ヨーグルトの成分や乳酸菌の種類と効果について調べてみた

私は自分でヨーグルトをつくっています。ヨーグルトメーカーに仕込んで8時間後に取り出すと、いつも何か嬉しくて顔がゆるみます。

そして、ヨーグルトを毎日食べているとお腹の調子がとてもよいのは確かです。自分でつくると好きなように食べられるのがよいところです。

スーパーに行くとたくさんの種類のヨーグルトが並んでいます。何となくの気分で買う前に、どんな乳酸菌を使ってどんな効果が期待できるのか調べてみましょう。

ヨーグルト

ヨーグルトを世界に広げたメチニコフ

ロシアのノーベル賞生物学者であるメチニコフが、1907年に「ESSAIS OPTIMISTES(楽観論者のエッセイ)」の中で、ヨーグルト摂取による健康寿命の延長を説きました。出典

ヨーグルトを食べる習慣があるブルガリアのスモーリアン地方や南ロシアのコーカサス地方に長寿の人が多かったのです。

彼は「老化は腸内に有害な菌が発生するのが原因。ヨーグルトはその有害菌を抑制するので、長寿に有効」という仮説を提唱しました。

それがきっかけとなり、ヨーグルトは世界中に広まりました。

日本では、1912年(明治45年/大正元年)に大隈重信が「不老長寿論」として翻訳出版したことで有名になりました。

今、スーパーの売場に行くと、いろんなヨーグルトが並んでいます。いろいろな種類の乳酸菌が使われていて、どれを食べたらよいのか迷ってしまいます。

ヨーグルトの国際食品規格

コーデックス委員会がヨーグルトの規格を決めています。コーデックス委員会の正式名称は、FAO/WHO合同食品規格委員会といいます。

国際規格では、ヨーグルトは、ヨーグルト、加糖ヨーグルト、フレーバーヨーグルト、発酵後殺菌製品の4種類に分類されます。

日本の規格との違いは、ヨーグルトにはきちんとした乳酸菌の指定がありました。

ヨーグルトと呼ばれる製品は、いずれの場合も、ラクトバチルス・ブルガリカスLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とストレプトコッカス・サーモフィルスStreptococcus thermophilus)の二つの菌の発酵によって乳または粉乳などからつくられる乳製品であり、最終製品中の菌は生きているものとされていたのです。

ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)についてもう少し。

これをきちんと読むと、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスです。subsp.は省略形でsubspeciesです。亜種です。

Lactobacillus delbrueckiiは、基準種と呼ばれます。つまり、ラクトバチルス・デルブルッキーの亜種のラクトバチルス・ブルガリカスということになります。

あまり深く知らなくてもよいと思いますが、少し知っておくと、あとで役に立ちます。自分のためにも記録しておきます。細菌の分類と命名の相互関係にとても丁寧に説明されています。

発酵のスターター菌としては、これら二つの菌を必ず含んでいなければならないが、その他にはどのようなどのような菌種が含まれていてもかまわないとされていました。

ちなみに現在では、あらゆる乳酸桿菌属(ラクトバチルス属Lactobacillus)とストレプトコッカス・サーモフィルスによって発酵したものもヨーグルトの一種とするようになったそうです。ヨーグルトの成分 | 明治ヨーグルトライブラリー

ラクトバチルス・ブルガリカスとストレプトコッカス・サーモフィルスを使うのは、ヨーグルトに長い伝統があり、使い続けられてきた歴史があるからです。

そして、もう一つは菌の生態が分かって得られたことです。

2つの乳酸菌の共生関係

ラクトバチルス・ブルガリカスは自然界では乳の中でしか生育できない乳酸菌です。しかも、その正常な生育には、微量のギ酸を必要とします。

ギ酸は蟻酸とも書き、HCOOHという分子量の小さいカルボン酸です。大量の死んだアリを蒸留してギ酸が初めて単離されたので、蟻(虫のアリです)酸 と名前がつけられました。

