森永ビヒダスヨーグルトに使われているBB536(Bifidobacterium longum BB536)は、1969 年に健康な乳児から分離したビフィズス菌で、1970 年代よりヨーグルト、乳酸菌飲料、サプリメントなどで利用されています。ビフィズス菌は偏性嫌気性なのですが、Lactococcus lactisの一部の菌株と混合発酵させることで、BB536が牛乳の中でうまく増殖できるようになりました。
ビヒダスプレーンヨーグルトは、生きて腸まで届くビフィズス菌BB536を配合した、特定保健用食品のプレーンヨーグルトです。おなかの調子を整えます。
ビヒダスヨーグルトの栄養成分
100gあたりの栄養成分は以下のようになります。ヨーグルトは固まっていますが、栄養成分は牛乳とほとんど変わりません。
エネルギー | 65kcal |
たんぱく質 | 3.7g |
脂質 | 3.1g |
炭水化物 | 5.5g |
ナトリウム | 55mg |
カルシウム | 120mg |
ビフィダスはビフィズス菌のヨーグルト
ビヒダスプレーンヨーグルトはビフィズス菌のヨーグルトです。ビフィズス菌は、乳酸と酢酸をつくります。乳酸菌の定義は、乳酸だけか、乳酸とアルコールをつくることだったので、ビフィズス菌は、乳酸菌には分類されていません。
ビヒダスプレーンヨーグルトに使われている
Bifidobacterium longum BB536
読み方はビフィドバクテリウム・ロンガム BB536株です。このヨーグルトはビフィズス菌で発酵させたものです。 BB536 は 1969 年に健康な乳児から分離したビフィズス菌で、1970 年代よりヨーグルト、乳酸菌飲料、サプリメントなどで利用されています。
ビフィズス菌はヒト由来
もうすっかり慣れてしまいましたが、健康な乳児から分離したビフィズス菌というのは、乳児のうんちから分離したということです。
昔はヨーグルトの種菌が便からなんて考えたこともありませんでしたが、ビオフェルミン、ヤクルトを始め、虫歯にならないヨーグルトは虫歯のない人の唾液からでしたが、ヒトの排泄物から種菌をとった製品は多いです。
ヨーグルトの国際規格に照らし合わせると、ヨーグルトとしては通らない内容かも知れませんが、日本のはっ酵乳の規格がゆるいのと、たくさんの発酵食品を食べながら暮らしていることと、研究熱心さのたまものなのでしょうね。
そして、乳酸菌でよく出る話題についてです。ビフィズス菌が生きて腸まで届くかということについては、生きたまま口から体の中に入れば胃で殺されることはないです。
新生児の腸内は最初無菌です。しかし、1週間後には腸内のほとんどがビフィズス菌に占められていることが知られています。(出典)つまり、外から入ってくるのです。
しかし、ビフィズス菌の性質は、偏性嫌気性といって酸素があると生きて行けないのです。この問題をどうやって解決したのか、それはあとで書きましょう。
その前に、書いておきたいことがあります。
ビフィズス菌のつくる酢酸の効果がすごい
ビフィズス菌は乳酸と酢酸をつくります。乳酸や酢酸は、悪玉菌の増殖を防ぐ働きがあるのですが、驚くべき効果があるのは、酢酸です。
酢酸ってご存知ですね?
台所にあるお酢ですよ。お酢のすっぱい成分は酢酸です。
大腸菌の増殖について、酢酸は完璧に抑制します。濃度によりますが、強酸の塩酸でも大腸菌の増殖を抑制できないのです。(出典)
お酢を飲む健康法がありますから、お酢を飲めばお腹にもよいのかというと、大腸に到達するまえに吸収されてしまいます。
酢酸をつくるビフィズス菌が大腸にたくさんあると、お腹の健康が保たれます。
酢酸は、炭素数2個の脂肪酸なのですが、体の中では、補酵素Aに連れられてアセチルCoAとして細胞のエネルギー源となります。
ブドウ糖も脂肪も分解されてミトコンドリアに入る時は、アセチルCoAになります。また、糖が脂肪になったり、コレステロールがつくられるときも最小単位がアセチルCoAであり、その本質は、炭素数2個の酢酸なのです。
補酵素A(CoA)は酢酸を運ぶ単なる運び屋で、自分自身は変化しないのです。
ご興味がありましたら、脂肪もブドウ糖も燃焼させるときは途中から同じ物質になるをお読みください。

腸の中に酢酸があると、大腸菌の増殖を抑制し、その他の悪玉菌をコントロールしながら、腸の表面細胞の直接のエネルギー源にもなります。
また、食物繊維も腸内細菌によって酢酸など短鎖脂肪酸に変えられることが知られています。食物繊維も腸をまもるには必要ですね。
ところで、そのビフィズス菌をヨーグルトの種にするには、酸素があると死んでしまうし、外で生かしておくのは難しいのです。どうしてヨーグルトの種にできたのでしょう?
