ヨーグルトの種になる乳酸菌は、何回もつぎ足しで使えるブルガリアヨーグルトのような強いものもありますが、特別な乳酸菌は、つぎ足しで何度も使えないかもしれません。単純に味が変わってきたら、ダメだなと思った方がよいですね。
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ヨーグルトに入っていた乳酸菌はどのくらい維持できるのか
ヨーグルト自作している方。自分で作ったヨーグルトを種にして次の新しいヨーグルトを仕込むと思いますが、それをどのくらいの回数もしくは期間、続けますか?
例によって発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求を読んでいたら、また気になるところが出て来てしまって。
こんなことが書かれているのです。
私の経験では、市販のヨーグルトの培養微生物がスターターとして使い物になるのは、せいぜい数世代までだ。
実験室で分離された株に由来する培養微生物には、実用的な立場から言えば、本質的に安定していないという問題がある。永続的に植え継ぐことができないのだ。
明治R-1の培養に毎回種としてR-1を買って来ています
先日、明治R-1の培養がうまくいってから気に入ってR-1ばかり食べています。しかし、R-1の効果を維持するために、1回培養して食べ終わると、また新しいR-1を買って来て種にして2リットル作っています。
R-1ヨーグルトの効果について知って自分で作ってみたという記事で書きました。

作ったR-1ヨーグルトを種にして新しいヨーグルトを仕込んでも何回かまでは保つと思います。味が変わればああ変わってきたなと分かります。
自分で培養すると、空気中を飛んでいる菌は入り放題だし、冷蔵庫の中にも菌がたくさんいます。まして、食べ始めて容器の中に空間が広がって来ると、ヨーグルトに他の菌が棲みつく条件が整ってきます。
一体、何回くらいなら増やしたかった乳酸菌を維持して発酵させられるのでしょうね?
ちなみに、この本の同じ箇所には、コラムでこんな一文が載せられていました。
私は2001年に日本に行ったときヨーグルト培養微生物を持ち帰り、それ以来それを使ってヨーグルトを作っています。(JFK空港の税関職員がこれを見つけていたら、きっとただでは済まなかったことでしょう!)
私は超シンプルなテクニックを使っています。表面に見かけの悪いものがあればすくい取り、食べたいだけ食べて、そして容器の底に約1/2インチ/1.3cmだけヨーグルトを残しておきます。
それから全乳を注ぎ、ガーゼをかぶせてカウンターの上に約24時間放置します。3回か4回作るごとに、中身を丸ごと清潔な容器へ移し替えます。加熱も、かき混ぜも、何もしません。
超簡単ですが、これで9年も作り続けているのです!多少緩めのヨーグルトができます(時にはとてもうまく固まることもあります-どうしてうまく固まるのか、あまり考えたことはありませんが、冷蔵庫へ入れるタイミングがぴったりなのか、室温に何か関係があるのかもしれません)。
これが有名な、長寿を約束する「ブルガリア・日本ヨーグルト培養微生物」だという噂を聞きつけましたが、由来を確かめたことはありません。
何回か、3・4週間放置して、表面に黄色/茶色/オレンジのだめになった皮膜ができてしまったことがありますが、掘ってみると下に白いヨーグルトが少し残っているので、毎回それを使って少しずつ大きなバッチを作って全体を回復できています。
日本のヨーグルトでブルガリアと書かれているのは、明治ブルガリアヨーグルトですから、それを持ち帰ったのではないかと思います。
ブルガリアヨーグルトは、ブルガリアの伝統的な菌株を使っていることが分かりました。そして、私も何回か培養しましたが、実に強い菌で、牛乳も豆乳もしっかり固まります。
それにしても9年間、牛乳継ぎ足しで、しかも、密閉しないでガーゼをかけて増やす方法でやっていたとは。しかも、放置して表面がだめになっても底の部分に残ったヨーグルトを少しずつ増やして元にもどすとは、すごい執念です。
私も、豆乳ヨーグルトで似たような経験をしました。表面の色が変わってにおいと味が変わっていても、下の方は大丈夫で、新しいヨーグルトの種になりました。多分、潔癖性の人はやらないと思います。
しかし、私は、何となくなのですが、作ったヨーグルトを種にして新しいヨーグルトを仕込むのは、最長で1年くらいしかやったことがありません。私がやったのは、寺田本家の発芽玄米酒「むすひ」を種にした豆乳ヨーグルトです。
つぎ足し培養をしていると、いろいろな菌が入ってくると思うので、また本来の菌に戻そうと思って一度チャラにしているのです。ただ、1年経っても、固まらなくなるようなことはなく、風味もおかしくなることはありませんでした。
しかし、市販のヨーグルトを種にして長く作ったことはありません。
著者のSandor Ellix Katzさんが市販のヨーグルトの培養微生物がスターターとして使い物になるのは、せいぜい数世代までだと書いていました。
また、上で紹介した通り別な方が書いたコラムでは、日本から持ち帰ったブルガリアヨーグルトがラフに扱っても9年維持できているという話がでていましたが、それらが同じページに出ている意味を考えると、アメリカのヨーグルトの菌は、つぎ足し培養すると固まらなくなる、もしくは風味がひどく変わってしまうということなのかなと思いました。
もしくは、私が印象に持った通り、明治ブルガリアヨーグルトの2つの基本的な菌がとても強い菌なのかもしれません。
明治ブルガリアヨーグルト(LB81)の特徴と効果という記事に明治ブルガリアヨーグルトについてまとめておきました。

