ビール醸造法の変遷について

私はビールが好きです。

一番好きなのは、サッポロのラガービール。赤い星が入ったクラシックなデザインのビールで、古典的なスタイルの居酒屋に行かないと出て来ません。次がサッポロの黒ラベル。北海道限定のサッポロクラシックはとてもおいしいと思います。千歳空港に降りると、あちこちにサッポロクラシックのポスターが貼ってあります。しかし、北海道以外ではたまにしか買えません。残念です。

ビール

とかなんとかいっても、その他のビールが出て来ても文句はいいません。すべておいしくいただきます。

体を動かした後の冷たいビール、仕事の後の一杯はとても楽しみです。

この記事では、ビールの歴史を早歩きし、私が普段飲んでいる下面発酵のビールまでの技術の変化について書きます。

ビール純粋令

今回の記事のスタートは、カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(上) です。最初の方のコラムに、「現代のビール醸造」という記事があり、ドイツでは、ビール醸造は、1516年に公布されたビール純粋令に準拠しなければならない。とあり、その内容は、

原料は大麦麦芽とホップと水だけで、それ以外には酵母だけが使用をゆるされている。

というものでした。

ビール純粋令がわざわざ出されたということは、「不純」なビールが結構あったということですね。

そこで、ビールの歴史が少し知りたくなったのです。前にウイスキーとビールの発酵は途中まで似ているが、乳酸菌が出てくるのは?を書いた時、ビールの下面発酵が歴史的に新しい技術だということが分かりましたので、なおさら興味を持ちました。

それで、ビールの科学を読みました。

ビールの起源

ビールの歴史は7000年といわれています。最初のビールは、紀元前5000年以上前のシュメールやアッシリアで造られたといわれます。また紀元前3000年頃の古代バビロニアではビール造りを知ることができる記録が残っています。

当時のビールの製法は、発芽した麦を乾燥して粉にしたものをパンに焼き上げ、このパンを砕いて水を加え、自然に発酵させるという方法だったようです。すでに「ビール」らしいです。

現代のビールではドイツのビール純粋令にもある通り、香りづけには原則ホップを使いますが、古代では香りのつよい芳香性植物、薬用植物を添加したといわれています。

紀元前2000年頃からエジプトでもビール醸造の記録が残されています。この時代の特徴は、ビールの清澄化です。赤色粘土の粉末を使って澱を凝集させていたようです。コロイド反応というやつですね。

ピラミッド建造とビールはよく聞く話ですが、この時代のビールは、麦や酵母の成分そのものを多く含み、滋養が入った液体のパンだったようです。

ヨーロッパのビール

紀元1世紀には古代ゲルマン人がビールを醸造していたという記録があるようです。フランク王国のカール大帝(在位768年~814年)の時代になると、ビール醸造は、王侯や寺院によって行われ、修道院醸造所が発達しました。

この頃、ホップが一般的に使用されるようになったようです。

古代からの伝統だった芳香性植物や薬用植物の添加は同時に行われていました。こちらの方が伝統的だったので権威があり、「グルート」と呼ばれたこれの植物の調合は、権利制として重税を課されたとあります。

13世紀になると、修道院の特権だったビール醸造は市民にも許されるようになり、都市の発展と共に、商業的な醸造所がつくられるようになりました。

16世紀、ビール純粋令が公布されるまでに、グルートに代わり、ホップが持つ苦みや抗菌作用や麦汁の清澄化作用や安全性が評価されていたのでしょう。ビール純粋令以後、グルートは駆逐されます。

グルートには様々な植物が使われていたのですが、中には、酔いが早く強くなるような向精神性の薬草など危険なものも含まれていたそうです。

下面発酵ビールの登場

15世紀後半から、ドイツのバイエルン地方で、低温で発酵させるビールが造られるようになりました。気温の低い時期に醸造するので失敗が少なく品質が安定し、穏やかな香りや風味もよかったので、この醸造法は広がっていきました。

低温で発酵させるときの酵母は、下面酵母です。それまでの酵母は上面酵母でした。しかし、当時は酵母なんて分かりませんから、単純に低温で発酵させたビールの残渣を次の発酵に使うという使用方法で、知らずに別な酵母を使っていたのではないかと考えられています。

上面酵母は、発酵中に菌体が液の表面に浮かび、下面酵母は発酵後期になると沈む性質を持っています。

当時は製氷に必要な冷凍機がありませんから、冬季から春に醸造され、氷で貯蔵できる穴蔵が醸造や熟成のために使われました。下面発酵が大規模に行われるようになるのは、1873年にドイツでアンモニア冷凍機が発明されてからです。

下面発酵のビールは、私がいつも飲んでいる日本のビールのほとんどだそうです。上面発酵のビールは、酢酸とアルコールからエステルができるので、香りが強くなります。下面発酵のビールは保存性がよいのでラガーと呼ばれます。

ピルスナービールは軟水で造る

もう一つ、日本のビールはほとんどピルスナーと呼ばれるものです。ピルスナービールが生まれたのは、1842年、チェコのピルゼンでした。

ピルゼンの工場では、バイエルンから技術者を招いて、下面発酵でしっかりした色と味のビールを造るつもりで仕込んだのですが、出来上がったビールは黄金色で泡の白いビールでした。しかし、それがとても味がよく、量産に取りかかるようになりました。

その原因は、ミュンヘンの水は重炭酸塩(重曹)を含む硬度の高い水で、濃色ビール向きの水質だったのに対し、ピルゼンの水は、軟水だったのでした。

ピルスナータイプのビールは世界中に広がり、圧倒的な人気があるようです。下面発酵のラガービールにしても、おいしいとか飲みやすいとか味がよいものはすぐに広がりますね。

なるほど、こうやって私の飲んでいるビールはできてきたのですね。

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