味噌の賞味期限は、傷んだわけではないですが、色が黒っぽくなり強い焦臭を感じる時点を基準に決められます。というのも、味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品だからです。味噌には種類があるので一律に決められないですが、賞味期限6ヵ月が一番多いようです。
味噌の賞味期限はどのように決まるか?
普段、ほとんど気にしていませんが、味噌の賞味期限はどのように決まるのでしょう?味噌は製造するのに時間がかかるので賞味期限も長いのだろうと漠然と思います。
味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品
味噌の品質保持を読むと、興味深いことに、味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品だと書かれています。つまり、どの時点で味噌が完成したことになるのか、はっきりしないというのです。
味噌には熟成という明確な概念がなく,独立した熟成工程というものも存在しない。あえて言えば,主発酵工程がすなわち熟成工程である。したがって,味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない奇妙な食品である。
酵素反応も微生物活動も緩慢で低いレベルで反応が止まってしまうこと,さらにおりさげなどの発酵以後の工程が不要なためである。しかし通常は,火入れ工程がなく,酵素活性も微生物も「生きたまま」出荷されるため,緩慢ではあるが反応は進行し続ける。また,褐変のような化学反応はむしろ進行しやすい成分組成である。
おりさげとは、お酒の滓(おり)が沈殿するのを待つことです。味噌は液体ではないので、必要ないですね。
さらに、日本酒は火入れをして発酵を止めますが、味噌は火入れせずそのまま出荷するので品質はゆっくりと変化します。
味噌で食中毒になったような事故はない
品質は変化するものの、(いたんだ)味噌を食べて食中毒になったような事例はないそうです。この論文は1995年のものですが、昭和23年は1948年です。
世の中にはいろいろなタイプの人がいるので、一定割合、チャレンジャータイプの変わったことをする人がいます。例えば毒キノコを食べてみるような人です。しかし、長い間、味噌を食べて食中毒などの事故がないということは、味噌は腐らないとはいえないですが、極めて品質が安定しているといえそうです。
このように時間の経過とともに品質変化はまぬがれないが,幸いに,味噌による健康被害があったという例はなく,食品衛生法が公布された翌年(昭和23年)以来厚生省が発表している「食中毒事件録」にも味噌による事故の記録がない。
味噌には「おいしく食べられる」賞味期限だけが付けられている
味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品で、食中毒になった事例もない。しかし、消費者としては「一体いつまで食べられるのか?」が知りたいものです。そのため、味噌には「おいしく食べられる」賞味期限だけ付けられています。
前述したように味噌は極めて安全な食品であるため,業界の統一見解として「賞味期限」という表現を用いることにしたが,流通関係からは「品質保持期間」をという要望が多い。
「賞味期限」は文字どおり,おいしく食べられる期限であるから,期限を過ぎても食べられなくはない。一方「品質保持期限」はその期限を過ぎると危険が予想されて食べられないというニュアンスがある。
味噌がほかの食品と同じように目にみえて腐っていくなら「品質保持期間」が決められると思いますが、何しろよくわからないということですから決められないですね。
ところで、賞味期限を決めるのは誰なのでしょう?