これは実験してみないとわかりません。材料を少なくしてやってみたいですね。つぎ足し培養するとどれだけだめになるのか確かめてみたいです。
分離された菌の組み合わせは弱い
Sandor Ellix Katzさんはこのように書いています。
ヨーグルト培養微生物は、バッチを2回か3回作るごとにスターターを更新する必要があるほど、脆弱で回復力のないものとは限らない。
ヨーグルトの伝統が今まで続いてきたからには、数世代どころか無限に継続できるはずだ。
私は何人もの微生物学者やその他の「専門家」に、実験室に由来する培養微生物よりも伝統的な培養微生物のほうがはるかに高い安定性を維持しているのはなぜなのか、理由を聞いてみた。
何十年も商業的に数多くの培養微生物を植え継いでいるGEM culturesの共同創業者であるBetty Stechmeyerは、伝統的なヨーグルト培養微生物の微生物的な多様性が安定性と持続性の源だと見ている。
「多様性の少ない(ボウルの中の)生態系は、多数のプレイヤーのいる生態系と比べて、より簡単に『バランスを失い』やすい。」
メーカーが用意しているヨーグルトを発酵させるための菌は、もともと伝統的なヨーグルトから得られたものなのですが、培養できるものだけ集められています。
なぜかというと、培養してそのコロニーから単離して菌属、菌種、菌株を特定しているからです。培養できないものは漏れてしまいます。
ヨーグルトは、基本的にラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の二つの菌の発酵によってつくられます。
彼がいいたいのは、伝統的なヨーグルトにはもっと多様な微生物がいるのではないかということなのです。種類の数が貧弱なので2回か3回作ると、つぎ足しでは作れなくなり、新しい種を入れなければならなくなると考えています。
確かにその通りかもしれません。こんなことも書かれています。
微生物学者のJessica Leeも、バクテリオファージ(バクテリアを攻撃するウイルス)に触れながら、これに同意している。単一株のバクテリアだけでは、「ファージの発生によってバクテリア個体群全体がすぐに死滅し、発酵プロセスは終わってしまう」と彼女は言う。
分離された2種類の株から作られるヨーグルトも、回復力がないのは同様だ。「ローカルなバクテリオファージは結局、そのスターターを構成する数種の株に感染できるように進化して、次第にそれらを死滅させてしまう。」
伝統的なスターターで異なるのは、より多様なバクテリアから構成されているため、「ひとつの株がファージの餌食になっても、それと入れ替わって発酵を維持してくれる別の株が存在する。これは、生物多様性と発酵の伝統的手法の実用的な価値を物語る、エレガントなストーリーだ。」
なんとなく、ヨーグルトの乳酸菌は使っているうちに弱る(?)ものだと思っていると、あまり疑問に思わなくなります。
しかし、著者のいう通りで、ずっと長い間受け継がれて来たものだから、そう簡単にできが悪くなるのはおかしいですね。
実験室では、一度、ヨーグルトの中にどんな菌がいるのか探索しています。そして、それを牛乳に植え付けてヨーグルトができることを確かめています。
しかし、そこから漏れた菌の中には、普段は活動していなくても、主要な乳酸菌が餌食になった時に働き出す菌がいるのかもしれません。
ヨーグルトは乳酸菌を増やすためのもの?
ヨーグルトは、牛乳を沸かして殺菌した後、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の二つの菌を入れれば確実に固まります。
特定の乳酸菌を増やすにはよい環境
さらに、これらに加えて中で増殖できることが確かめられた特別な菌を加えれば、特別なヨーグルトができます。
たとえば、L8020乳酸菌の効果はむし歯や歯周病菌をグッと減らすとかで書きましたが、虫歯のない人の唾液から採取したL8020菌は、ヨーグルトの基本となる2つの菌と合わせて発酵させます。