ストレプトコッカス・サーモフィルスはそのギ酸を供給します。その一方で、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、生育初期に微量なアミノ酸を必要としますが、これをラクトバチルス・ブルガリカスに依存しています。

2つの菌を同時に牛乳に摂取すると、始めにタンパク質分解力の高いラクトバチルス・ブルガリカスがタンパク質を分解して微量のアミノ酸を生成し、これがストレプトコッカス・サーモフィルスの生育を促します。

また、ストレプトコッカス・サーモフィルスが生成するギ酸がラクトバチルス・ブルガリカスの生育を刺激します。

このような関係を共生関係といいます。

実際、牛乳の中で、ラクトバチルス・ブルガリカス、ストレプトコッカス・サーモフィルスをそれぞれ単独で接種した場合と、2つの菌を同時に接種した場合を比較すると、乳酸の生成量は圧倒的に2つの菌を同時に接種した方が多いです。(出典|乳酸発酵の文化譜

乳酸の生成量が多いというのは、乳酸菌は糖を代謝して乳酸を生成しながら生育しているので、活発に早く生育しているという意味です。

早く生育してくれれば、ヨーグルトの品質もよくなるし、ヨーグルトが早くできれば販売者は助かりますね。

菌の世界はこのような共生関係があり、ヨーグルトでも早くより効果的なものをつくるためにいろいろな乳酸菌を組み合わせてテストされていると思います。

日本の発酵乳の規格

ところで、日本の乳製品の規格は、厚労省の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」によって定められています。ヨーグルトは発酵乳類とされ、「発酵乳」と「発酵飲料」に分けられています。

日本では、ヨーグルトという商品はあっても規格でヨーグルトという分類はありません。

発酵乳乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、
糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの。無脂乳固形分を8%以上含み、微生物としては大腸菌を含まず、生きた乳酸菌
または酵母を1ml中1000万個以上含むもの。
乳酸菌飲料乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料。

無脂乳固形分含量は3%以上で、大腸菌は陰性、生きた乳酸菌または酵母の数が
1ml中1000万個以上。ただし、発酵後に加熱殺菌したものでは生きた菌を含ま
なくてもよい。

※この他に原料が無脂乳固形分含量が3%以下で、生菌数が100万個以上の乳酸菌飲料もあります。

日本では、発酵乳には乳酸菌または酵母という指定はあるものの、菌の種類について特別な指定はありません。

自由度が高いので、いろいろなヨーグルトがお店に並ぶのではないかと思います。

菌の個数について、1ml中1000万個以上というのは乳酸菌サプリメントで宣伝している乳酸菌の個数に比べてそれほど多くない、むしろ少ないと思います。

しかし、最低1000万個あると、食品メーカーが製造するような(よい)品質のヨーグルトができると思っておけば、それほど乳酸菌サプリメントの宣伝文句に揺さぶられないと思います。(笑)

ちなみに、発酵乳や乳酸菌飲料になぜ酵母の数が書かれているのか疑問でしたが、カルピスのサイトにあった酵母の作る香りが発酵乳の「嗜好性」を高めることを確認を読むとなるほどと分かります。(リンクがなくなりました)

香りに関係があるようです。子供の頃から親しんできたカルピスの香りは、確かに乳酸菌だけのにおいとは違います。

ヨーグルトの成分分析

ヨーグルト100gあたりの成分は以下の通りです。タンパク質が豊富なのかと思いましたが、わずか3.6gです。

比較のために普通牛乳の成分分析を載せました。ヨーグルト/全脂無糖と普通牛乳を比較しても内容成分はほとんど変わりがありません。

カロリーを比べてもヨーグルトにすると多少減ったかという程度の違いです。

ヨーグルト100gあたりのカロリーは、62kcalです。炊いたご飯は100g160kcalほどなので、半分以下のカロリーです。カップ1杯でだいたい200gとしても124kcalです。

