酵素と発酵食品の違いについて知りたいとはよく聞かれる話です。この場合の酵素は、酵素サプリや酵素ドリンクなど、商品名に出てくる酵素のことを指しているのか、それとも化学的な酵素のことを指しているのかで、答え方は変わってきます。
あなたが聞きたいと思っている酵素はどちらですか?
この記事では、2つとも説明してしまいしょう。しかし、その前に、発酵食品についてまず知っておきましょう。
まず発酵食品について理解する
思いつく発酵食品をあげてみて下さい。
しょう油、味噌、納豆、ヨーグルト、日本酒、ワイン、ビール、甘酒、お酢、ぬか漬け・・・などなどたくさんあります。10年くらい前から発酵食品が体によいといわれるようになり、テレビで特集が組まれたり、本もたくさん出版されています。
微生物の力を借りてつくる
発酵食品を理解するには、ヨーグルトが作りやすいので一番簡単だと思います。家庭でヨーグルトを作る時は、牛乳に冷蔵庫にあるヨーグルトを少し入れてよくかき混ぜ、それを40℃くらいに保温して8時間くらい置いておくとできます。
ヨーグルトの中には、乳酸菌がたくさん入っています。その乳酸菌が牛乳の中でたくさん増えて、酸っぱい乳酸を作ります。
その乳酸で牛乳の中のタンパク質のガゼインが固まってヨーグルトになります。
もう一つ、納豆を考えてみましょう。
納豆を作るには、大豆を蒸して、それに納豆を少し入れてよく混ぜ、45℃くらいで保温して24時間くらい置いておくと、糸を引く納豆ができます。
納豆には、納豆菌がたくさん入っています。その納豆菌が、大豆の中でたくさん増えて大豆が全部納豆に変わります。
乳酸菌によって牛乳がヨーグルトに変わったり、納豆菌によって蒸した大豆が納豆に変わることを発酵するといいます。
そして、微生物の力で発酵させてできたものを発酵食品と呼んでいます。
微生物は酵素を出して分解する
もう少し、微細な眼で発酵を観察してみましょう。
発酵食品が微生物の力を借りてできあがるのは、もっと正確にいうと、発酵食品は微生物の出す酵素によって分解されてできるのです。この酵素は化学的な酵素のことで、酵素ドリンクや酵素サプリとは違います。
乳酸菌の性質は、ブドウ糖を分解して乳酸を作ることが特徴です。乳酸菌が牛乳の中で増える時は、乳糖を使います。
乳糖は乳酸菌の中で酵素によってブドウ糖に変換されて、乳酸になります。なぜ、乳酸菌が乳糖を乳酸にするかというと、「生きていくため」です。実は、ブドウ糖が乳酸になる時に、エネルギーが生まれます。
われわれも食事をしてそれをエネルギーにして生きているではありませんか。それと同じです。
納豆菌は、大豆のタンパク質を分解し、アミノ酸にします。納豆菌がやっていることも同じです。「生きていくため」にタンパク質を酵素によって分解して、そこからエネルギーを得ているのです。
納豆菌がタンパク質を分解する話では、富山県立富山東高等学校のとても分かりやすい納豆菌の代謝とタンパク質の変化というレポートがあります。
そして、発酵は、材料を分解して小さくすることです。
酵素については、後ろで説明します。
発酵は酵素によって材料を分解すること
ここで発酵と酵素の関係についてまとめておきましょう。
発酵食品のよいところは?
発酵食品は体によいといわれます。どのようによいのでしょう?
まず、今まで取り上げて来たヨーグルトと納豆で考えてみましょう。ヨーグルトも納豆も、牛乳や煮豆に比べたらものすごく日持ちします。もちろん、だんだん味は変わっていきますが、口に入れて「うわっ、腐ってる」と感じるまで相当な日数がかかります。保存性がよくなります。
そして、ヨーグルトも納豆も消化によいです。どちらもお腹の調子が悪い時に食べられる、いやいや、お腹の調子が悪い時こそ、お腹の調子をよくするために食べるものです。ちなみに、大豆は消化がよくないものとして知られていますが、納豆の場合、食べた消化率はほぼ100%だそうですよ。(出典|納豆の快楽)
ヨーグルトの場合、乳酸菌は、乳糖を分解してエネルギーとして利用するので、乳糖が減ります。牛乳を飲んで下痢する乳糖不耐の人でもヨーグルトが食べられるのは、それが理由です。
そして、ヨーグルトも納豆も、多少好き好きがあるかもしれませんが、特有のにおいや味、風味がつきます。
それ以外に、発酵食品のよいところは、炭水化物を飲めば楽しくなるアルコールにしてくれたり、ビタミンが増えて栄養価が高くなったりします。
では、次に、多分この記事を読まれる方が、一番知りたい酵素サプリや酵素ドリンクの「酵素」と発酵食品の違いについて説明しましょう。
酵素サプリ酵素ドリンクの酵素と発酵食品
酵素サプリや酵素ドリンクがありますが、酵素ドリンクの方が歴史が長く、酵素サプリは新しいものです。
どちらもたくさんの果物や野菜、穀類、海草などなどたくさんの原材料を砂糖(もしくは黒糖)と乳酸菌、酵母、麹など微生物と一緒に発酵させたものが基本です。これはパッケージの原材料名で植物発酵エキスと書かれています。
酵素サプリでは、乾燥させたパウダーを混ぜ合わせることが多いので、植物発酵エキス以外に消化酵素を添加する場合もありますが、各社とも植物発酵エキスのことを酵素と呼んでいるのは変わりません。
あなたが飲んでいる酵素は発酵食品です
植物発酵エキスは酵素と呼ばれていますが、発酵食品です。
ヨーグルトは牛乳を乳酸菌で発酵させたもの、納豆は大豆を納豆菌で発酵させたものでした。植物発酵エキスは、たくさんの原料を使いますが、微生物の力を借りて発酵させたものです。作り方に違いはありません。
もちろん、植物発酵エキスをつくるためには、微生物の出す酵素の力を借りていますが、酵素そのものではありません。発酵食品の一つなのです。
では、なぜ発酵食品を酵素と呼ぶのでしょう?
なぜ植物発酵エキスが酵素と呼ばれるのか
先に、答えを書いてしまいましょう。それは商品名が酵素だったからです。
たくさんの原料を砂糖(黒糖)と一緒に発酵させたものが登場したのは、昭和20年、1945年頃のこと。多少年数のずれはあるかもしれませんが、その頃のことです。今から70年以上前になるのでずいぶん昔です。
最初に普及した人が、この発酵物を「酵素」と呼んでいたのです。それがそのまま現在に至るまで使われている名称なのです。
詳しくは、酵素の歴史を調べた記事を書きました。酵素とは何か?酵素農法の歴史から考えてみるという記事です。かなり長いですが、読んでみてください。もともとは、酵素は農業に関係があるものでした。

