徳島のねさし味噌と御膳味噌

徳島県でつくられている「ねさし味噌」は、豆味噌です。3年寝かせているのですが、「寝かせる」ことを「ねさし」といったのです。豊臣秀吉の家臣だった蜂須賀正勝・家正父子が、尾張国から移り住んだのがきっかけでつくられるようになりました。また、殿様に出す、麹歩合15割の米味噌、御膳味噌も元禄年間からつくられるようになりました。

味噌大全を読んでいたら面白いことを知りました。

阿波のねさし味噌は豆味噌

徳島には「ねさし味噌」という変わった名前の味噌があるのです。しかも、米麹を使わない豆味噌です。

徳島県は大豆の生産も盛んであったことから、大豆のみそを原料とする豆味噌も作られました。このうち、「ねさし味噌」は工業生産もされている豆味噌です。名称は長時間床に「寝さし」て熟成させることからきているようです。

伝承によれば天正一三年(一五八五)豊臣秀吉の家臣であった蜂須賀正勝・家正父子が、尾張国(現在の愛知県)から阿波国に移ったのち、豆味噌作りがはじまったそうです。

尾張国は豆味噌文化圏の中心地ですから、蜂須賀家臣団によって当地に持ち込まれたことは確実でしょう。

「ねさし」は、「寝さす」だったんですね。これはひらがなだけ読んでもなかなか想像できないです。

蜂須賀氏が尾張国から阿波国に移り住んだ

ところで、蜂須賀父子はなぜ、秀吉から阿波(徳島)へ行くように命ぜられたのでしょう。私は歴史が、からきしダメなので調べました。

この頃、土佐国(高知ですな)の戦国大名だった長宗我部元親(ちょうそかべ もとちか)が勢力を拡大し、四国を平定していたのです。これが原因で豊臣秀吉と対立し、安土桃山時代の1585年(天正13年)に、秀吉は四国攻め(しこくぜめ)を行い、長宗我部元親は敗れたのです。

それで、阿波国は、家臣の蜂須賀氏に任せられたということなのです。

新しい殿様が愛知から来たので、口に合った豆味噌が作られるようになったということです。

ねさし味噌のつくり方

実際にどのように作るのか。徳島県阿波市にある三浦醸造所のサイトに詳しい説明がありました。

三浦醸造所 製品について ねさし味噌(豆味噌)
江戸時代から続けている三浦醸造所です。じっくり熟成させた豆味噌を家族の絆でお届けします。

詳しくはサイトを見ていただくのが一番ですが、簡単に書いておくとこのようになります。

3年間熟成させる

  1. 寒い季節に仕込む(寒仕込み)。
  2. 蒸した大豆を成形して稲わらのむしろの上に並べる。
  3. 40~60日程度そのままに毛カビが生えるのを待つ。
  4. 毛カビが生えたら塩・水と撹拌し仕込み桶に入れ3年間熟成させる。

三浦醸造所のねさし味噌は、750gで2,650円(消費税別)となかなかよいお値段がしますが、八丁味噌と風味にどんな違いがあるか味わってみたいです。(サイトから注文できます)ちなみに、20年熟成させたねさし味噌も買えます。

そして、もう一つ、米麹を多く使った赤味噌も作られています。

阿波の御膳味噌

こちらは、豆味噌ではなく米麹を使った甘口系の赤味噌です。御膳は、殿の御膳ということです。

阿波とは現在の徳島県にあたります。この徳島県で作られる「阿波の御膳味噌」は、多糖多塩で赤色、甘口系の浮き麹味噌です。江戸時代の元禄年間(一六八八~一七〇四年)に城下の古物町に住む市原氏なる人が、目白大豆と白麹(米麹)を合わせて作りだしました。名称は阿波藩主・蜂須賀公の食前に供されたことによるそうです。

最初のうちは高級味噌として、限られた人しか口にできませんでしたが、やがて武士や町人にも販売されはじめて裾野(すその)を広げていき、明治維新を乗り越えて徳島県が誇るブランドへと成長しました。

目白大豆とは、栽培されていた大豆の品種のようです。わざわざ目白大豆と書かれていたので、特別な意味があるのかと思いました。

味噌風土記徳島にもう少し詳しい説明がありました。

御膳味噌は江戸時代、関西で評判の味噌だったそうです。

御膳味噌がこのように好評を博したのは,阿波目白大豆とよばれる良質の大豆が藍の栽培の間作に作られ,その余肥に浴して肥大美味が味噌に好適して特有の風味を醸したもので阿波の風土に根を下した御膳味噌の伝統は今もなお生きて世の好評を博しているのである。

徳島県は藍染めの藍の産地として有名ですが、その合間に大豆が作られていて、藍の栽培の肥料のおかげで、良質な大豆になったということです。

御膳味噌のつくり方

伝統的な作り方はこのように書かれていました。

仕込は大寒中に行なわれ,大豆1斗を水に一夜漬けてから蒸し,上の皮を去る。煮たのでは味が抜けるので蒸したものと考えられる。

これに白米こうじ1斗3升,塩3升(ただし越年用には3升3合)を,さらに餅米1升半を強飯に炊いて冷まして加える。

蒸しあがった大豆は揚き合わせて,一夜風にあててそのまま放置し,翌日一握りほどの玉に固めて,100日ほど風にあてておき,その後包丁で細かに切り,乾燥したら臼でよく搗いて,もし水気があれば影干してやや乾いた位の時に桶に入れ,十分に突ぎ入れて仕込む。

表面に紙をはって蓋をしておく。塩は撒いてはいけないとされていた。また,桶は小さな桶へいくつにも分けて入れる方がよいとした。300日程で熟成が完了する。

麹歩合(約)15割の味噌ということでしょうか。麹が多めですが、1年近い時間をかけてつくる味噌です。

ねさし味噌で紹介した三浦醸造所では、御膳味噌より贅沢な二十割糀味噌を販売していました。

三浦醸造所 製品について 二十割糀味噌
江戸時代から続けている三浦醸造所です。じっくり熟成させた豆味噌を家族の絆でお届けします。

NOTE

四国の中で徳島県だけで豆味噌がつくられていると聞くと、「何でだろう?」と思いますが、説明を読めば納得します。本当に当たり前のことなのですが、変わったことがあると、かならず理由があるものだと改めて思いました。

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