以前、日本酒の発酵のことをわが家でできるこだわり清酒で書きました。酛の先祖である「そやし」(水酛みずもと)のことも書きました。コントロールが難しいらしいですが、新しい材料も大した手間もかからないのでもう少し調べてました。
というのは、私が毎週のようにヨーグルトを作っているからです。ヨーグルトの種ができないのかと思っているのです。乳酸菌が活発に働いているなら使ってみたい。果たして固まるのかどうか。どんな味になるだろう?とても興味があります。
もう一度水酛とは?
水酛とはこのように作るそうです。
水酛の造り方は、白米を水に漬け、その中に少量のご飯(炊いた)を入れて、3、4日間置いておくと濁って、泡も立ってくる。これをざるで濾して、入れていた白米は蒸し、麹と前記の濾過した水で仕込みをすると、7日間くらいで酒になる。(乳酸発酵の文化譜)
私が必要なのは泡も立ってくるまでの過程です。入れていた白米を蒸し、麹と、入れていた水で仕込むと酛になります。酛は酒母ともいいます。
この水酛にはルーツがあります。14世紀頃、室町時代にあった「菩提泉」(ぼだいせん)の醪(もろみ)が酒母作りに改変されたもので、江戸時代には菩提酛といわれ、その頃に水酛といわれるようになったそうです。醪は、お酒を造る発酵の本体です。酒母は酵母を増やす過程です。
泡が立ってくるときはどんな状態なのだろう?本を読んでも分からなかったので、ネットを歩き回ってみました。
すると日本生物工学会のサイトに菩提酛のメカニズムと微生物の遷移という記事が見つかりました。これを読むといろいろなことが分かります。
水酛は、気温の高い時期や温暖な地域において比較的安全に酒造りが可能なものとして広く普及していた、とありました。日本酒は秋から冬に造っていますが、そうではない造り方が過去にはあったようです。
さらに、こんな興味深い記事が出ていました。
この幻となっていた菩提酛を用いた清酒(菩提酛清酒)を再現,復活させるため,1996年に奈良県内の酒造会社有志・正暦寺・奈良県工業技術センターをメンバーとして 「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」 が立ち上げられた.また,関係機関・関係者の協力を受けながら活動を続け,1998年に菩提酛清酒を再現,復活することができて,現在商品化している.
早速調べると、菩提山真言宗 大本山 正暦寺のサイトが出て来ました。正暦寺が清酒発祥の地なのだそうです。お寺でお酒を造っていたとは!初めて知りました。毎年1月に菩提酛(ぼだいもと)清酒祭が行われ、境内で酒母の仕込みが行われるそうです。
しかも、清酒発祥の地を開くと、
当時の正暦寺では、仕込みを3回に分けて行う「三段仕込み」や麹と掛米の両方に白米を使用する「諸白もろはく造り」、酒母の原型である「菩提酛ぼだいもと造り」、さらには腐敗を防ぐための火入れ作業行うなど、近代醸造法の基礎となる酒造技術が確立されていました。
これは本当に今の酒造りと変わらないですね。このページを下の方まで読むと、菩提酛清酒 銘柄一覧が出て来ます。現在は9銘柄あり、お寺でも販売しているようです。
さて、水酛に話を戻して、乳酸菌について読んでいきます。
水酛の乳酸菌
水酛の中での菌数の変化について書かれていました。
生米を水に漬ける温度は約20℃。
一般細菌数は24時間後に107cfu/mlに増殖する。
cfu/mlについて説明しましょう。
cfuとは、colony forming unit(コロニー形成単位)のこと。細菌検査で用いられる。 細菌を培地で培養し、できたコロニー(集団)数のことです。
107ですから、10,000,000(1000万)コロニーが1ml中にあるという意味です。
乳酸菌は32時間後に107 cfu/mlになる。
乳酸菌は32時間後に一般細菌が24時間後にあったコロニー数まで達したということです。
乳酸菌はその後も増殖を続け90時間後には108 cfu/ml以上になる。
90時間後とは4日後ということになりますね。1億コロニーの乳酸菌が1ml中にあります。
乳酸菌が増えると乳酸を出すのでだんだん酸性になりpHが下がってきます。pHが4まで低下すると一般細菌数は激減する。
そして、アルコールをつくる酵母は、100時間目以降に出現したそうですから、水酛の乳酸菌を利用するには90時間が一つの目安になりますね。
もう一つ興味があるのは、菌の種類です。もっともこれは場所によって米によって違うので、あくまでも参考ですが。
乳酸菌は最初から終わりまで同じではなく、乳酸が増え、酵母がアルコールを生産し始めると酸に強くてアルコールにも強い乳酸菌に変わります。
乳酸菌が107 cfu/mlになった時点で、その主要菌はLactococcus lactisでした。調べてみると球菌で、チーズ製造に関わる菌のようです。
菌数が108 cfu/mlに増加し,乳酸が蓄積しpH4,酸度3.2となるとLeuconostoc citreumが出現してLactococcus lactisと混在しました。
酒母工程に入ってもしばらくはLeuconostoc citreumが主要菌だそうです。Leuconostocはヘテロ発酵を行うので、乳酸とアルコールを生産します。
Leuconostoc citreumは、米麹からも分離されるようです。(参考|米麹からの低温発酵性Leuconostoc citreumの分離と諸性質)
通常の酛づくりは、蒸し米と麹と水からつくります。材料に麹が入っているのと、温度が10℃以下の低温なので、出てくる乳酸菌はちがうものになります。
これだけ分かると、水酛を作ってみようという気になります。
しかし、菩提酛清酒ってどんな味がするんでしょうね。
身近に買える菩提元の酒
東京では菩提酛の酒はなかなか買えないだろうと思っていましたが、ありました。そして飲んでみました。千葉の寺田本家の醍醐のしずくというお酒です。
お酒を扱っている自然食品店なら(多分)あります。普通の酒屋さんではなかなか置いてないかもしれません。
お茶の水のガイアにはありました。
くわしくは菩提酛仕込み醍醐のしずくを飲んだ(寺田本家)という記事に書きました。
