お酢を飲むと、肝臓でアセチルCoAに変えられます。このときATPが分解されAMPが増えるので、AMPがATPになるように、ブドウ糖や脂肪酸が使われ、エネルギーがつくられる反応が活発になります。同時に、エネルギーを必要とする、脂肪酸合成、グリコーゲン合成、蛋白質合成およびコレステロール合成などが抑制されます。もっと平たくいうと、脂肪を蓄えようとしなくなるのです。その結果、やせることになります。
なぜお酢を飲むと体重が減ったり中性脂肪が減るのかと疑問に思った
つい最近、昔の同僚と会ってビールを飲んだのですが、酢玉ねぎを食べ続けた人が、体重が数キロ減り、中性脂肪が100を切って60(だったか?)程度になったと喜んでいました。
ちなみに、その方は飲んべえなので、節制しているわけではありません。
しかし、ここに記事を書き続けて少し知識が増えた私は、なぜお酢を飲んで体重と脂肪が減るのだろうと、帰りの電車に乗っている時から疑問に思い始めました。
お酢を飲むと、なぜ、やせて中性脂肪が下がるのか調べました。ゆっくり読んでみてください。
お酢を飲んだ効果は
お酢を飲んで得られる効果は、以前、書いたお酢の効能という記事にまとめてあります。
おもな効果は以下の通りです。
- コレステロール値を下げる
- 糖尿病の予防効果
- 高血圧の予防
- 肥満防止
- 骨粗しょう症の予防
お酢が体によいのは昔からよく知られていることで、疑う余地はありません。
しかし、お酢を飲んでなぜやせるのだろうと思うようになりました。なぜかというと、お酢は体の中でエネルギー源になるからです。
お酢(酢酸)ってエネルギー源じゃなかったっけ?
糖、脂肪、タンパク質がエネルギー源として燃やされる時は、それぞれ分解されて、必ずアセチルCoAになります。アセチルCoAがミトコンドリアのTCA回路(クエン酸回路)に入り、生きていくためのエネルギー、ATPをつくるもとになります。
酢酸はアセチルCoA
下図、左がアセチルCoAで、右が酢酸です。
酢酸はお酢の主成分です。化学式CH3COOHは確か中学生の教科書にも出て来ました。酢酸からアセチルCoAにするには、酢酸の右下についている-OH基に、補酵素A(HS-CoA)のHを外して、残った-S-CoAをつければできます。
詳しくは、アセチルCoAとは酢酸のことかという記事に書きましたので、そちらをご覧下さい。
アセチルCoAは、正確な構造式を見ると、とても複雑な物質なのですが、何のことはない、酢酸からOHを抜いたものを、運び屋である補酵素A(-S-CoA)が連れて移動しているだけなのです。
体内は水の中のようなものですから、もし、補酵素Aから切り離されれば、OHはすぐに戻って来ます。つまり、酢酸なのです。
エネルギー源であるアセチルCoAの正体は、酢酸でした。
改めてお酢を飲むとなぜやせる?
では、少し話題を変えて、他の食べもののことを考えましょう。
毎日食べるごはんは、炭水化物のでんぷんです。でんぷんは消化されてブドウ糖になり、エネルギーになるために、アセチルCoAになります。
お酢と変わりません。
もし、仮に(もちろん、そんな人はいませんが)、コップになみなみとお酢を注いで飲む人がいたら、エネルギー源として利用できて、ごはんを食べなくても済むのではないか?
私はそう思ってしまったのです。
でも、実際は、お酢を飲む人は肥満になりにくくやせるといわれます。なぜなのでしょう?
