明治ヨーグルトのLG21は、ピロリ菌対策として知られたヨーグルトです。ピロリ菌は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因菌として知られています。
昔は、胃が痛いとか胃の調子が悪い話をよく聞きましたが、どちらかというと今は腸の調子が悪い人が多いように感じます。
しかし、実は日本人の半数がピロリ菌に感染しているらしいです。
Helicobactor pylori抑制効果に優れたプロバイオティクスヨーグルトの開発を読ませていただきました。この記事では、ピロリ菌と、LG21の作用について書きます。開発のきっかけなど面白いです。
もう見慣れたパッケージです。
ヘリコバクター・ピロリ菌
ピロリ菌検査をしたことがありますか?私は記憶にないので多分ありません。
ヘリコバクター・ピロリ菌が知られるようになったのは、割と最近のことです。ウイキペディアを見ると、
1994年 – 国際がん研究機関 (IARC) が胃がんの病原体であることを発表。
と書かれていました。そうだそうだ、その頃の話だったと思い出しました。
ピロリ菌感染者は日本人全体の約半数と推定され、毎年その5%の人が胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍を発症し、さらに0~5%の人は胃癌を発症することが多くの疫学調査によって明らかになっているそうです。
昔は、胃・十二指腸潰瘍は入院して安静・食餌療法でようやく治しても、しばらくするとまた再発してしまう厄介な病気でした。私が子供の頃そんな話をよく聞きました。酒の飲み過ぎが原因でなければ、胃が悪いと神経質な人だといわれていた時代がありました。
ところが1982年、オーストラリアの内科医マーシャルらにより、胃粘膜からピロリ菌が発見され、その後の世界各国での臨床的検討により、このピロリ菌が慢性胃炎および胃十二指腸潰瘍の病原菌であることが明らかにされると潰瘍の治療成績は飛躍的に向上したとあります。
2年前だったか、知人が治療を受けたのですが、一定期間、抗生物質を飲んで除菌するのです。ピロリ菌を持っていても、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にならない人もいますが、なりやすいとはいえるそうです。
抗生物質を使うと耐性菌ができる問題があります。院内感染が一時頻繁にニュースになっていました。今はあまり聞きませんが、少なくなったとはあまり思えないですね。使わないで済むならそれにこしたことはありません。
ピロリ菌に勝つ乳酸菌
よく聞くプロバイオティクスとはこのように説明されています。
プロバイオティクスはフローラというエコシステムの中で病原細菌の定住部位、住環境を奪って排除することで抗菌効果を発揮する。
いわば稲穂についた害虫を益虫のトンボに食べてもらって取り除くようなもので、周囲環境に負荷をかけることがない。このプロバイオティクスの作用機序を表現するのにmicrobial interference treatment(生菌拮抗療法)という語句が用いられる。
ピロリ菌に対して、プロバイオティクスを考えるようになったのは、もともと、SPF(specific-patkogen free:有害な病原体をもたない)環境下で飼育したマウスに、大量にピロリ菌を飲ませて胃に感染させようとしたところ、不成功だったことがきっかけだったそうです。
マウスの胃には乳酸菌が棲んでいた
それは、もともとマウスの胃はpH4程度と酸度が弱く、ラクトバチルス属の乳酸菌が10億個(109)以上定住していたことがわかりました。ピロリ菌が負けてしまったようです。
ヒトの胃のpHは、およそ1~2といわれています。ヒトの胃の方がずっと酸度が高いです。
そのため、今度は、無菌マウスを使って大量にピロリ菌を飲ませたところ、感染させることができました。
さらにこのピロリ菌に感染したマウスに、後からラクトバチルス属の乳酸菌を口から与えたところ、ピロリ菌が排除されることが確認されました。
ヒトの胃にも棲める乳酸菌