また、ナチュレ恵の特徴と効果を調べてみたでは、ヨーグルトの基本となる2つの菌と合わせてガセリ菌SP株とビフィズス菌SP株を加えて発酵させていました。

この環境なら、余分な菌がいないので、体に有効な菌を増やすことができます。もし、他の菌がたくさんいる環境なら増殖させられるかどうか分かりません。
乳酸菌は酸素が必要ではない菌なので、ほぼ密閉されます。牛乳の他は、数種類の菌が増殖するだけの環境になります。そして、数時間後にはできあがるので、少なくとも1回目の発酵の時は、かなりコントロールされた環境です。
しかし、2回目以降は、種にするヨーグルトが食べているうちに空気に長く触れることになり、状態が変わって行きます。
Yahoo!知恵袋には、ヨーグルトを増やす回数の限界というタイトルで質問が寄せられていました。

すっきりと分かりやすく回答されていました。一番重要なところだけ引用させてもらいます。
単純に乳酸菌種にこだわらない「ヨーグルト」と言うことでしたら、いくらでも使い回しが可能ですが、市販と同じ乳酸菌種のヨーグルトと言うことでしたら、数回が限界という意味です。
乳酸菌にはいくらでも種類がありまして、身近の空気中など乳酸菌は何処にでも居るので、この生活圏由来の乳酸菌群がどんどん牛乳やヨーグルトに侵入して、本来の目的としている乳酸菌の種類とはちがう乳酸菌が繁殖して、入れ替わってしまうからです。
NOTE
特定の機能性を持たせたヨーグルトは、つぎ足し培養ではその品質を維持することはかなり難しいようです。そう思って風味が変わらないうちに新しく買って来たものを種にした方がよさそうです。
そして、次の興味は、つぎ足し培養でずっとやっていけるヨーグルトはどんなものなのかということですね。
もちろん、もともとのブルガリアヨーグルトもその一つだと思います。ドリャン(和名:セイヨウサンシュユ)などの植物の葉にたまった朝露が使われることが多いそうです。実験室から持ってきた単離して純粋培養した乳酸菌とは違います。
まずは、つぎ足ししてヨーグルトを作って、どのくらい味が変わっていくのか経験したいです。
ヨーグルトについて他にも記事を書いています。ヨーグルトについて書いた記事をご覧下さい。