お酢を飲むと細胞の中でAMP/ATP比が高くなる
ネットを探して歩き、酢酸の生理機能性という論文を見つけて読みました。
体の中でつくられる酢酸はアセチルCoAとなり、ミトコンドリアで燃料として使われます。
外から入ってくる酢酸、つまり、お酢を飲んだときも、もちろん体の中でアセチルCoAになるのですが、体は別な反応もするようです。
酢酸からアセチルCoAをつくるにはATPが必要
なぜか探すのにかなり手間がかかったのですが、酢酸からアセチルCoAをつくる反応は、下図の通りです。
反応にはATP(アデノシン三リン酸)が関わり、AMP(アデノシン一リン酸)とピロリン酸(二リン酸)が反応後にできます。
ATPがAMPに変わるのですからエネルギーを使う反応です。
酢酸 + ATP + CoA → アセチルCoA + AMP + 2リン酸
関わる酵素は、アセチルCoAシンターゼ(Acetyl-CoA synthetase)、アセチルCoA合成酵素です。(出典)
この反応は酢酸を飲んだ時だけでなく、体内に酢酸があれば、アセチルCoAに変えるため同じように行われます。
絶食すると肝臓で酢酸もつくられる
体の中に酢酸が増えるのは、酢酸の生理機能性によると、絶食して脂肪酸が盛んに分解されている時です。
糖が欠乏してくると、アセチルCoAからケトンが作られるようになります。
しかし、同時に酢酸も作られるそうです。
絶食時に肝臓でできた酢酸は肝臓ではアセチルCoAに戻らない
絶食時、エネルギー源をつくるために肝臓でβ酸化によって脂肪酸から炭素数2のアセチルCoAが切り離されて行きますが、アセチルCoAの濃度が高くなると、今度はアセチルCoAを酢酸に変える酵素が働き始め、酢酸が増えます。
絶食して肝臓が酢酸をつくったとき、肝臓では酢酸はアセチルCoAに戻ることはなく、そのまま血液中に放出されます。それを受け取った細胞がアセチルCoAに変えて、エネルギー源にします。
お酢はすぐに吸収される
お酢を飲むと体にすぐに吸収されます。酢酸の生理機能性にはラットを使った実験について、このように書かれていました。
ラットに酢酸を経口投与すると,投与後速やかに血中酢酸濃度が上昇し,10分以内にもとのレベルに戻っていた。血中酢酸濃度は投与した酢酸濃度に依存していた。
すぐに血中酢酸濃度が上がり、10分以内にもとのレベルに戻るのは、酢酸を取り込んだ細胞の中で上に書いたアセチルCoAシンターゼによって、酢酸がアセチルCoAに変わるからです。
飲んだお酢は肝臓で代謝される
上で書いたように、肝臓でできた酢酸は、アセチルCoAシンターゼによってアセチルCoAに戻されることはないのですが、お酢を飲んだときは別のようです。小腸から吸収された酢酸は、肝臓でもアセチルCoAに戻されます。
このとき、ATPが使われ(減り)、AMPが増えます。すると、AMPとATPの濃度の比、AMP/ATPが変化して高くなります。
細胞内でAMP/ATP 比が高くなると、AMPキナーゼ(AMPK)がリン酸化され活性化されます。
酵素AMPキナーゼ(Kinase)
真核細胞のエネルギー・センサー「AMPキナーゼ」を読むと、AMPキナーゼの働きを知ることができます。
飢餓状態に適応する働き
AMPキナーゼは、大雑把にいうと、飢餓状態に適応するためのものです。食べものがないから、体に蓄えてきたものを分解してエネルギーをつくり、かつ、エネルギー消費につながることをストップする。
飢餓,栄養素の枯渇,あるいはエネルギー欠乏ストレスによって活性化され,エネルギー産生のための異化作用を促進し,エネルギー消費を伴う同化作用を抑制する。
具体的にはこのように書かれていました。
AMP キナーゼが活性化すると,エネルギー産生のための異化作用が亢進すると同時に,エネルギー消費を伴う同化作用は抑制され,細胞内エネルギー・レベルを上昇させるように働く。
すなわち,グルコースおよび脂肪酸の取り込み(骨格筋),解糖(骨格筋),および脂肪酸酸化(骨格筋,肝臓,脂肪)が亢進し,糖新生(肝臓),脂肪酸合成(骨格筋,肝臓),グリコーゲン合成(骨格筋),蛋白質合成(多くの臓器),およびコレステロール合成(肝臓)は抑制される。
上の文中、たとえば、「グルコースおよび脂肪酸の取り込み(骨格筋)」の(骨格筋)は、行われる場所を示しています。
スイッチになるのはAMPとATP
AMPキナーゼは、リン酸化されて活性化されますと書かれていましたが、その役割を果たすのは、AMPとATPです。
細胞にはATPがたくさんある状態が理想です。エネルギーがたくさんある状態だからです。ATPを使うとリン酸が外れてAMPが増えます。
AMPがスイッチになると、エネルギーが少ない状態であると認識されて、AMPキナーゼが活性化されます。
AMP キナーゼのγサブユニットには,AMPおよびATPの結合ドメインがあり,前者が結合すると活性は促進され,後者が結合すると活性は抑制される。
お酢を飲むと、肝臓の細胞でもAMP/ATP 比が高くなり、AMPキナーゼ(AMPK)が活性化されます。AMPキナーゼ(AMPK)が活性化されると、次に、炭水化物応答領域結合タンパク質(ChREBP)が不活性化されます。
炭水化物応答領域結合タンパク質(ChREBP)
長くてとても一度では覚えられない用語です。分子栄養学にはこのように説明されていました。
高炭水化物食を摂取すると,肝臓では解糖系が促進されるとともにグリコーゲン合成系や脂肪酸合成系が活性化され,余剰の炭水化物はグリコーゲンや中性脂肪として蓄積される.