ビフィズス菌でどうやってヨーグルトをつくるか
自分でヨーグルトを作るとよくわかりますが、酸素をシャットアウトすることはできません。もしやるとしたら、大がかりな設備がない無理です。そして、はたしてそんな設備投資をしてまで作る意味があるのか分かりません。
ビフィズス菌の細菌学的特性とその利用によると、ビフィズス菌の利用はかなり前からありました。
1948年、ドイツのMayerは、世界で初めてビフィズス菌を乳児用の食品としてビフィズスミルクの製造に用いた。
その後、Schuler-Malyoth(1968)がヨーグルト、バター、チーズなどの乳製品にビフィズス菌を応用した論文を発表したことを契機に西ドイツをはじめヨーロッパ諸国でビフィズス菌を利用した乳製品が生産されるようになった。
ビフィズス菌は、1899年、フランス・パスツール研究所のティシエによって乳児の糞便中から発見されていたので、利用されるようになるまで案外時間がかかっているんだなと思います。
ヨーグルトに使われたのは、森永ビフィダスヨーグルトと同じくらいの時期ですね。
BB536を他の菌と共培養する
Lactococcus lactis 菌株との共培養による高生残性ビフィズス菌入りヨーグルト製造技術の開発を読むとその方法が書かれていました。
このような技術開発の話は本当に面白いです。
腸内に棲んでいて偏性嫌気性のビフィズス菌を牛乳の中で増やすには、条件を整える必要がありました。
- 牛乳にはビフィズス菌の生育に必要なアミノ酸やビタミンなどの栄養素が不足している
こと - 製造工程において酸素が混入してしまうこと
- 発酵乳製造に一般的に用いられるいわゆるヨーグルトスターター乳酸菌であるStreptococcus(S.)thermophilusや Lactobacillus(L.)delbrueckii subsp. bulgaricus が産生する乳酸や過酸化水素により、ビフィズス菌の増殖及び生残が妨げられること
そのため、酵母エキス等を添加したり、酸や酸素に強いビフィズス菌株を選んだり、酸素透過性の低い容器を使ったり、ビフィズス菌の増殖や生残に影響の少ない乳酸菌株を使用したり、さまざまな工夫が行われていたようです。
ヨーグルトの伝統的な2つの菌も使う
ここで、一つ分かるのは、ビフィダスヨーグルトもブルガリアヨーグルトの伝統的な菌であり、ヨーグルトの国際規格に合致するStreptococcus thermophilusや Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusを使っていることです。
それらに加えて、BB536を使うと考えています。
この論文に書かれている方法は、BB536をLactococcus lactisの一部の菌株と混合発酵させることでした。そのおかげで、BB536が牛乳の中でうまく増殖できるようになりました。
その理由は、Lactococcus lactisとの共培養では、発酵の早い段階で溶存酸素が著しく減少するので、BB536にとって生きる環境を整えてくれます。
また、Lactococcus lactisが、BB536にとって必要なアミノ酸を供給してくれるのです。
そして、ビフィズス菌をLactococcus lactisと一緒に発酵させるとビフィズス菌を増やせることは、ビフィズス菌に対して一般性があったようです。
保存しても大丈夫
ヨーグルトに含まれるビフィズス菌は、冷蔵保存中に酸や過酸化物、溶存酸素など様々なストレスにさらされます。酸素バリアなど容器に工夫が加えられているものもありますが、完全に酸素をシャットアウトすることは難しいです。
酸素が少しある状態で、どのくらい持つのか試験も行われました。微好気性、10℃で保存した場合、BB536をLactococcus lactisと一緒に発酵させたものは、十分な保存性がありました。
NOTE
酸素があると生きて行けない偏性嫌気性のビフィズス菌が、他の菌、Lactococcus lactisと一緒に培養すると生きて行けるというのが面白いです。
ヨーグルトの基本になる2つの菌、Streptococcus thermophilusと Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusも一緒に培養することで、早くヨーグルトができるのでした。
乳酸菌と酵母も仲がよかったです。菌は他の菌と組み合わせることで生存環境が広がるというのが面白いですね。
ヨーグルトについて他にも記事を書いています。ヨーグルトについて書いた記事をご覧下さい。