されないまま堆積していったものです。炭素が残っているので(決してよい燃料ではありませんが)燃えます。
ビートを燃料にして乾燥させていたのです。もともと蒸留所の近くで入手しやすい燃料だったのです。
種子を乾燥させる際には、「キルン」と呼ばれる独特の形をした塔の乾燥室で、ビートなどを燃料にして熱する場合がある。キルンは煙突の部分に東洋風の屋根を持つ印象的な形状で、ウイスキー蒸留所の象徴のような存在になっている。
キルンの1階部分は大きな竈(かまど)、2階部分は細かな網状になった鉄製の簀(す)の子だ。簀の子に発芽した大麦種子を敷き、竈でビートや無煙炭などの熱源を燃やす。
煙はキルンの煙突から抜ける構造になっている。ただし、いまではキルンで発芽種子を乾燥することは稀である。麦芽づくりは蒸留所ではなく、専門の業者(モルトスター)によって行われる場合が多い。
熱源に用いるピートは、土壌中の植物の遺骸が十分に分解されずに堆積し、部分的に炭化したものだ。気温が低い湿地では、植物遺骸の量に比べて土壌の微生物による分解作用が十分でないためにピートが多くつくられる。
スコットランドの土壌にはとくにピートが多い。スコットランド北部の丘を回ると、ピートを切り出している光景を目にすることがある。
丘にはヒースと呼ばれる背の低い植物が群生している。ヒースはピートを栄養にして生えていると聞いたことがある。
ピートの主要な原植物はヒース、水コケ、水草であり、そのうち北半球の冷温帯に生育するものは200種類に及ぶということだが、とくにヒースの遺骸が堆積したピートが多くを占めるようだ。
ウイスキー工場には、たしかにこのような特徴的な煙突がありました。私が(外からだけですが)見たことがあるのは、ニッカの作並蒸留所です。
ピートの画像は記事の一番上に置きました。ブロック状に切られています。ピートとは、泥炭(でいたん)のことです。ウイキペディアの泥炭にも切り出された画像がありました。
泥炭について
私は北海道生まれなので、泥炭は子供の頃から知っています。北海道には泥炭地があり、小学校の社会科でそのことを習いました。
一番最近、泥炭という言葉を聞いたのは、BSプレミアムで再放送していた新日本風土記富良野・夏でした。

富良野で農業をするために、泥炭地に客土(他所から土を搬入すること)することと、地下にたまった水を抜くことが必要だったと解説されていました。
ウイキペディア泥炭では、こんなことが書かれていました。
現在、日本ではニッカウヰスキーが自社使用のために石狩平野で採掘を行っている。
いまは暖房がほとんどエアコンになり、寒い地方はほぼ100%石油ストーブだと思います。しかし、昔の北海道では、石炭ストーブが普通に使われていました。
石炭を燃やすと、ストーブの中で火の勢いがよい時は、煙突から出る煙は、白い煙かほとんど煙が見えないくらい透明になりますが、火がつき始めた時、まだ温度の低い時は、黒い煙が盛大に出ます。
泥炭はもっと質の悪いものですから、火をつけると、もっと煙がでるだろうなということは想像に難くありません。
「燻香」は結果であって目的ではなかっただろう
ピートは入手しやすい燃料でしたが、それを使って麦芽を乾燥させると、当然のことながら、煙のにおいがつきます。
ピートを燃料にすると、「煙ったい」香りがあたりに立ち込める。煙ったい理由の一つは、ピートは乾燥状態でも20~25%の水分を含んでいるせいだ。
これを燃やして麦芽を乾燥させると、乾いた麦芽の表面にじっくりと煙い香りが吸収される。麦芽についた香りは、それを原料にしたウイスキーにまで移行する。
この香りをスモーキーフレーバーと称する。また、ピートの特徴がよく出ているという意味で「ピーティー」という場合もある。
それは「燻香」と呼ばれ、ウイスキーの香りの一つになりましたが、これは最初から意図したのではなく、燃料として回りに泥炭しかなくて、燃やしたらたまたまよかったという話でしょう。
今は「燻香」を魅力の一つとして、細かくコントロールされているようです。
いずれにしても「燻香」と称されて珍重されるが、香りに特徴があるため、その強弱の調節には神経がつかわれる。
一般的には、スコッチはジャパニーズに比べてピートの香りの強い製品が多い。また、カナディアンのようにピートをまったく使わない製品もある。
スコッチやジャパニーズの場合には、香りの強弱はあっても、スモーキーフレーバーはウイスキーの特徴香の一つとなっている。
蒸留所から麦芽づくりを依頼されたモルトスターは、麦芽を乾燥する際に麦芽に対するピート使用量を変えたり、ピートで焚(た)く時間を調節したり、ピートの副流煙を作ったり、ピートの産地を選定したりしながらピート臭の強さをコントロールしている。
麦芽のピーティーの強さは通常、3段階に分けられており、ヘビーは指標とするスモーキーフレーバーの成分値(フェノール値)が30~50ppm、ミディアムは10ppm、ライトは2.5ppm以下程度とされている。
モルトスターは、maltsterと書きます。sterは作る人という意味です。蒸留所ではモルトを作らずモルトスターから仕入れるという分業になっているようですね。
カナディアンウイスキーがピートをまったく使わないのは、きっと蒸留所の近くにピートがなく別な方法で香りをつけたような分かりやすい理由だと思います。
まとめ
ウイスキー造りの香りづけにピートを使う。聞いたことがあって知っていたけど、どのように使うのか全く知りませんでした。
ピートは、モルト(大麦麦芽)製造後の乾燥のために、蒸留所周辺で容易に入手可能(きっと安価)な燃料だったので使われていました。
ピートは燃料としては質がよくないので煙が多く、煙臭さがモルトに移りましたが、それが「燻香」としてウイスキーの香りの魅力になったということでした。実に分かりやすい。
しかし、伝統的製造方法というものは、そういうものなのかもしれません。