味噌は賞味期限切れでも食べられないわけではありませんとメーカーサイトに書かれていました。味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品で一体いつまで食べられるのかよくわかっていません。味噌の賞味期限は、大体6ヵ月になっている場合が多いです。味噌の品質の変化は温度によって変わります。冷蔵庫で保存すると賞味期限切れ6ヵ月でもおいしく食べられます。
賞味期限切れの味噌は食べられない?
たとえば、ハナマルキのサイトにあるよくあるご質問には、「賞味期限が過ぎてもご使用できなくなるわけではございません」と書かれています。
賞味期限が切れたみそは食べても大丈夫でしょうか?
みそは発酵食品であり、古くから保存食として使用されてきました。このため、賞味期限が過ぎてもご使用できなくなるわけではございませんが、風味に変化が生じてしまいますので、賞味期限内にお召し上がりください。
「賞味期限が過ぎてもご使用できなくなるわけではございません」が、メーカーとしては「賞味期限内にお召し上がりください」なのでしょう。
ところで、賞味期限のほかに消費期限というのもあります。どのような違いがあるのでしょう?
賞味期限は「品質が変わらずにおいしく食べられる期限」消費期限は「安全に食べられる期限」
農水省のサイトに消費期限と賞味期限という記事がありました。
賞味期限の方が短く、賞味期限が切れてもまだ食べられることがわかります。
賞味期限
袋や容器を開けないままで、書かれた保存方法を守って保存していた場合に、この「年月日」まで、「品質が変わらずにおいしく食べられる期限」のこと。
消費期限
袋や容器を開けないままで、書かれた保存方法を守って保存していた場合に、この「年月日」まで、「安全に食べられる期限」のこと。
味噌の賞味期限はどのくらいあって、また、どうやって決まるのでしょう?
味噌の賞味期限は製造後6ヵ月が一番多い
以前、味噌の賞味期限はどのように決まるか?に書きましたが、味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品なのです。今まで食中毒などの事故がなく、一体いつまで食べられるのかよくわかっていません。ここは重要です。覚えておいて下さい。
ただ、火入れをするわけではないので、少しずつ品質が変化するのは間違いありません。
賞味期限はメーカーが決めます
賞味期限はメーカーが決めます。味噌は古くなるにつれ色が濃くなり、風味が変わっていきます。賞味期限は、もとの味噌に比べて色が変わり焦臭を感じると評価される時点を目安に決められます。もっとも、それよりずっと前に設定されていますが。
味噌にはいろいろ種類があり、一律に状態が変化するわけではありませんが、一番多い賞味期限は、製造後6ヵ月です。
味噌の賞味期限の目安は、一般社団法人中央味噌研究所からこのように発表されていました。
米みそ | 麦みそ | 豆みそ | 調合みそ | ||
甘みそ | 辛口みそ | ||||
常温流通 | 3~6ヵ月 | 3~6ヵ月 | 3~12ヵ月 | 6~12ヵ月 | 3~12ヵ月 |
これは、日本醸造協会誌/93 巻 (1998) 7 号に収められたみその期限表示と栄養表示に書かれていました。
賞味期限切れ後の味噌の変化は、みその保存試験結果と官能試験結果から予想できる
中央味噌研究所が賞味期限設定のために実施した、みその保存試験結果と官能試験結果を読むと、種類の異なる味噌が賞味期限切れ後、どのように変化していくか予想できるようになります。
味噌は6種類用意されていました。
第1表 試験したみその種類及び特徴 | |||
みその種類 | 使用原料 | 麹歩合(歩) | 塩分(%) |
米・甘味噌(白) | カナダ産大豆使用(脱皮) 原料米→タイ米 |
18.5 | 6.2 |
米・淡色系・辛口・こしみそ | 中国産大豆使用(脱皮) 原料米→タイ米 |
8.0 | 12.0 |
米・赤色系・辛口・麹粒みそ | 中国産大豆使用(丸大豆) 原料米→タイ米 |
8.3 | 12.0 |
米・赤色系・辛口・こしみそ | 中国産大豆使用(丸大豆) 原料米→タイ米 |
6.2 | 13.0 |
麦味噌・淡色系 | 中国産大豆使用(丸大豆) 原料米→オーストラリア産 漂白剤使用 |
20.0 | 10.5 |
豆みそ | アメリカ産大豆6割、中国産 4割(丸大豆)赤だし 加熱殺菌(80~84℃) |
― | 10.5 |
※みその期限表示と栄養表示 |
上の味噌の中で、「米・淡色系・辛口・こしみそ」は、ハナマルキのサイトのみその種類に書かれていました。信州味噌のことです。
淡色みそは黄味を帯びた淡い色(山吹色)のみそのことで、信州みそはこれにあたります。
5℃、20℃、30℃での6ヵ月の保存実験
味噌は上の表にあるようにいくつか種類があります。それぞれの味噌について、5℃、20℃、30℃での6ヵ月の保存実験が行われました。
5℃は冷蔵庫の温度。20℃は常温。30℃はやや過酷な温度です。6ヵ月間の表面色の変化と4ヵ月経過時の色、香りと味について官能審査が行われました。
試験の詳しい内容はみその期限表示と栄養表示を読んで下さい。
6ヵ月間の表面色の変化について