一方,高脂肪食を摂取すると,解糖系は抑制され,脂肪酸分解経路が活性化されることで,脂肪が優先的に燃焼されエネルギーを生成する.
このような代謝調節はおもにインスリンとグルカゴンのバランスにより調節されている.
近年,分子レベルでの解析の進歩により,インスリンやグルカゴンとは独立した,炭水化物自身による遺伝子発現調節機構の存在が明らかになってきた.
現在では多くの糖代謝,脂質代謝経路の酵素遺伝子のプロモーターに炭水化物応答配列の存在が知られており,その配列に結合する転写因子である炭水化物応答領域結合タンパク質(ChREBP:carbohydrate responsive element binding protein)が2001年に発見された.
糖や脂肪の代謝は、インスリンやグルカゴンといったホルモンが指示を出していますが、食べた炭水化物自体も、エネルギーをつくったり保存したりする酵素をつくることに関係していることが分かりました。
酵素をつくる時に、DNAに特異的に結合するタンパク質があり、それは転写因子と呼ばれます。DNAの遺伝情報をRNAに転写する過程を促進、あるいは逆に抑制する働きをします。
ChREBPは糖代謝と脂肪合成に関わる
炭水化物応答領域結合タンパク質(ChREBP)が活性化されると、糖代謝と脂肪合成に関係する酵素のDNAの遺伝情報がRNAに転写する過程が促進されます。
つまり、糖代謝と脂肪合成の酵素が盛んに作られるようになります。
AMPキナーゼが活性化されるとChREBPは不活性化される
しかし、AMPキナーゼが活性化されると、ChREBPは不活性化されます。つまり、DNAからRNAに転写されにくくなるので、脂肪合成酵素が作られにくくなります。
酢酸の生理機能性には、このように書かれていました。
AMPK が活性化されると,肝臓の脂肪合成に関わる転写因子,炭水化物応答領域結合タンパク質(ChREBP)がリン酸化により不活性化され,脂肪合成関連遺伝子の転写活性が低下する。
説明のため、図が載せられていました。これを見ると分かりやすいと思います。
ChREBPが不活性化されると作られにくくなる酵素
いくつかあります。酢酸の生理機能性には、このように書かれていました。これらは説明し始めると、とても長くなるので、これ以上深入りしません。
脂肪合成関連遺伝子のアセチルCoA カルボキシラーゼ(ACC),脂肪酸合成酵素(FAS),グルコース6-リン酸脱水素酵素(G6PD),リンゴ酸酵素(ME),肝臓型ピルビン酸キナーゼ(L-PK)の発現量が低下していた。
解糖系の酵素、つまり、糖を分解して脂肪を蓄積する酵素、が働きにくくなります。
こうして、脂肪酸を分解しエネルギーが作られる一方で、脂肪を蓄積する酵素の働きが低下しているので、全体的に脂肪が分解されて蓄積しにくく、体重が減ることになります。
NOTE
お酢を飲むと体重が減るのは、酢酸が肝臓に取り込まれると、その代謝過程でAMP/ATP 比が増加し、AMPK(AMPキナーゼ)が活性化し、ChREBP(炭水化物応答領域結合タンパク質)が不活性化することで、脂肪合成系酵素遺伝子の発現低下が生じて、脂肪合成が抑制され脂肪蓄積が減るようです。
この記事を書いていて面白いなと思ったのは、肝臓で酢酸ができると代謝されずに血液中に放出されるのに、外から酢酸が入って来ると、肝臓でアセチルCoAに代謝されることです。
この違いが、お酢を飲むとやせたり中性脂肪を下がる効果に関係しています。
どのくらい飲むと効果がでるのか
酢酸の生理機能性には、別な論文の実験結果が紹介されていました。ご参考まで。
175 名の25-60 歳の健常な男女(BMI;25-30)を対象に15 mL または30 mL のリンゴ酢を含んだ500 mL の飲料を250 mL ずつ朝食後と夕食後に12 週間飲用する二重盲検試験を行っている。
その結果,試験飲料群における体重,BMI,内臓脂肪面積,腹囲および血清中性脂肪レベルがプラセボ群に比較して有意に低下したと報告されている。
空腹時に飲むのではなく、食後に飲むのが効果的なのかもしれません。
お酢についていくつか記事を書いています。他の記事は、お酢についての記事をご覧下さい。