賞味期限を決めるのは製造業者
味噌の賞味期限は、製造業者が自分で試験をして決定するのです。
農水省のサイトにあった加工食品の表示に関する共通Q&A(第2集:消費期限又は賞味期限について)に書かれていました。消費者庁食品表示課による文書です。
ちょっと長いですが、引用します。製造業者が賞味期限を決めます。
Q6 誰が消費期限や賞味期限を決めているのですか。
消費期限又は賞味期限の設定は、食品等の特性、品質変化の要因や原材料の衛生状態、製造・加工時の衛生管理の状態、容器包装の形態、保存状態等の諸要素を勘案し、科学的、合理的に行う必要があります。
このため、その食品等を一番よく知っている者、すなわち、原則として、
① 輸入食品等以外の食品等にあっては製造業者、加工業者又は販売業者が、
② 輸入食品等にあっては輸入業者(以下、製造業者、加工業者、販売業者及び輸入業者をあわせて「製造業者等」という。)が責任を持って期限表示を設定し、表示することとなります。なお、消費期限又は賞味期限の表示に限らず、食品等への表示は、これらの製造業者等が行うものです。したがって、各製造業者等においては、設定する期限について自ら責任を持っていることを認識する必要があります。
さらに、賞味期限を決める根拠となる試験も行うことが明記されています。
Q7 どのように、消費期限や賞味期限を設定しているのですか。
期限の設定を適切に行うためには、食品等の特性、品質変化の要因や原材料の衛生状態、製造・加工時の衛生管理の状態、容器包装の形態、保存状態等の当該食品等に関する知見や情報を有している必要があることから、製造業者等(表示義務者)が期限の設定を行うことになります。
このため、製造業者等において、客観的な期限の設定のために、微生物試験、理化学試験、官能試験等を含め、これまで商品の開発・営業等により蓄積した経験や知識等を有効に活用することにより、科学的・合理的な根拠に基づいて期限を設定する必要があります。
最後に「科学的・合理的な根拠に基づいて期限を設定する必要があります」と書かれていますが、いままで書いて来た通り、味噌は食べ頃も品質劣化の始まる時期もはっきりしない食品であるが、品質はゆっくりと変わっていく食品です。
これは困ります。
着色現象が著しく進行し強い焦臭を感じるまで
味噌についてご存知の方はよく分かる話です。味噌は古くなると色が黒くなり味に苦味が出てきます。だから食べられないというわけではありませんが、もとの味噌から明らかに色や味が変わったとわかる時点を基準にして、それよりも前に賞味期限を設けたということです。
賞味期限は科学的,合理的な根拠に基づき設定するとされているが,この変化の度合いを科学的に体系づけられた方法で説明することはかなり困難である。みそ業界では前述の試験の結果より,賞味期限の設定にあたっては着色現象が著しく進行し,強い焦臭を感じると評価される時点を目安とした。
しかし、味噌には種類がいろいろあります。もともとの色も味も違います。一律に賞味期限が決められるわけではないです。
味噌の賞味期限は、だいたい次のような基準があるようです。常温というのは20℃です。かなり幅があります。
米みそ | 麦みそ | 豆みそ | 調合みそ | ||
甘みそ | 辛口みそ | ||||
常温流通 | 3~6ヵ月 | 3~6ヵ月 | 3~12ヵ月 | 6~12ヵ月 | 3~12ヵ月 |
一般社団法人中央味噌研究所が賞味期限設定のためにみその保存試験と官能試験を行って、目安が公開されているのです。
賞味期限6ヵ月が多い
メーカーは、せっかく作った味噌をおいしく食べてほしいという気持ちと、(できるなら)早く食べてほしい気持ちが当然あります。賞味期限は6ヵ月が一番多いですが、本当は短くしたいのかもしれないですね。気持ちはとてもわかります。
全国の味噌製造企業(11,665社)を対象にしたアンケート「賞味期限を設定する場合,その期間はどのくらいが適当か」という問いに対しては,6カ月以上21.8%,6カ月33.5%,5カ月4.9%,4カ月8.8%,3カ月26.5%,その他4.5%(全国味噌工連,回答率49.7%)となり,期間の短いものの比率が著しく高い。
賞味期限は未開封が前提
最後に忘れるところでしたが、賞味期限は未開封の味噌についての話です。開封すると空気にふれます。また、使い始めるとカップのような容器なら、空間があいて来るので、その分常時空気にふれることになり状態が変わりやすくなるので、賞味期限内だから大丈夫とはいえなくなります。
もっとも、それも味噌表面の話で、たとえ表面が黒ずんだり色が変化しても、内部の空気に直接ふれない部分はあまり変化しないでしょう。ただ、原則、賞味期限は、未開封の味噌についての話だとご理解ください。
NOTE
味噌の賞味期限を決める話で、覚えておくべきことは、味噌がいつになったら食べられなくなるのかよくわかっていないことです。表面にカビが生える話は聞いたことがありますが、腐るのかどうかわからないのです。
味噌汁は腐りますが、私は味噌が腐った話は聞いたことがありません。
以前、知人から10年ものの味噌をもらいました。このように真っ黒い味噌です。苦味があり、まろやかな味とはいえませんが、袋を開けた時に、吟醸酒のような吟醸香がかすかにしました。
もちろん、食べられます。白味噌を買ってきて混ぜて使いました。
もちろん、味噌の状態は、時間とともに変わっていきます。食べられるかどうかは、ちょっと味見してみて決めることですね。