なぜ脱脂加工大豆を使ってしょう油をつくるか?

脱脂加工大豆を使うことは、もともと戦後の物資不足から始まりましたが、あとで不用になる油が最初から取り除かれているので、原料中の窒素分が多くなり、品質向上に役立つようになりました。また、醸造期間も短くなりました。そして、従来からある丸大豆しょう油と組み合わせることで味の幅が広がりました。

脱脂加工大豆を使ったしょう油は安物かな?

冷蔵庫を開けて、うちで使っているしょう油の原材料改めてを見たら、脱脂加工大豆が一番で、小麦、食塩、大豆、アルコールと書かれていました。本醸造ですがスーパーで買った安いしょう油です。

脱脂加工大豆と大豆を比べたら、もちろん、大豆の方が高いと思います。コストを下げるために脱脂加工大豆を使う意味があると思いますが、大豆は油糧作物でもあるので、油が出ます。

しかし、きっとそれ以外にも脱脂加工大豆を使う理由があると思います。おいしくなければ売れなくなってしまうからです。この記事では、脱脂加工大豆を使う意味を調べてみます。

丸大豆と脱脂加工大豆

昔からしょう油造りでは、大豆そのままの丸大豆が使われてきました。丸大豆を使うと醸造期間は1年以上かかります。

一方、脱脂加工大豆を使うと時間は短縮されます。脱脂加工大豆は1940年頃から使われてきたとあります。これは日本のビール味の変遷でビールの副原料のことを書きましたが、同じですね。戦争が関係あります。もともとは物資不足が原因でした。

脱脂加工大豆は戦後の物資不足で使われるようになったが、いまは醤油醸造用の脱脂加工大豆が使われる

宮醤油店さんのサイトにあったよくある質問で見つけました。

一方の脱脂加工大豆は、そもそもは、戦後の食料難の時代に、丸大豆が入手できず、代用品として脱脂大豆(大豆ミール)を利用したのが始まりですが、加熱処理の方法を工夫するなどした結果、丸大豆で造った醤油と遜色ないばかりか、コクの点ではそれまでの醤油より優れているなど、多くのメリットがあることがわかり、脱脂加工大豆を使用する醸造方法が全国的に普及しました。

この成り立ちのために、一般的には「油の搾りかす」「丸大豆の代用品」とのイメージが強いですが、実は醸造方法を工夫する過程で考え出された醤油醸造用に特別に加工された大豆です。細かく砕かれて大きさを揃えられたたフレーク状で、皮もあらかじめ取り除かれているため、分解にかかる時間が短い上により多くのタンパク質が分解します。

また油分や水分などもきめ細かく調整されています。丸大豆と比べて油分が少ないので油の除去に手間がかからないという特徴もあります。脱脂加工大豆の「加工」は、このような醤油醸造用に「加工」したとの意味です。脱脂加工大豆で作った醤油はコクのある醤油に仕上がるといわれています。

このまま、終わってもよいくらいの実に分かりやすい回答です。ビール製造に現在でも副原料を使う意味とよく似ています。

脱脂加工大豆を使うと、しょうゆ油(あぶら)へ移る香りの成分が少なく、強い香りはそのまま保持されます。うまみ成分となる窒素分も、脱脂加工大豆の方が多く入っていますから、窒素分の高いしょうゆを容易につくることができます。

窒素成分は、JAS規格で定められたしょうゆの等級に関係があります。

窒素成分が多いと、特級の中の「超特選」「特選」の表示が使える

しょうゆは「特級」「上級」「標準」に分けられていますが、そのうち「特級」だけにさらに、「特選」「超特選」という表示を使うことができます。その基準はうま味成分(アミノ酸です)である窒素分に関係しています。

用語等級種類基準
特選特級こいくち、たまり、さいしこみ特級の窒素分の1.1倍以上
うすくち、しろ特級のエキス分の1.1倍以上糖の添加不可
超特選特級こいくち、たまり、さいしこみ特級の窒素分の1.2倍以上
うすくち、しろ特級のエキス分の1.1倍以上糖の添加不可

うま味が評価されるように等級が決まっているのが分かります。窒素分が増えると品質を向上させることができます。

丸大豆を使うとしょうゆ油(しょうゆあぶら)が出る

丸大豆を使う方法は、従来からのものですが、大豆は油糧作物にもなっている通り、含油率が20%くらいあります。

丸大豆で醸造すると、油は脂肪酸とグリセリンに分解されます。グリセリンはアルコールの仲間なので水に溶けますが、脂肪酸は溶けません。それで、しょうゆ油(しょうゆあぶら)として取り除かれます。

昔は、その油は石けんの原料や切削油として使われていたようです。切削油とは、金属などの切削加工を行う際に、摩擦抑制と冷却のために使用する油のことです。

グリセリンは甘みがあり、しょうゆの味をよくする効果がありますが、醸造中に出てくる香りは、油にも溶け込むので、油を取り除くと、香りが少し抜けマイルドな香りになります。

丸大豆醤油は醸造期間が長い

丸大豆を使って醸造すると、皮があり、また粒も大きいので醸造期間は1年以上かかっていました。現在のように半年で醸造できるようになったのは、大豆の皮を取り除いて、大豆が早く分解できるようになったことが大きいようです。

丸大豆と脱脂加工大豆を使い分けることで好みの味を選択することができる

丸大豆を使ったしょうゆは、上品な甘み成分が多く、重厚な風味とまろやかな香りに仕上がります。一方、脱脂加工大豆をつかったしょうゆは、うま味の強い、シャープな風味とキレのある香りに仕上がるそうです。

それぞれの特徴によって選択できるのと、もう一つ、原料を組み合わせることで、味や香りの調整ができるようです。

NOTE

脱脂加工大豆を使うことは、もともと戦後の物資不足から始まりましたが、あとで不用になる油が最初から取り除かれているので、原料中の窒素分が多くなり、品質向上に役立つようになったことがわかりました。

ところで昔からなぜか低い大豆の自給率が気になります。農水省のサイトを見ると、大豆の自給率は 平成25年で、大豆の自給率は6%です。ただし、サラダ油などの原料となる油糧用を除いて食品用に限りますと、自給率は21%だそうです。もっと増えるとよいですね。

大豆の自給率が低いことについて以前から疑問に思っていたので、大豆の自給率はなぜ低いのか?という記事を書きました。

しょう油についていくつか記事を書いています。他の記事は、しょう油についての記事でご覧下さい。

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