しかし、牛乳と違って酸味があり、口に入れたときのボリュームを感じるのでヨーグルトを食べていると、食事の量を減らすことができそうです。

ヨーグルト100g中の成分出典
エネルギー水分タンパク質脂質炭水化物灰分カルシウム
ヨーグルト
全脂無糖
62kcal87.7g3.6g3.0g4.9g0.8g120mg
ヨーグルト
脱脂加糖
67kcal82.6g4.3g0.2g11.9g1.0g120mg
ヨーグルト
ドリンクタイプ
65kcal83.8g2.9g0.5g12.2g0.6g110mg
普通牛乳67kcal87.4g3.3g3.8g4.8g0.7g110mg

この表を見ると、ほとんど成分が変わりません。牛乳とヨーグルトは見た目が違います。なぜそんな違いができるのでしょう。

ヨーグルトはなぜ固まるのか

ヨーグルトを作るには、牛乳に種となる乳酸菌かすでにできあがったヨーグルトを入れてかき混ぜ、40℃くらいの温度で保温すると8時間くらいでできあがります。

ヨーグルトを作るための設定温度については、以前、記事を書いたことがあります。
https://hakkou.kuni-naka.com/459

ところで、成分分析を比較してみると、牛乳とヨーグルトではほとんど差がありません。アミノ酸についても比較しましたが、同じようにほとんど差がありません。

しかし、牛乳とヨーグルトでは、味と見た目が全く違います。牛乳がヨーグルトになると、酸味がつき豆腐のようにゆるい固体になります。

なぜ固まるのでしょうか?牛乳100g中のタンパク質は、約3グラムですが、そのうち約80%をガゼインが占めます。

ガゼインは、乳酸菌が増殖して乳酸が増えpHが下がると(酸性になると)、カルシウムと結合して凝固します。

この凝固する仕組みはチーズでも同じです。牛乳を固めるだけなら、酢酸(お酢)でも固まるそうです。

ヨーグルトが固まるのは、乳酸菌の出す乳酸のためで、乳酸菌が固めるわけではありません。

日本のヨーグルトに使われている乳酸菌

今はヨーグルトに入っている乳酸菌を、例えばLG21など記号で強調する時代になったので、乳酸菌にたくさんの種類があることがよく知られています。

以前、乳酸菌はどのような菌なのか?という記事を書きました。乳酸菌の性質や種類についてまとめてあります。
https://hakkou.kuni-naka.com/93

まず乳酸菌について知ろう

その記事から表だけもってきました。主要な乳酸菌は8属あります。乳酸菌全体では、26属あります。出典|プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能

ラクトバチルス属
Lactobacillus
桿菌乳製品製造に古くから使われている
ストレプトコッカス属
Streptococcus
球菌ホモ発酵。サーモフィルス菌が有名
ラクトコッカス属
Lactococcus
球菌発酵乳やチーズ
ロイコノストック属
Leuconostoc
球菌ヘテロ型乳酸菌。発酵バター、チーズ
エンテロコッカス属
Enterococcus
球菌フェーカリス菌は人や動物の糞の中に生息。耐熱性
ペディオコッカス属
Pediococcus
球菌ピクルス、ザワークラウトなど発酵野菜
ビフィドバクテリウム属
Bifidobacterium
桿菌ビフィズス菌。形は多様で偏性嫌気性。乳酸に転換率低い

