干物の塩分は意外と少なく、 うま味は自己消化による

干物は発酵食品として知られています。塩をして乾かすので、保存性がよくなりますが塩分が多いのではないかと調べました。しかし、開いたものは意外にも少ない。丸干しは多いです。減塩時代なので冷蔵・冷凍保存前提で塩の量を減らしてあります。干物の「発酵」とは、タンパク質分解酵素と核酸分解酵素の働きによる自己消化でした。

干物

干物の塩分は多いと思ったら意外と少ない

干物はいつも食べるわけではないですが、たまに食べるとおいしいです。ほどほどに塩が効いていて、少し脂があり、おかずになります。

ただ、干物は乾燥させる前に塩をするので、塩分量が気になるところです。

干物の塩分量を日本食品標準成分表2020年版で調べてみました。

干物はたいてい、内臓を取り、開いて干します。生干し開き干しは、100gあたり0.9~2.1gと意外と塩分量は少ないのです。

食品成分 エネルギー 水分 たんぱく質 脂質 炭水化物 灰分 食塩相当量
まあじ/開き干し 150kcal 68.4g 20.2g 8.8g 0.1g 2.5g 1.7g
むろあじ/開き干し 140kcal 67.9g 22.9g 6.2g 0.1g 2.9g 2.1g
うるめいわし/丸干し 219kcal 40.1g 45g 5.1g 0.3g 9.5g 5.8g
まいわし/生干し 217kcal 59.6g 20.6g 16g 1.1g 2.7g 1.8g
まいわし/丸干し 177kcal 54.6g 32.8g 5.5g 0.7g 6.4g 3.8g
干しかれい 104kcal 74.6g 20.2g 3.4g Tr 1.8g 1.1g
さんま/開き干し 232kcal 59.7g 19.3g 19g 0.1g 1.9g 1.3g
にしん/開き干し 239kcal 59.8g 18.5g 19.7g 0.2g 1.8g 0.9g
※日本食品標準成分表2020年版(八訂)

丸干しは塩分が多い

ところが、丸干しは100gあたり3.8~5.8gと塩分量が多いです。

生の魚をそのまま置いておくと内臓から腐ります。丸干しは内臓を取らずに干すので、腐らせないようにするには塩を少し強く効かさなければいけません。

コトバンクの丸干しにはこのように書かれています。

いわしなど小型の魚や大根などを、開いたり切ったりせずに、もとの形のまま、丸ごと干すこと。また、干したもの。

丸干し

干物は塩蔵と乾燥という貯蔵法を併用した食品

伝統食品の知恵にはこのように書かれていました。

塩を使う干物についてこのように書かれています。

魚は傷みやすいので、何とか鮮度を保とうとしたのが水産加工の始まりである。(中略)このうち塩干品は塩蔵によることと、乾燥によることの二つの貯蔵法を併用した最も簡便な製品であり、また食品の貯蔵法として最も古いものの一つであろう。(中略)

塩干品は塩漬けにより塩味をつけるとともに、肉質細胞内の水分を除去し、同時に乾燥により魚肉に付着している細菌の発育を防止するものである。

元来、魚介類の肉質は七五~八五%の水分があり、栄養もたっぷりあることから生の状態では細菌の発育に最もよい培養母体になるため、気温が高い時にはその繁殖を促し、ついには腐敗に至る。

したがって、その発育に必要な水分を除去すれば細菌は繁殖せず、貯蔵の目的は達せられる。細菌の繁殖(腐敗)に必要な水分量の限界は四〇~五〇%とみて差し支えない。

では、この水分量以下にまで乾燥すれば貯蔵上、大丈夫かというとそうでもなく、腐敗はしないが今度はカビが生えてくる。このカビは水分量が一五%以下になると生えてこなくなるが、水分量一五%以下の乾製品とはカランカランに干したもので、あまりおいしいとはいえないであろう。

食塩は四~五%で普通の細菌の発育を遅らせるが、阻止する(腐敗しない)までには至らない。発育が阻止される食塩濃度は一般には腐敗菌では八~一二%、酵母(ガス発生)では一五~二〇%、カビでは二〇~三〇%であるので、食塩だけで食品の変敗を抑えることは、現在の低塩時代ではむずかしいことであろう。

「細菌の繁殖(腐敗)に必要な水分量の限界は40~50%」と書かれていましたが、上の表でその基準に達しているのは、うるめいわしの丸干しだけです。

減塩時代は冷蔵・冷凍保存が前提

今の干物は売り場でも家庭でも冷蔵庫に入れます。少し長く保存するなら冷凍してしまいます。

干物は保存性がよい発酵食品といわれますが、本来の保存性のよさを発揮するためには、もっと塩を加えなければいけないようです。しかし、現在の減塩時代には、それではしょっぱくて買ってもらえないですね。きっと。

ところで、発酵とは、微生物や酵素によってもとの材料が分解されて味がよくなることでした。漬物の場合は、塩を加えることで対塩性の乳酸菌が働いてくれるのですが、それは酸素が不要な嫌気的な条件下のことでした。干物は、空気乾燥ですから、まったく条件が違います。

しかも、細菌(=雑菌)の発育を防止するには、塩が少ない状態です・・・。干物の発酵とは何でしょう?

干物の「発酵」は、タンパク質分解酵素と核酸分解酵素の働きによる

干物の発酵は、微生物の働きによるものではなく、自己消化によるものです。タンパク質分解酵素と核酸分解酵素が働きます。タンパク質はアミノ酸になり、核酸は、たとえばうま味成分であるイノシン酸に変わります。

アジ干物製造工程における遊離アミノ酸および脂質量の変化を読みました。アジ干物のうまみがどこから出てくるか書かれていました。

このうま味の一因として、乾燥工程における水分量の減少により、魚肉中の呈味成分が濃縮されることがあげられる。また呈味成分の中で遊離アミノ酸および核酸は、タンパク質および核酸分解酵素の働きにより分解生成物が生成されれば、濃縮される以上に濃度が高くなることが考えられた。

さらに論文の終わりにはこのように書かれていました。

乾燥前の重量に換算したアジ干物試料の遊離アミノ酸量は生アジ試料のそれらより多くなっていた。このことは本研究で行ったアジの乾燥工程で、アジ組織中のタンパク質分解酵素が働き、新たな遊離アミノ酸が生成されたためと考えられる。

したがって、アジ干物には、濃縮された以上に高濃度の遊離アミノ酸が含有されていた。また、脂質量は干物の製造工程においてほとんど変化していないことから、脂質量変化より遊離アミノ酸の増加の方が干物の呈味性に影響を与えているものと推察された。

NOTE

私は北海道で育ったので居酒屋で「ほっけ」があったらまず注文します。ほっけは脂がありなかなかうまい。ただ、東京では北海道サイズのほっけの開きは食べられません。

以前、北海道の友人に送ってもらったのは、昔から知っているサイズでした。子供の頃、大きなほっけを平らげた時に、何となくエラくなったような気がしたことを思い出します。

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