「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかないを読んだ

「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかないを読みました。著者の高畑宗明さんはまだ30代の方ですが、株式会社オーエムエックスの社長さんです。

正直なところ、タイトルはあまり魅力的ではなかったのですが、読んでみるとページ数で制限があるものの、実に内容が広く、濃く、深く、この本を読んだことで知りたいことが増えました。さすが岡山大学で農学博士を取得された方です。

野菜と果物

私は自社製品をアピールするために出版された本を「ヨイショ本」と呼んでいるのですが、この本はそんな類いの本ではありません。

酵素サプリや酵素ドリンクを飲んでいる方、発酵食品が好きな方は読んでみるとよいです。おすすめします。

この本を読んで私が初めて知ったたことをメモ代わりに書いておきます。

腸内細菌は隠れた臓器

少しだけ知っていることを順番に説明してもらうと、そんなことだったのか!と意外なことが分かることがあります。

私たちが排泄する便は、食事の残りかすという印象がありますが、実際はそれだけではありません。割合としては、水分が60%で食事の残りかすはたった5%程度。残りの約35%は腸の古くなった細胞と、腸内細菌およびその死骸なのです。

ああ、なんかどこかで聞いたことがあるなあと思いながら読んでいました。腸内細菌の量って意外と多いのかもなあと思いました。

実は、腸内細菌についてくわしいことがわかってきたのは、ここ数年の話です。それまでは腸内細菌が腸に住んでいることはわかっていましたが、その働きや細かな種類まではわからなかったのです。

その理由は、ほとんどの腸内細菌が酸素のない環境でしか生きられないからです。特に小腸とは違って大腸にはほぼ酸素が存在しないので、大腸に住む微生物は、外に出して増やそうにも酸素に触れた瞬間に死んでしまって、正体が分からないままだったのです。

以前、土壌微生物のことを知るのは面白いという記事を書きました。土壌菌の99%以上は何がいるのか分からない。その理由は培養できないからという話でした。

土壌微生物のことを知るのは面白い
立花隆さんのマザーネイチャーズ・トークという本があります。1990年頃、新潮社から「マザー・ネイチャーズ」という雑誌が出ていて、その中で立花隆さんと当時現役だった科学者との対談をまとめたものです。 昔を懐かしむのは、年をとった証拠なのかもし...

酸素に触れると死んでしまう偏性嫌気性菌ならなおさらです。

しかし、腸内細菌の解析技術がここ数年で飛躍的に進化し、腸内細菌を生きたまま増やさなくても、そのDNAを解析することで種類や働きをつかむことができるようになってきました。

その結果、私たち人間のDNAに含まれる遺伝子の数約2万2000個に対して、無数の腸内細菌のDNAに含まれる遺伝子の総数は、約330万個であることがわかったのです。

これは、現代乳酸菌科学という記事で書いたメタゲノム解析のことについていっているのだと思います。培養しなくてもどんな菌がいてどんな働きをしているのか分かるようになったそうなのです。

現代乳酸菌科学
現代乳酸菌科学という2015年12月に出たばかりの本を読みました。副題に「未病・予防医学への挑戦」とあり、内容はやさしいわけではないですが、私のような専門知識のない素人読者にも読みやすく、しかも新しい話題が多くて面白い本でした。コンパクトな...

ヒトの遺伝子の数、2万2000個に対して、腸内細菌が持つ遺伝子の総数が330万個ということは、適応力が150倍あるということです。

たとえば、人の体で分解できないものも腸内細菌なら分解できるよい例があります。人の健康に役立つといわれる食物繊維は、人は消化できません。しかし、大腸に住んでいるビフィズス菌は、これを分解し、乳酸と酢酸をつくります。

乳酸は大腸内を酸性にして悪玉菌を抑えます。そして、酢酸は大腸菌の増殖を著しく抑制し、また大腸上皮細胞のエネルギーにも直接なります。

以前、短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞が増殖するための栄養だったという記事を書きました。

短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞が増殖するための栄養だった
食物繊維をヒトは消化できませんが、かわりに腸内細菌が短鎖脂肪酸に分解します。短鎖脂肪酸は、大腸上皮細胞のもっとも重要なエネルギー源となり、血液から送られてくるものよりもずっと依存度が高いです。 短鎖脂肪酸はクサイで短鎖脂肪酸のことを少し書き

普通、エネルギー源になるのは血液を流れてくるブドウ糖です。しかし、炭素数6のブドウ糖に対して炭素数2の酢酸はすでに十分に小さいのです。

炭素数4の酪酸は、酢酸と同じ短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸は腸粘膜のエネルギー源になります。

腸粘膜は「酪酸」をエネルギー源として増殖しているのですが、この「酪酸」は、腸内細菌である酪酸合成菌の酵素によって生み出されています。この酪酸の材料にはビフィズス菌がつくる「酢酸」が使われており、ビフィズス菌を腸内で増やす食事をすることでビフィズス菌が増えると、それがつくる酢酸を酪酸合成菌が利用して酪酸をつくり腸のバリア機能の修復につながります。

この本によると、腸内細菌のうち乳酸菌の割合は0.1%くらいで、ビフィズス菌が10%くらいを占めているそうです。知らなかった。

この酪酸をつくる話はかなり重要ですね。

腸内細菌は、一人あたり1~1.5キロくらいあるそうです。種類は約1000種類、1000兆個を超える数が活動しています。

草だけを食べているウシは反芻胃を持っており、第一胃はルーメンと呼ばれます。そこにルーメンバクテリアが棲んでいて、セルロースなど消化しにくいものを分解してくれています。セルロースは、紙や綿などの材質そのものです。

しかし、ウシはセルロースを自分で分解することはできません。

ルーメンバクテリアによって、酢酸、プロピオン酸や酪酸を主体とする揮発性脂肪酸(VFA)、短鎖脂肪酸を作ります。これらはルーメン壁から吸収され、血液を介して牛のそれぞれの組織に送られてエネルギーとして利用されます。牛のエネルギー要求量の60~70%をルーメンが産生するVFAが賄っていると考えられています。

ウシは草食動物で、ヒトは何でも食べる雑食の動物ですが、消化器の中で微生物の働きにたよっているのは同じだなと思いました。

大腸の中で働くたくさんの腸内細菌は、まるで一つの臓器のようです。

環境がよくなると喘息やアトピーがよくなるのは?