5℃で保存したものはどの味噌も6ヵ月間表面色にほとんど変化はなく、20℃で保存したものは色の濃い豆みそ以外の味噌は保存日数の経過とともに色が濃くなりました。30℃で保存したものは豆みそを除いて試験開始後1、2ヵ月で急激に色が濃くなりました。
保存開始から4ヵ月後に行われた官能審査について
官能審査は、保存試験開始から4ヵ月経過した時点で行われました。色、香りおよび味について、対照品(冷凍保存のもの)と比較してA~Dの間で評価されました。
- A:対照品よりよい
- B:対照品と差はない
- C:対照品より劣るが許される範囲にある
- D:商品価値はない
下に表を載せてあります。見ながら読んで下さい。
5℃で保存すれば味噌の色・香り・味は変化しない
5℃は冷蔵庫の温度です。買って来た味噌を冷蔵庫で保存すれば、4ヵ月経っても色・香り・味は変化しません。冷蔵庫に入れましょう。
5℃で保存したものは4ケ月経過した後でも試験した6種類のみそをすべてが色,香り,および味の評価にCやDの評価はなく,A(対照品よりよい)やB(対照品と差はない)の評価であった。
20℃(常温)保存では味噌の種類によって変化にばらつきが出てくる
20℃は常温のことです。20℃4ヵ月保存では、意外にも変化しやすいといわれる甘味噌がほとんど変化せず、淡色系味噌は熟成され、対象品よりも味がよくなりました。一方、持ちがよさそうな赤色系から口味噌は、色・香り・味とも落ち始めていました。
甘味噌
一般的に賞味期限が短いと考えられている甘味みそも20℃で保存した場合,色,香り,味とも約60%以上がAまたはBの評価であり,香りや味でDの評価をした審査員が若干名あった。
淡色系味噌
淡色系味噌は、上で書いたように信州味噌のことです。山吹色の信州味噌を常温で保管しておくと、4ヵ月後には味がよくなるのです。
また淡色系みそは香りや味の評価については4ケ月経過したものであっても約半数の審査員がAの評価をしていたが,色については評価が分かれ,淡色系みその評価基準は審査員により,淡色系みそとしての色の範囲を限定して評価したものと,みそとしての色調の良し悪しで総合的に評価をした違いが現れたものと思える。
赤色系味噌
意外にも、「持ち」がよさそうな赤色系の味噌は味が変わりやすいようです。4ヵ月でC評価が多いので、常温保存では賞味期限切れになると味が変わっているのかもしれません。
米・赤色系から口みそは2種類ともBやCの評価が多く,色や香りについては審査員の50%以上がCと評価した。
30℃保存では豆味噌以外色が変わるが香り・味は持つ
30℃で保存すると味噌の色が変わってしまいますが、4ヵ月では香り味はまだ何とか大丈夫のようです。しかし、もっと時間が経つとこの条件では変化してしまうでしょう。
30℃で保存したみそは2ケ月経過した時点で豆みそを除いて色の評価が著しく劣り,審査員の半数以上がDの評価をしたが,香りや味については約半数がBまたはCの評価であり,着色が進行していても香りや味などの風味は損なわれていないと判定されている。
第3表20℃で4ケ月間保存したみその官能審査結果 | ||||||
審査用語 | ||||||
試料 | A | B | C | D | 合計 | |
米・甘みそ | 色 香り 味 |
35 22 19 |
27 35 59 |
38 40 16 |
― 3 6 |
100 100 100 |
米・淡色系から口こしみそ | 色 香り 味 |
32 51 51 |
6 14 29 |
43 32 17 |
19 3 3 |
100 100 100 |
米・赤色系から口こうじみそ | 色 香り 味 |
9 14 12 |
15 46 26 |
67 54 39 |
9 6 3 |
100 100 100 |
米・赤色系から口こしみそ | 色 香り 味 |
9 6 11 |
28 36 34 |
58 53 43 |
5 5 12 |
100 100 100 |
麦味噌・淡色系 | 色 香り 味 |
28 32 47 |
11 33 22 |
58 32 31 |
3 3 ― |
100 100 100 |
豆みそ | 色 香り 味 |
3 9 ― |
79 80 88 |
18 11 12 |
― ― ― |
100 100 100 |
※みその期限表示と栄養表示 |
この試験は、一般人ではなく味噌の専門家だけで行われているので、結果はかなり厳し目であるということでした。
ネットでもっと長い期間味噌を保存する論文を時間をかけて探しました。すると、雪室保存した味噌の品質という論文が見つかりました。
低温で1年の保存試験
雪室のような低温下で味噌を長期保存し、味噌がおいしく品質が上がるのかどうか2回試験をしたのです。
保存環境は、3ヶ所。雪室が0~6℃。冷蔵庫は5℃設定ですが、0~8℃。常温下は4~28℃の環境でした。
実験に使う試料となる味噌は2つありました。
やや未熟な味噌
麹歩合6.7歩の味噌は赤味噌ですね。1回目の試験に使われた味噌です。
この味噌は麹歩合 6.7歩,予定塩分 12.2%であった.(中略)仕込時に酵母を添加し,発酵・熟成は 30℃にて約 2ヶ月,以後常温にて約1ヶ月熟成を行った.(中略)発酵・熟成具合はやや末熟であった.供試味噌は防湧用のアルコールを加えず,1kgをプラスチックカップに入れ,アルミ製のトップシールをせずにプラスチック製の蓋のみをして保存した.