一方、ヒトの胃は強い胃酸のため、常在菌は非常に少なく胃液1mlあたり0~103個検出される程度です。その多くは連鎖球菌、ラクトバチルス属の乳酸菌です。マウスの胃と比べると、100万分の1程度になります。
しかし、胃酸の酸度が低下するとこの数は増加し、無酸症のヒトでは1mlあたり106~107個に達することがわかりました。無酸症とは、胃液の酸度の極度に低下または消失する症状のことです。
また、胃酸過多のため、プロトンポンプインヒビター(PPI)などの胃酸分泌抑制剤を長期使用している場合も、もちろん胃酸の酸度が下がりますから胃の中で菌数が著しく増加することが分かりました。
すなわち、ヒトの胃は、潜在的には腸内のように常在細菌のフローラ(菌叢)が形成されうるということです。
ところで、腸内の常在細菌数は腸内容物1g当たり1012個という膨大な数のため、外からプロバイオティクスとして生菌を108~109個程度送り込んでも腸内フローラ(菌叢)を変えるのは容易ではありません。
これに対して胃の中の常在細菌数は非常に少ないため、外から摂取したプロバイオティクスの効果が発現しやすいと考えられました。
そこで、ヒトにも応用できる菌株を探した結果、得られたのがLactobacillus gasseri OLL 2716 (LG21)です。
LG21は耐酸性に優れているためヒトの胃でも生き残って活性を発揮するのが特徴の一つです。
試験管や動物実験により、この乳酸菌がピロリ菌の増殖を抑制し、さらにピロリ菌が胃内酸性環境で生き残るのに必要な尿素分解酵素(ウレアーゼ)の活性を低下させると報告されています。
ウレアーゼは、尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解する酵素です。
ピロリ菌はホントに嫌なやつ
アンモニアはアルカリ性です。ピロリ菌は自分のまわりをアルカリ性にすることで、強い胃酸に殺されないようにしているのです。
これだけなら、まだ許せるかも(?)しれませんが、ピロリ菌にはべん毛があり、べん毛をスクリューのように回転させながら、らせん状の本体を回転させて移動することができます。
しかも、毒素や酵素を分泌して、胃の粘膜を傷害します。
さらに、ピロリ菌は胃上皮細胞に付着すると、IV型分泌系という、注射針のようなものを細胞膜に突き刺し、いろいろなものを細胞内へ注入するのです。毒虫みたいなやつですね。
ウイキペディアのヘリコバクター・ピロリにいやらしい画が出ていますので見てきてください。
IV型分泌系から注射されると、注射された物質が、IL-8(インターロイキン)という信号物質が発せられるように刺激します。それを受けた白血球の一種、好中球が異物を貪食(飲み込む事)、殺菌しに集まってくるので、胃粘膜上皮細胞が傷害されてしまいます。
この反応は、免疫反応としては正しい反応だと思います。しかし、論文には詳しい説明がありませんでしたが、話の流れから、ピロリ菌には都合がよく、ヒトには胃粘膜上皮細胞が傷害されてしまうだけの余計な反応なのだと思います。
LG21は、ピロリ菌のIV型分泌刺激によるIL-8産生に対して選択的に抑制することが示唆されました。つまり、IV型分泌系の経路を遮断するのです。
LG21の効果
ピロリ菌によって胃の粘膜が余計に傷つけられるのを抑制し、胃の中で生きてプロバイオティクスとして、ピロリ菌の増殖を抑制します。
論文を読む限り、IV型分泌系の経路を遮断し、ピロリ菌によって胃の粘膜が傷つけられることを抑制される方が重要だと考えられているように思いました。

開発の経緯を読ませていただくと、自分も食べたくなります。
R-1は別の目的のヨーグルトだよ
明治にはもう一つ有名なヨーグルトがあります。2012年だったか、インフルエンザ対策になるとかで話題になったR-1。実は私は食べたことがありません。ブームになった時にいくら待っても入荷しないので、それっきり忘れてしまいました・・・。
発酵食品マニアは、納豆を食べたり豆乳ヨーグルトを食べたり漬物食べたり毎日結構忙しいのです。



1073R-1と名づけられた乳酸菌が使われているようです。これはきちんと調べてみます。とても興味があります。
ヨーグルトについて他にも記事を書いています。ヨーグルトについて書いた記事をご覧下さい。