「第3のビールは、なぜビールの味がするのか?」を読んで、買って来て飲んでみた

第3のビールにエンドウタンパクや大豆タンパクが原材料として使われていることを知って、今まで買ったことはありませんでした。しかし、第3のビールの造り方を読むと、酵母の生存にたんぱく質が必要であり、それは意外とたんぱく質の多い麦芽の使用率が第3のビールでは極端に低くなったことで、足さなければいけなくなったからだと知りました。とても面白い本でした。

私は飲むならビールです。発泡酒はごくたまに飲むときがありますが、第3のビールは多分1回しか、飲んだことがありません。エンドウ豆から作ったビールもどきくらいの認識しかありませんでした。味も覚えていません。

第3のビールは、なぜビールの味がするのか?を読みました。なんとなく表紙の雰囲気からお手軽な本かなと思ったのですが、そんなことはありません。さすが技術評論社。読みやすくて中身のとても濃い本でした。すごく面白い本です。

まずN源を理解する

ビールは、大麦を発芽させたモルトを原料に、酵母がアルコール発酵してつくられます。アルコールになるのは糖分です。大麦にはたんぱく質も含まれていますが、酵母がつくった酵素によって、サイズの小さいペプチドやアミノ酸に分解されます。

これらは必ず窒素(N)を含むので、研究者たちは「N源」などと呼ぶそうです。

大麦が原料のモルトの成分が調べられなかったので、代わりに大麦加工品ですが、押麦(おしむぎ)の成分分析表を載せます。押麦100gあたりたんぱく質は6gあります。意外とありますね。

おおむぎ/押麦100gあたり(出典
エネルギー340kcal
水分14.0g
たんぱく質6.2g
脂質1.3g
炭水化物77.8g
灰分0.7g

窒素(N)を含むアミノ酸などの「N源」は酵母の生存に必要です。

N源はうまみや芳香成分のため、酵母が生きていくために必要

アミノ酸は、うまみに関係していることがよく知られています。

アルコールはアルコールなので、原料が何であれ、味に違いはありません。理科の実験で局方アルコールをさわったことのある人ならご存知のように、消毒薬のにおいで、味もあんな感じです。

それに味をつけるのがN源です。

アルコール発酵するときアミノ酸が必要

さらに、酵母がアルコール発酵する時には、必ずアミノ酸が必要とされるそうです。酵母も生きていくためにいろいろな栄養が必要なのです。

酵母はデンプンをアルコールに変える際、アミノ酸を必要とする。そして、酵母に代謝されたアミノ酸は、香り成分のもとになったりして、その味の一部となっているのだ。

もし、アミノ酸がたりないと、ビールは硫黄のにおいなど、「オフフレーバー」(いやなにおい)を出すようになるそうです。

また、ビールにとって欠かせないホップも、苦味と香りをつけますが、この記事では省略します。この記事の主役は、N源です。

スーパードライから第3のビール誕生まで技術がつながっている

副原料を多めに使ったスーパードライから第3のビールまで技術がつながっています。発芽大麦(モルト)以外の副原料をいかにうまく発酵させるかという技術で造られているのです。

以前、ビール職人、美味いビールを語るという記事を書いた時、ビールに使う副原料は、飲み口を軽くするために使われていることを知りました。

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この本では、第3のビールまで続く道のりのスタートに、一世を風靡したアサヒスーパードライを置いています。なぜかって?副原料が関係あるのですよ。

スーパードライは副原料を多めに使ったビール

スーパードライは1987年発売だったそうです。それまでにない銀色のパッケージや缶はインパクトがありました。味もスッキリ。アルコール度数5%はいまは当たり前ですが、当時はスーパードライだけでした。

この本を読んで初めて知りましたが、スーパードライの「洗練されたクリアな味・辛口」は、原材料の「麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ」によって作られます。

デンプンが多いと切れ味がよくなる

スターチは、トウモロコシ(コーン)から作られた純粋なデンプンです。デンプンは糖に変わり純粋なアルコールになります。スターチは切れ味のよいアルコールになります。

そして、米とコーンには、N源となるたんぱく質も含まれていますが、デンプンが多い。こちらも切れ味のよさに貢献します。

さらに、最大の特徴は、それまで飲み口を軽くするために使われていた副原料を多めに使うことで、新しいうまさを世に知らしめたことです。

この本を読むまで、副原料を多くしてあの味を出していたとは考えたこともありませんでした。しかし、説明してもらうとなるほどと納得できます。

酒税の高さから発泡酒が登場

スーパードライが発売されたのは、バブル経済の頃でした。その数年後から景気は冷え込み、しかし、まだまだ円高だったので、輸入品が安く買えました。私も買いましたが、ダイエーが当時1缶100円程度でドイツビールを販売していましたっけ。

こんな価格のビールが登場すると、日本製のビールは売れなくなります。

日本の酒税は、ビールにかかる税金が高いことで有名です。下の表は、本に載せられていた1994年当時の区分です。

1994年サントリーがホップスを発泡酒1の区分で製造し、発売。翌年、サッポロが発泡酒2の区分でドラフティを発売しました。

麦芽使用率税金(1リットルあたり)
ビール67%以上220円
発泡酒125%以上67%未満152.7円
発泡酒225%未満83.3円

その2年後1996年に酒税法が改定され、麦芽使用率50%以上の発泡酒と麦芽使用率25%未満の発泡酒の税金が上がり、また、2003年にも酒税法が改定され、もちろん、税金が上がったため、第3のビールの登場となりました。