適熟の味噌
こちらの味噌は麹歩合が高めです。2回目の試験に使われました。
この味噌は麹歩合 10歩,予定塩分 12.5%とやや高麹であった.(中略)仕込時に酵母を添加し,発酵・熟成は 30℃にて約2ヶ月,以後常温にて約1ヶ月熟成を行った.発酵・熟成具合は中庸(適熟)であった.供試味噌は防湧用のアルコールを加えず, 1回目同様の状態で保存した.
これらの味噌について官能評価が行われました。
雪室保存品と冷蔵庫保存品は12ヵ月後に味の評価が向上した
どちらの味噌も雪室と冷蔵庫で保存したものは12ヵ月後品質が向上していました。一つ前の実験では、20℃保存の場合、赤味噌は4ヵ月で味が落ち始めていましたが、低温下では味が向上していました。
1回目の雪室保存品の味の評価は 6ヶ月後では同等で 12ヶ月後には向上した.冷蔵庫保存品は雪室と同様に推移した.一方,常温保存品の味の評価は 6ヶ月後に過熟気味で低下12ヶ月後ではさらに香りの評価も著しく低下した.
2回目の雪室保存品の味の評価は開始時から徐々に向上し 12ヶ月後が最も高かった.冷蔵庫保存品は雪室と同等であった.一方,常温保存品の味の評価は 3ヶ月後には一旦向上するものの,以後は過熟臭味が強まり著しく低下した.
賞味期限切れ味噌はいつまで食べられるか?
これまで書いて来たように、味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品で、今まで食中毒などの事故がなく、一体いつまで食べられるのかよくわかっていません。味噌汁はすぐ腐りますが、味噌は腐るのかどうかわからない。そういう食品です。賞味期限が切れても食べられないことありません。
保存中の味噌の変化は、色が濃くなり味に苦味が加わり、香りに焦臭が加わります。
味噌の保存温度が重要である
これまで紹介した2つの実験から、味噌の変化には保存温度が大きく関係していることがわかります。5℃ではほとんど変化がなく、20℃では、味噌の種類によって変化にバラツキがあり、30℃では変化のスピードが速くなります。
賞味期限切れの味噌が(おいしく)食べられるかどうかは、保存温度によります。
冷蔵庫保存なら賞味期限切れ6ヵ月の味噌は余裕で食べられる
味噌の賞味期限はメーカーが決めるのですが、大体製造後6ヵ月に設定する場合が多いです。上で紹介した雪室保存の実験から、冷蔵庫に保存しているなら、12ヵ月後、つまり賞味期限切れ6ヵ月後に食味が向上しています。余裕でおいしく食べられます。
賞味期限切れ1年、2年の味噌は食べられるか?
では、賞味期限切れ1年、2年経った味噌は食べられるのだろうか?冷蔵庫に入っているなら食べられるでしょう。ただし、賞味期限切れ6ヵ月の味噌より、色が濃くなり、香りも落ちているでしょう。
ちなみに、これはうちにある平成27年(2015)に仕込んだ米味噌です。マニアックな知人に今年9月に送ってもらいました。色がほぼ黒くて、焦臭もありますが、食べられます。冷蔵庫に入れています。白味噌と混ぜたりカレーに入れてます。
開封後の賞味期限切れの味噌は?
味噌のパッケージを開けて使い始めると、空間が増えて空気にふれます。表面が乾き、色が変わってくるのはよく経験することです。長い間冷蔵庫の奥に忘れられていると、色が黒ずんでいるかもしれません。しかし、表面を取り除いた下の部分はおいしく食べられます。
もちろん、色が変わっていたら、少し味を確かめてみてください。
NOTE
”みそは長期間保存したものでも衛生上危害が発生する可能性はまったくなく,過去にみそによる食中毒の事例は報告されていない。”と書かれていましたが、すごいなと思いました。
しかし、考えてみると、お酒も寝かせて古酒を楽しむ人がいます。澤乃井の小澤酒造を見学に行ったが気温は30℃でしたに書きましたが、蔵の中には17年眠らせている純米大吟醸酒がありました。ワインも寝かせるのが当たり前。
そう考えると、空気にふれさせないように低温で管理すれば持つのは当たり前かもしれません。