田舎暮らしの本を読むと、お子さんのアトピーや病気がきっかけになっていることが少なくありません。都会の汚い空気よりも田舎のきれいな空気や水がお子さんの症状を改善する話はよく聞きます。

何となくそういうものだと思って、それ以上考えることはありませんでした。しかし、この本にはこんな風に書かれています。

ドイツやオーストリア、スイスの子どもを対象として、「農場に住む子ども」と「農場ではない地域に住む子ども」の喘息、アトピーの有病率の比較が行われました。

農場で育った子どもは、通常よりも多くの種類の微生物が住んでいる環境で育っているため、喘息やアトピーの有病率が明らかに低いことが報告されています。

言い換えれば、日常生活で多くの微生物を体内に取り入れられる環境にあり、腸内で微生物の多様性(つまりは腸内酵素の多様性)が保たれている子どもは、免疫細胞のバランスがよく、アレルギーになりにくいということです。

このように説明されると、なるほど!と思います。きれいな空気と水はその通りですが、そこにはたくさんの微生物がいました。多くの微生物が体の中に入ってくれば、それに対してからだは適応します。

寄生虫がいるとアレルギーになりにくいという話と似ていますね。多くの微生物に対応していれば、特定のアレルゲンに過剰反応しなくなるのでしょう。

カロリー制限は腸内環境とも関係している

昔から腹八分が健康によいといわれてきましたが、今は、食べないと寿命が長くなることが知られています。食べないと外見も若くなるらしく、たまに1日1食しか食べないという人に会うようになりました。ちなみに、その方から聞いた話ですが、平熱が上がるそうです。

ところで、あまり食べないようにすると腸内細菌にも影響があるようです。

カロリー制限と腸内細菌バランスの研究によると、マウスの実験で、カロリー制限によって乳酸菌の一種であるラクトバチルス菌などの善玉菌が増加。逆に悪玉菌は減少しました。

この実験では、試験区を「高脂肪食群」「低脂肪食群」「高脂肪食群(30%カロリー制限)」「低脂肪食群(30%カロリー制限)」の4つに分けたところ、「低脂肪食群(30%カロリー制限)」でもっとも寿命が延びました。

30%カロリー制限とは、マウスが食事を自由摂取した場合を基準として、カロリーに30%の制限をかけるという意味です。

食事は低脂肪食で、なおかつ、30%カロリー制限がよい。マウスの実験ですが、ヒトでも同じことがいえるのは間違いないでしょう。

もっと知りたい菌体成分

以前、死んだ乳酸菌でも効果があるという話を書きました。

死んだ乳酸菌でも効果があるという話
人の健康は腸内細菌で決まるを読みました。この本は腸内細菌の研究の第一人者、光岡知足先生の本の中で、現在、一番新しい本だと思います。この技術評論社の知りたいサイエンスシリーズは、よい本が多いです。ページ数の割に内容に広がりがあり、さらに興味が...

ヨーグルトの効果は生きた乳酸菌によるものと思われていますが、死んだ乳酸菌でも変わらないという話でした。もちろん、ヨーグルトに限らず発酵食品では微生物が活躍します。

忘れがちなのは、微生物は世代交代が早いということ。納豆をつくっているときは、種菌にした納豆菌がいつまでも生きているのではなく、分裂しながら古いものは死に、新しい菌へと世代交代していきます。その時に菌体成分が残っていきます。

植物を発酵させた伝統的な発酵食品が優れているのは、菌体成分(菌をかたちづくっている成分の総称)が豊富な点です。発酵に使われる乳酸菌や納豆菌などの微生物は、発酵の始めから終わりまで同じ菌が働き続けるわけではありません。

微生物は私たちよりももっと短いスパンで一生を終えます。数分から数時間で新しい菌と入れ替わり、働きを終えた菌は「死菌」として発酵食品中に蓄積していきます。

こうして微生物は何世代も生まれ変わり、発酵をささえています。そして、発酵が終了して完成した発酵食品には、「生きた菌」はもちろん含まれますし、発酵期間中に蓄積した死菌の菌体成分も豊富に含まれていることになります。菌体成分は腸の免疫力を高める効果があります。

菌体成分。まだそれほど話題にはなりませんが、どうして腸の免疫力を高めるのか知りたいと思います。

まとめ

この本の終わりに「編集協力 クラウドブックス株式会社 鈴木収春」と書かれていたのでサイトを探してみました。鈴木収春(すずきかずはる)さんも30代の若い社長さんでした。

クラウドブックス株式会社 -

この本は3刷、1万200部売れているそうです。内容がよいので売れるだろうなと思います。健康に関する本は出版社にもよりますが、自社商品の販促のために出版された「ヨイショ本」が実に多く、私はまず読みません。

しかし、この本は別です。実によい本です。そして、こういう本を書かれた著者の高畑宗明さんが社長さんをやっている株式会社オーエムエックスとその商品を、読んだ人はきっとよいものだと思うようになりますね。

こちらに酵素の話はまとめてあります。酵素について知りたいならまず最初にこのページから読んでほしい

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