第3のビールの登場によって麦芽使用率の低さに対応する技術が生まれた

麦芽25%未満になると、麦芽の糖化酵素だけではこれまでの副原料となるデンプンを糖化させることができません。そのため、副原料を最初に糖化して麦汁に加える技術が生まれました。

また、味に影響するN源が不足することに対しては、麦芽からうまみ成分を物理的に引き出す方法も開発されました。

麦芽使用率0%のドラフトワン

酒税法の改定に合わせて、全く麦芽を使用しない第3のビールが開発されることになりました。

2003年9月、サッポロビールからドラフトワンが発売されました。多分、私は飲んだことがないと思います。早速、これを書き終わったら今日買ってきて飲んでみます。

いままで、エンドウ豆を原料に使っていることを聞いていたので、「なんじゃそれ?」とまったく飲む気にならなかったのです。何しろ麦芽使用率0%ですから。

もちろん、なぜエンドウ豆を使っているのか、この本を読むまで、その意味が分かりませんでした。

N源としてエンドウタンパクを使う

前に説明した通り、うま味のため、そして酵母を元気に働かせるためには、N源が必要でした。N源としてコーン、アワ、ヒエ、米などいろいろな穀物が試されたそうですが、味がよくなるものは見つけられなかったようです。

しかし、ひょんなことから見つけられたのは、エンドウタンパクでした。

ちなみに、エンドウ豆の成分分析表を載せておきます。豆なので当然たんぱく質が多いです。

青えんどう/乾100gあたり(出典
エネルギー352kcal
水分13.4g
たんぱく質21.7g
脂質2.3g
炭水化物60.4g
灰分2.2g

本にはこのように書かれていました。

「エンドウタンパクは文字通り、主成分がタンパク質なんです。だから、麦芽の渋みの原因となるタンニンなどが含まれず、引っかかりのない「スッキリ味」になったんです。しかもホップ特有の爽快な香りと苦みがグッと引き立ったんですね」

のどごし生

のどごし生は、2005年にキリンビールから発売されました。こちらも麦芽使用率0%のお酒です。

N源として大豆タンパクを使う

こちらはN源として、大豆タンパクが使われました。大豆の成分分析表を載せます。エンドウ豆とは組成が全然違いますね。たんぱく質と脂質が多いです。大豆油をしぼるくらいですから当たり前なのですけれども。

国産/黄大豆/乾100gあたり(出典
エネルギー422kcal
水分12.4g
たんぱく質33.8g
脂質19.7g
炭水化物29.5g
灰分4.7g

大豆タンパクを使って発酵させると、引っかかりのないあっさりとした味わいに仕上がるものの、あまりにあっさりし過ぎていて、味気ないという問題があったようです。

これを解決したのは、アミノカルボニル反応(いや、メイラード反応といった方が分かりやすいでしょう)でした。

ビールの黄金色はメイラード反応

ビールの製造過程では、大麦を発芽させて麦芽にします。麦芽は、そのままにしておくと芽を伸ばすためにどんどん酵素によって自己消化を進めます。

それではビールが台無しになるので、まず低めの温風で乾かし、その後80℃程度の温風を送り込んで、芳ばしく、雑菌も繁殖できないほど乾かします。

この行程を焙燥というのですが、この行程で、糖分とN源が反応してアミノカルボニル反応(メイラード反応)が起こり、ビール特有の黄金色のもとになるそうです。

メイラード反応

メイラード反応は、糖分とアミノ酸が加熱されると褐変する反応です。パンの焼き色、コーヒー、味噌、醤油、ごはんのおこげ、肉の焼き色などなど、料理の本でよく出てきます。キツネ色になる反応です。

圧力釜で加熱してメイラード反応を起こす

糖類と大豆タンパクを発酵させてつくったお酒は、あっさりし過ぎている問題がありましたが、色も薄かった。

麦芽を使っていないので、焙燥する行程がないのです。この行程を糖類と大豆タンパクで起こせないかと考え、圧力釜で加圧して温度を上げるとメイラード反応を起こすことができたそうです。

圧力釜で大豆タンパクと糖分を加熱してできた液体は、美しい茶系の黄金色となった。

これを発酵させると、コクのあるお酒ができた。これを加熱殺菌せず、生のまま飲むとまたうまい。「のどごし<生>」誕生の瞬間であった。

まとめ

本を読んで、第3のビールをつくるためにエンドウ豆や大豆が必要な理由が分かりました。酵母がN源を必要とするからです。

サッポロもキリンもなぜこんな原材料が必要になるのかサイトには書かれていないけれど、きっと私みたいに「なぜ豆のタンパクを使う必要があるのだろう?」と思ったところで、思考停止していて、飲んでみようと思わない人は結構いるんじゃないかなと思いました。ビールが好きな人なら「まがいもの」にしか感じないからです。

この本を読まなければ、第3のビールを買ってみようと思わなかったです。ドラフトワンは近所で売ってなくて、のどごし生だけ買って来ました。

さて、飲んでみます。

ビールについて他に書いた記事があります。ビールについて書いた記事をご覧下さい。

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