桿菌は細長い形。球菌はそのとおり球(丸い)形をしています。

表の中で、例えばラクトバチルス属と書いてありますが、これは菌属のことです。分類では、菌属の下に菌種があり、さらにその下に菌株(きんかぶ)があります。

乳酸菌は菌属-菌種-菌株と読んでいく

読み方は、菌属-菌種-菌株の順番に読みます。

たとえば、例として出したLG21の場合は、Lactbacillus(属) Gasseri(種) OLL2716株が正式な読み方です。

Lactbacillus Gasseriまでネット検索するとすぐにこんな表示が出ます。

ラクトバチルス・ガセリは乳酸菌の一種。グラム陽性桿菌のラクトバチルス属ガセリ菌。

酸素の有無にかかわらず育つ通性嫌気性菌。ヒトの腸に多く存在し、ビフィズス菌と並んで、悪玉菌を抑え腸内環境を整えるいわゆる善玉菌の代表である。

ガセリ菌を含有した乳製品がプロバイオティクス食品として製造販売されている。

このように分類されているので、Lactbacillus Gasseriと属・種まで判明するだけで性質がかなりわかります。ちなみに、ヤクルトで有名なシロタ株は、Lactbacillus Gasseri YIT9029と書くのが正式なようです。

シロタ株もLactbacillus Gasseriなので、ヒト由来の乳酸菌なんだろうなと見当がつきます。

菌株とは、採取した菌を何度も培養して、ある特定の系統だけになった、いわば、「家系」のようなものです。

菌株には例えばOLL2716のように名前がつきます。これは菌株表示と呼ばれます。菌株表示はその菌株を他の培養物と区別するために付けられます。

菌株表示の決め方は、割にアバウトというか自由度が高いようで、菌株が由来した患者さんの名から、研究室内での番号や記号、菌株保存施設の受け入れ番号が元になったりするようです。

もともと、最初に菌を採取し、何度も培養して1系統になったらそれに菌株表示をつけ、さらに性質を調べて菌名を同定するというのが作業の順番です。

菌株表示は、決して菌名ではありません。菌名はLactbacillus Gasseriであり、菌株表示はOLL2716になります。出典|細菌の分類と命名の相互関係

もちろん、菌名がLactbacillus Gasseriだからといって、菌株が違っても性質が同じにはなりません。性質が違うからこそ、各メーカーが菌株に覚えやすい名称をつけて自社の乳酸菌をアピールしているのです。

ちなみに、LG21については以前こちらで詳しい記事を書きました。
https://hakkou.kuni-naka.com/473

よく知られるヨーグルトについて調べてみましょう。

明治ブルガリアヨーグルト(LB81)

LB81菌
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株
Streptococcus thermophilus 1131株

ヨーグルトの定番といえば、これですね。確か1980年頃にはすでにありました。きっと私が一番食べたヨーグルトです。

豆乳ヨーグルトを作るときにも種としてしばらく使っていました。豆乳もしっかり固まります。

詳しくは、明治ブルガリアヨーグルト(LB81)の特徴と効果をご覧下さい。

明治ブルガリアヨーグルト(LB81)の特徴と効果
明治ブルガリアヨーグルトは、LB81菌を使用と書かれています。LB81菌とはLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038株とStreptococcus thermophilus 1131株...

明治ヨーグルトR-1(OLL1073R-1)

OLL1073R-1
Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusOLL1073R-1

免疫力を上げてインフルエンザにならないと話題になったR-1。一時はまったく買えない状態が続きました。R-1について、R-1ヨーグルトの効果について知って自分で作ってみたに詳しく書きました。

R-1ヨーグルトの効果について知って自分で作ってみた
明治のR-1ヨーグルト、正式には、明治プロビオヨーグルトR-1というのだそうです。一時全く買えなくなっていました。インフルエンザにならないというのが合言葉になっていたような気がします。 R-1ヨーグルトに使われている乳酸菌はどんなものなので...

NOTE

日本の発酵乳の規格は国際食品規格よりも自由度が高いことと、もともと漬物や調味料に発酵菌を使う技術があるので、これからもヨーグルトの種類は増えるだろうなと思いました。

日本人にとっての漬け物が、東欧ではヨーグルトなのかもしれません。

ヨーグルトについて他にも記事を書いています。ヨーグルトについて書いた記事をご覧下さい。

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