植物発酵エキスは、酵素ではありません。これから説明しますが、何かを変化させるような力はありません。もし、ダイエットに酵素が役に立つという説明を受けたら、それは間違いです。
化学的な酵素と発酵食品の関係とは
私も含めてみなさん、小学校、中学校、高校で酵素について少しずつ習っています。それで、酵素と聞くと、何か特別な働きをするものだということが何となく思い出されるのです。
酵素はきちんと定義されている
高校生が酵素について生物で習うことは、酵素を高校化学の参考書から学ぶという記事に書きました。是非、読んでみてください。

化学で習うのですから、酵素はきちんと定義されたことばです。
酵素は、タンパク質を主体とした物質(ほとんどの複合タンパク質)で、生体内で起こる化学反応の触媒としてはたらく。
酵素はタンパク質であるから、アミノ酸配列や立体構造がそのはたらきを決める。また、タンパク質が変性を起こす条件では、酵素はそのはたらきを失う。
自分自身は、変化を受けずに化学反応を起こりやすくする。酵素はタンパク質の立体構造によってはたらきが決まります。形がとても大切で、形が崩れると働かなくなります。
そして、デンプンをブドウ糖に分解する酵素、タンパク質をアミノ酸に分解する酵素、脂肪を脂肪酸とモノグリセリドに分解する酵素は、それぞれ決まっていて、他のものを分解することはできません。
たとえば、大豆のタンパク質を分解する酵素は、プロテアーゼと名前がついています。
発酵食品との関係について
前に説明したように、発酵食品は、微生物の出す酵素によって発酵して(分解して)できあがったものです。
しかし、最近、紅茶は発酵させてつくるという記事を書いた時に、紅茶は発酵するための菌は必要なく、お茶の葉が自分の持つ酵素で分解してできあがることを知りました。

すると、発酵食品は、酵素によって発酵して(分解して)できあがるものだと理解しておいた方がよいかもしれません。たいていの発酵には微生物が関与しますけれども。
まとめ
酵素サプリ酵素ドリンクの「酵素」は、植物発酵エキスを指していて、それは酵素ではなく発酵食品です。
なぜ、植物発酵エキスが酵素と呼ばれるようになったか。それは初めて植物発酵エキスを大がかりに普及した人が、商品名に「酵素」と名づけたからです。
発酵食品は、原材料が酵素によって分解されてできます。発酵食品をつくるために、化学的な酵素は必要なものです。
こちらに酵素の話はまとめてあります。酵素について知りたいならまず最初にこのページから読んでほしい